2017
06.25

痛みを超えて走るために。『パトリオット・デイ』感想。

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Patriots Day / 2016年 アメリカ / 監督:ピーター・バーグ

あらすじ
Boston Strong.



「愛国者の日(パトリオット・デイ)」に開催されるボストンマラソンの警備にあたっていた刑事のトミー。しかし50万人の観衆がいる会場で突如大規模な爆発が発生。必死の救助活動を行なうなか、現着したFBI捜査官リックは事件をテロと断定して捜査を始める。やがて監視カメラに映る怪しい男が浮かび上がるが……。ピーター・バーグ監督による実話を元にしたサスペンス。

まだ記憶にも新しい、2013年4月15日に発生したボストンマラソン爆弾テロ事件の裏側を描いたのが本作。『ローン・サバイバー』『バーニング・オーシャン』に続き主演マーク・ウォールバーグ、監督ピーター・バーグのWバーグによる、実話三部作の三本目ですね。ウォ-ルバーグは製作も兼任。実在の捜査官や被害者など多くの人を登場させ、事件発生から102時間で犯人逮捕に至った経緯を描きます。三作のなかでも最も身近さを感じる話でもあり、唯一架空の人物を主人公にしてドラマを繋げることで、視点の統一感と明確なメッセージをも打ち出しています。死者が少なかった理由と、結果もたらされた現実、情報公開することのリスクなど多角的な描き方も良いです。

主人公である殺人課の刑事トミー・サンダースはたまたま交通課に回されていたために事件に出くわします。このマーク・ウォールバーグ演じるトミーと、ミシェル・モナハン演じるトミーの奥さんは架空の人物ですが、それ以外は実在する人々。FBI捜査官リック・デローリエを『COP CAR コップ・カー』ケヴィン・ベーコン、ボストン警察警視総監エド・デイヴィスを『10 クローバーフィールド・レーン』ジョン・グッドマン、ウォータータウン警察巡査部長ジェフ・ピュジリーズを『セッション』J・K・シモンズが演じます。

痛ましいテロ事件を描きつつも、予想外に始まる銃撃戦の迫力や群像劇としての描写、リアルな会話のやり取りや立場による信念など、娯楽作としてのクオリティを保持しているのが凄い。それでいて真っ向から愛を語るシンプルさには、却って虚をつかれる思いです。重厚さと滑らかさが同居した素晴らしい出来。

↓以下、ネタバレ含む。








序盤は何組かの人物の事件直前の日常が描かれます。ドアを蹴破って「足が痛いー」と騒ぐトミー(何やってんだ)、「レッド・ソックス」「レッド・ソークスだ」のやり取りをする若夫婦、子供を連れてマラソン会場を訪れる父親、そして犯人たち。『バーニング・オーシャン』でもそうでしたが、これらの日常が事件後に一変するのがわかっているだけに終始不穏。大勢の人々が集まる沿道で不意に起こる爆発シーンには、現場にいた人同様に事態を把握しきれない感じというか、現実が一気に非現実感を帯びるのが恐ろしい。爆弾が足元に置かれたために死者は3人だったものの、代わりに足を失う人が多かったというのは知らなかった事実でした。8歳の子が死亡したのは子供で背が低かったためだと思うとさらに痛ましい。子供の遺体の横にずっとついていた警官が最後にする敬礼には、やるせなさに胸が詰まります。

FBI捜査官リックは慎重ではありますが、そもそもこれをテロと判断すれば9.11以来の衝撃であるし、トミーや警視総監が早く画像公開しろと迫るのを時期尚早とするのは早まった判断によるイスラム系への影響を考慮したものであるしと、この状況で冷静な視点を失わないのが凄い。弱腰だなんだと言われながらも感情に流されず、判断後の対応は迅速で的確。ケヴィン・ベーコンの存在感が際立ちます。また、マラソン会場にいなかったMITの警備警官ショーンや中国人留学生ダン、ウォータータウン警察などが絡んでこないと思ったら、爆弾テロ後も事件は続いていたわけですね。仄かな恋が始まろうとしていたショーンの悲しみや、命懸けで人質状態から脱出するダンの緊張感など、関わった人々の状況を丁寧に積み上げてきたのが効いてきます。

緊迫感溢れる本作のなかでも特に出色なのが、銃撃戦、尋問、ボート包囲ですが、それぞれが独自のスリルを持つのが凄まじいです。ウォータータウン警察と犯人たちによる銃撃戦は銃弾の嵐に爆弾まで使われ、まるで戦争かと思うような迫力。「これで倒せ」とハンマーを投げてよこす近隣住人にはちょっと笑いますが、いやこれはこれで大真面目な対応だったのだろうと思うのですよ。犯人兄タメルランの妻への尋問は、尋問官の有無を言わせぬ追い詰め方と、「シリアではもっと死んでいる」と言う妻の歪んだ信念との激突に震えが走ります。そして犯人弟ジョハルが隠れるボートを警察やFBI、SWATの大人数が囲んでの包囲劇では、爆弾があるかもしれない緊張感と、先走って銃撃してしまう警官たちの逸りが、大詰め感を突き付けてきます。これらは映画として大いに盛り上がるテクニカルな場面ではありますが、そこに犯人たちの凶悪さや常軌を逸した思想などがしっかり含まれているためテーマから逸脱していない、というのが実に見事。

主人公トミーだけは架空の人物ですが、彼は爆発時のマラソン会場、犯人の足取りを追う対策本部、タメルランを追い詰めた銃撃戦、ジョハルを取り囲むボート場面と、重要な場所全てにいます。妻が現場に居合わせたという当事者でもあるし、痛めた足をずっと引きずっているのは足を切断した人々を象徴するかのよう。これにより観る側はトミーを通して全てが繋がったかのように事態を把握することになります。そしてこの事件を「正義と悪の戦い」と断言し、それに対し「愛を武器に戦うのだ」と真っ向から謳います。多少唐突ではありますが、これは監督・脚本のピーター・バーグによる魂のメッセージと言ってよいでしょう。トミーは当事者であると同時に俯瞰する立ち位置をも持ち併せ、かつ本作に込めたメッセージの代弁者でもあるわけです。それは実在の人物の誰かに言わせて重荷を背負わせるのではなく、映画の作り手としての責任を取ったようにも思えるのです。

終盤は事件に関わった人たちの実際の映像やインタビューが流れます。『ローン・サバイバー』『バーニング・オーシャン』よりさらにその時間は長く、球場の追悼イベント、片足を失いながらも挑んだマラソン、そして「ボストン・ストロング(ボストンよ強くあれ)」のメッセージの数々が映像として流れます。エンターテインメントの形でここまで見せながらも、本作が鎮魂歌であること、それと同時に生きる意思を描いた作品であることを明言してくれるのです。

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