2017
06.30

揺るがぬ正義、取り戻す正義。『コール・オブ・ヒーローズ 武勇伝』感想。

Call_of_Heroes
危城 Call of Heroes / 2016年 中国、香港 / 監督:ベニー・チャン

あらすじ
私は牛肉が嫌いだ。



1910年代、内戦下の中国で虐殺の限りを尽くすツァオ将軍の軍勢。自警団の守る貧しくも平和な普城の村に、その将軍の息子で残虐非道なチョウ・シウロンが立ち寄ったことで、村は未曾有の危機に晒されることに……。『新少林寺 SHAOLIN』のベニー・チャン監督、『おじいちゃんはデブゴン』のサモ・ハンがアクション監督の香港アクション。

争い渦巻く1910年代の中国を舞台に、とある平和な村に突如襲い掛かる理不尽な事件。それは何の罪もない村人が、気まぐれで殺されるというものだった!そこから始まる、正義は負けないと信じる自警団vs人なんて殺してなんぼというクズ権力者、という対立が、立場や信念を伴って展開されます。怒り、諦念、葛藤、再起といった重厚なドラマ、それを彩る派手なアクション、まるで西部劇のように語られる一大抗争。こんなの面白くないわけがない!

飄々とした"英雄"マー・フンに『激戦 ハート・オブ・ファイト』のエディ・ポン、絶対正義のヤン団長に『ヒーロー・ネバー・ダイ』『奪命金』のラウ・チンワン、この二人が全くタイプは異なるのに、共にカッコよいの極みで最高。彼らと戦うことになる敵軍隊長チョン・イックは『ドラゴン×マッハ!』のウー・ジン、終始冷静な表情は荒木飛呂彦先生にしか見えず困りましたが、激強さ最高。そして残虐王子チョウ・シウロンは『ドラッグ・ウォー 毒戦』『ドラゴン×マッハ!』のルイス・クー、クズを通り越してサイコパスな悪役が強烈です。

ワイヤーを駆使し、特異なフィールドで展開するアクションは編集の上手さもあって見応えあり。使う武器が剣だけでなく、ムチやトンファー、三節棍と多彩なのも燃えます(ちなみにトンファー使い、チャン・ウー役のサミー・ハンはサモ・ハンの息子だそうな!)。守るべき正義とは一体誰のための正義なのか。信念を折られて、それでも人は立ち上がることができるのか。そして正義は巨大な悪に勝てるのか。ドラマティックに酔い、ヒロイックに燃える快作。『孫文の義士団』や『群盗』などが好きならぜひ。

↓以下、ネタバレ含む。








■道理 vs 理不尽

構造としては、絶対的正義のヤン団長と、絶対的悪のチョウ・シウロンがおり、そこに昔権力に負けたマー・フンと、権力になびいたチョン・イック隊長というかつての兄弟分が絡むことになり、法と秩序が権力と軍事力に相対します。

殺人犯を解放しないと軍に攻め込まれるという理不尽、たった一日だけの猶予に葛藤する人々の姿が映し出されますが、ただヤン団長が国軍頼み以外に特に対策を講じないのが若干無策すぎるのは気になりますかね。あと敵の忍者みたいな軍団が襲ってきたり、チョウが自殺未遂をやらかしたり、身内から裏切りが出たり、マーがチョンに会いに行ったりと、一晩でどんだけドラマがあるんだとは思います。

用心棒たちがヤンを囲むトゲ柵が墓穴になるというのもなかなか阿呆ですが、ここは団長の炎さえ操るムチさばきがカッコよすぎるので良しとしましょう。団長だけでなく奥さんも強くて、裂いたザルを鉄扇のように使う姿が華麗。ザルのギザギザで目を切り裂くというのがえげつなくて最高です。アクションは全てが高クオリティで、さすがはサモ・ハン。そういえば最後に国軍のお偉いさん役でサモ・ハンもちょっとだけ顔出してました。


