2017
05.13

撃って撃たれて隠れて這って。『フリー・ファイヤー』感想。

Free_Fire
Free Fire / 2016年 フランス、イギリス / 監督:ベン・ウィートリー

あらすじ
受注内容は確認しましょう。



1970年代のボストン。銃の取引のために、とある寂れた倉庫にやってきたIRAの男たちと武器商人のグループ。しかし一部のトラブルにより交渉はこじれにこじれ、ついには壮絶な銃撃戦に……。マーティン・スコセッシ製作総指揮、『ハイ・ライズ』のベン・ウィートリー監督によるクライム・アクション。

なんてことのない銃の取引でなぜか巻き起こる銃撃戦。登場するのは全員悪党、舞台はほぼ倉庫内だけ、放たれまくる罵声の嵐、そして飛び交いまくる銃弾。しかしそんな概要を聞いて痛快なガン・アクションを期待すると、これが肩透かしを食らう代物。むしろ非常に泥臭いんですよ。冒頭に監督からのメッセージが表示されるんですが、それが「銃で致命傷を負っても人はなかなか死なない」というもの。つまり相手をバッタバタなぎ倒すというものではないわけです。ところがこれがワンシチュエーションで描く心理ドラマとして観ると面白い。共謀、裏切り、意地や面子といった要素が、ひたすら撃ちまくり這いずり回っての攻防戦と絡んで見せる、予想外の群像劇。なかなか死なないということでコメディ性が際立ってきます。

役者陣が豪華なうえにとても良いです。唯一の女性であるジャスティン役は『ルーム』のブリー・ラーソン。『キングコング 髑髏島の巨神』をある意味越えるタフさ。クリス役は『インセプション』のキリアン・マーフィーで、クールな二枚目で結構なタフガイ。オード役は『コードネーム U.N.C.L.E.』のアーミー・ハマー、その軽快さは胡散臭さ満点で実にコミカル。そしてヴァーノン役のシャールト・コプリーは『ハードコア』に続き変態っぽさが抜群。『高慢と偏見とゾンビ』でダーシーを演じたサム・ライリーのクズっぷり、『シング・ストリート 未来へのうた』で兄貴を演じたジャック・レイナーのキレっぷりも素晴らしい。なんとなくサミュエル・L・ジャクソンが出てきそうな気がしますが出てないです。

単なるビジネスとしての取引が、微妙な人間関係の交錯を見せ、いつの間にか欲望渦巻く駆け引きへと変わっていきます。敵味方入り乱れての銃撃戦は誰が裏切り誰が信頼できるか混迷を極め、さらには誰が死に誰が生きてるのかもあやふやに。ひとつ言えるのは、人は銃で撃たれてもすぐには死なない、でも痛いし血は出るし放っとけば死ぬ、ってことですね。

↓以下、ネタバレ含む。








フランク、クリス、ジャスティン、スティーヴォ、バーニーの銃を買いたいグループ、ヴァーノン、マーティン、ハリー、ゴードンの銃を売りたいグループ、それを仲介するオード、というのが主なメンツ。これに謎の狙撃手2名と買い組の助っ人リアリーですか。結構登場人物多いですが、描きわけはできてるのでそこまで混乱はないですかね。そして全員もれなく撃たれますね。無傷のやつが誰もいないうえに、結局一人を除いて全員死ぬという救いのない話ですが、悲壮感はないです。それは生への執着ではなく金への執着、あるいは「ムカつくからブッ殺す」という単純な感情で話が進むからでしょう。

クリスとジャスティンは一見主人公とヒロインのようですが「一緒に食事でも」という仄かなロマンスも金の前には「また今度ねー」になっちゃいます。ヴァーノンは相手構わずよく喋る、それをスルーされると怒る、という自己中なところに、最初から「こいつ何かヤバそう」と思わせるんですか、意外と繊細だったりもしますね。感染予防と言ってダンボールを体に巻き、ハリーに「ダンボールの鎧」と言われるのが阿呆で面白い。マーティンは逆に冷静な慎重派なのかと思いきや、急にブチ切れたり、頭を撃たれて後の突然の復活から突然死に至っては人間の生命力の不思議さまで感じる、と言えなくもないです。オードはあの状況でサイドミラーで身だしなみチェックしたり準備運動したりと、整ってる感じがかえって胡散臭いですね。ヒゲオイルってなんだ、ヌラヌラしてそう。

トラブルの発端であるスティーヴォとハリーは取引の主体ではなく手伝いなためか、自分らの問題しか見てません。はなから義兄のフランクに無理やり手伝わされてるスティーヴォはやる気もなく、収まりかけた事態をさらに蒸し返すし、ハリーは「上手くやってヴァーノンに認められるぜ」とか言ってたのに、感情を抑えられず最初に引き金を引いてしまいます。素人を仲間にするときは人を選ぶべき、ということをギャングの皆さんは肝に命じておきましょう。特にスティーヴォはハリーのいとこの女性を殴ったというクズなせいか最も残酷な最期を遂げますが、相棒のバーニーが死んだときに「お前は天使だ」と言って泣きじゃくるのは唯一かわいいところ。

そんな感じで各人は背景はわからないものの人間性は何となく見えてきます。そして罵声を浴びせながらガンガン撃ちまくって撃たれまくる。全員がことごとく這いずり回る姿には憐れみさえ感じますが、同時に相手を出し抜こうとする必死さには思わず苦笑。どんどん動けなくなっていく状況のなかで、停滞するたびに新たな展開を入れてくるのは面白いし、それがことごとく思い通りにいかないことでますます泥沼化というのが笑えます。ケータイのない時代のため電話を押さえるのが重要だったり、ようやく電話に出たら「ひき肉一年分」という超どうでもいい相手だったりというのもシニカル。

そのシニカルな視点が全編を占めてるような感じですね。仲間かと思ってた者、クリスにとってはジャスティン、ヴァーノンにとってはマーティンが裏切って狙撃手を雇ってたとか、強力な助っ人かと思われたリアリーがあっさりハリーにやられるとか、すんなり取引が終わってればみんなハッピーだったのに、それを自分たちでブチ壊してしまうわけです。正直その構成ゆえに爽快感が犠牲になってるのはやはり難点だと思うし、位置関係が非常にわかりにくいのでスリルにも欠けます。ただ本作はそんな爽快感だの論理的帰結だのを求めておらず、「結局銃を扱っていたら遅かれ早かれ死ぬよね」という冷笑的な話だと思うのですよ。最後に一人勝ちして足を引きずりながらも悠々と引き上げようとするジャスティンが、パトカーのサイレンに慌てふためくという何ともみっともない顔で幕を閉じるというのも、ブラックな笑いを勝者なき虚しさで締めたという感じで良かったです。

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