2017
07.27

少女は絶望を呼び、希望を運ぶ。『ディストピア パンドラの少女』感想。

The_Girl_with_All_the_Gifts
The Girl with All the Gifts / 2016年 イギリス、アメリカ / 監督:コーム・マッカーシー

あらすじ
先生、お話をして。



ウィルスにより人類のほとんどが凶暴な「ハングリーズ」と化した近未来。生き残った人々が暮らす壁に囲まれた基地内では「セカンドチルドレン」と呼ばれる特殊な子供たちが収容され、うち一人の少女メラニーを中心に事態は変化していく。M・R・ケアリーの小説『パンドラの少女』を実写化したSFスリラー。

刑務所のような施設で暮らす子供たちを、銃を持った兵士たちが監視し、授業を受けさせる。そんな不可解な状況での緊迫感から始まる本作。やがて人間を狂暴な人食いの化物、ハングリーズに変えるウィルスにより人類は絶滅寸前、これを治癒するためのワクチン開発を目指していることがわかってきます。言ってしまえばゾンビものの一種ですが(劇中では一度もゾンビとは呼びませんが)、「セカンドチルドレン」の少女、メラニーの存在に独自性があります。思考し会話もする、高いIQを持ち、感情もある、しかし彼女は人間と呼べるのか。彼女と道中を共にすることになる大人たちは、危機と機会という二重の意味で彼女を無視できないのです。これが面白い。

メラニー役のセニア・ナニュアは500人のオーディションを勝ち抜いただけあって存在感あります。そんなメラニーと絡むのが『007 慰めの報酬』ジェマ・アータートンの教師ヘレン、『ボーン・アルティメイタム』パディ・コンシダインのパークス軍曹、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』グレン・クローズのコールドウェル博士ら。この大人たちがメラニーと一緒に、葛藤と危険とサバイブに満ちたロードムービーを繰り広げます。ちなみに『怪物はささやく』でもそうでしたが、脚本は原作の著者自身だそうです。

本作のゾンビ(ハングリーズ)は走る系ですが、それを動だけでなく静でも見せるのがスリリング。閉塞感ある施設、開けた外界に待つ地獄、荒廃した街並みといった世界観は、ディストピアではなくポストアポカリプスなのでは……とも思いますが、最後まで観るとこの邦題の持つ意味がわかって震えます。

↓以下、ネタバレ含む。








生まれたときからウィルスに感染しているためか、見た目も普通で思考もまともなセカンドチルドレン。しかし僅かな刺激でたちまちハングリーズとして襲ってくるという危険性も持つ子供たち。ゾンビ化しかけてる人間をどちらと見なすかも難しいですが、本作では人間とゾンビの両方の性質を持つ者をどちらと見なすか、しかもそれが未来を担うはずの子供たちであるというのがポイントですね。そしてメラニーを人間と見なす教師ヘレンと、メラニーをワクチンの材料としたい科学者コールドウェル博士、とにかく目の前の道を切り開く軍人パークス軍曹ら、というパーティが、考えうる立ち位置を必要最低限で表しているのも好ましいです。

メラニーは難解ななぞなぞにも答えるし、ヘレンが自分とメラニーたちを模した物語も好んで聞くし、ハングリーズ突破の道を自ら提案して実践する理性も持っていて、人間として扱いたいヘレンの気持ちもわかります。しかしメラニーは施設から出たときに周囲につられて人間を襲い、気絶していたヘレンはその姿を見ていないんですね。口の回りを血で汚しながら普通に会話するゾンビ少女の姿が、希望と絶望を同時に感じさせるのが面白いです。加えてヘレンと博士による道徳観と使命感という対立が、単なるエゴではなくどちらも理がある、というのが 悩ましい。

走る系のゾンビによるスピード感はかなりのもの。手術室で窓際にいる助手のところに窓向こうから駆けてくるゾンビや、外に出たときにグルリと見渡す地獄絵図などはフレッシュです。物量も『ワールド・ウォーZ』ほどではないもののそれがかえってちょうどよい「多すぎ感」がありますね。一方で音に反応するからとゾンビの群れを物音立てずに突破するというのがスリルで、その静寂を破るのが博士の好奇心という利己的な理由であるのも人間の愚かさと言えて、ゾンビものの要点をしっかり押さえてます。軍曹の部下がスーパーで出会った野良チルドレンを追いかけたら囲まれてた、というのは『ジュラシック・パーク』を彷彿とさせますよ。あとゾンビになりそうな人をゾンビが殺してあげる、というのは新しいかも。ただ博士が最後にメラニーを追いかけて野良チルドレンにやられちゃうのはちょっと不可解ですかね。

メラニーは「パンドラの箱」に例えられます。それはあらゆる災いの詰まった箱、しかしその底に最後に残るのは希望。確かに最後にメラニーが作り上げた新たな学校は、無学な子供たちが教育を受け成長していくという点で新世界の希望と言えるでしょう。しかしヘレンにしてみれば、一生あのキャンピングカーの中で生きていくことに他ならない。そこにあるのは新たな管理社会であり、旧人類には絶望でしかないディストピアです。このラストのうすら寒い終末感が秀逸です。

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