■法 vs 権力

凄まじいのがルイス・クー演じるチョウ・シウロンで、戯れに賭けをして負ければ殺す、勝っても殺すという俺様状態、女子供も躊躇なく、というより嬉々として殺し、素直に捕まるものの自分を処刑すれば軍が黙ってないと知ってて挑発し、死なせられないとわかっているから自ら首をくくって見せる。自分になびく両替商も結局殺す(しかも鳥の骨かなんかでめった刺し)。道徳心がないとかいう次元ではなく完全にサイコですね。まばたきもせず爛々と光る目が(矛盾する言い方ですが)冷静な狂気を感じさせます。

そんな絶対悪に対峙するラウ・チンワンのヤン団長は絶対正義。追い詰められた状況であっても「正義が負けるはずがない」と断言する揺るぎなさ、「実行してこそ正義」という行動力が頼もしすぎてシビれます。華麗なムチさばきで魅せ、ヒゲのカットも上手い(なんでだ)。しかし彼の正義は村人たちを守るためのものであり、「ひざまずいたら再び立ち上がれるのか?」という問いかけにも関わらず文字通りひざまずき悪に屈してしまう村人たちを見て、守るべき者に否定されるという空しさに直面します。人の弱さが正しさに背を向けてしまうんですね。それでも自らの命で村人を救おうと一人気を吐く団長。覚悟を決めての娘との別れに何度もほっぺチューをしてもらうのが泣けます。


■信念 vs 任務

エディ・ポン演じるマー・フンは飄々としてると言うかやる気ないと言うか、とりあえず寝すぎです。冒頭で強盗たちを容易くノシちゃうほど強いですが、目隠しをして太平という名の馬に揺られるままに進むという当てなき旅人。しかしただの適当男かと思いきや、過去に正義の心を手折られて無気力になっているわけです。そんなマーを「英雄さん」と呼ぶパク先生。いやもうてっきりヒロインとして盛り上げるかと思ったパク先生の退場には呆気に取られましたよ。そんな思わぬ喪失感、そしてヤン団長の揺るぎない正義に、再び立ち上がることを決意するマー。子供たちに"孫悟空"と呼ばれていたマーが、敵の待つ村へ戻る理由を聞かれ「妖怪退治だ」と言うのが熱いです。

一方でウー・ジン演じるチョン・イックはマーのかつての兄弟子ですが、今はチョウの非道な命令にも粛々と従っています。それが正義か悪かは関係なく、昔も今も任務だから行うというだけの、要するに仕事人間なんですね。回想のなかでも「護衛の仕事は今後なくなる、これからどうなるんだろうな」と先の生活の心配をしている。何が正しいかわかっていても目をつむる姿は、まるで現代の社畜のようでなんとも物悲しい……しかしたとえ正義に従う義理はなくても、かつて卵をもらった恩は忘れていなかったか、とっさに弟弟子を助けてしまいます。最後まで真面目なんですね。ウー・ジンがエディ・ポンと繰り広げる無数のカメの上でのラストバトルは、一種荘厳な光景でありながら割れやすく脆いというスリルもあって、出色の出来です。


■正義 vs 悪

トンファー君や三節棍ちゃんのように最後まで抵抗する者はまれで、自警団も解散し、逃げるしかない奥さんたち、そして拷問を受ける団長。しかし正義を信じる者たちは再び立ち上がり、馬を並べて村へと走り出します。このまるで西部劇という展開が熱い。と思ったらベニー・チャン監督は黒澤明やセルジオ・レオーネの作品を意識していたようで、それも納得。

権力をかさに着た悪は最後は名もなき者たちになぶり殺しにあい、村は平和を取り戻します。最後まで正義を信じた団長と、己の正義を取り戻したマー。ラストで馬の太平に乗り去って行くマーというのがまた西部劇という感じですが、そこでマーがする目隠しは今までのような「見たくないから目をつむる」ものではなく「見えなくても太平」というものに変わっているのでしょうね。

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