2017
05.04

慢心を焼く業火。『バーニング・オーシャン』感想。

Deepwater_Horizon
Deepwater Horizon / 2016年 アメリカ / 監督:ピーター・バーグ

あらすじ
ときにはリスケも大事。



2010年4月20日、メキシコ湾沖約80kmに位置する石油掘削施設「ディープウォーター・ホライゾン」で海底油田から天然ガスが逆流し、引火して起こった大爆発。施設内に閉じ込められた作業員たちは被害の拡大を食い止めて脱出しようと奔走するが……。メキシコ湾沖で発生した海底油田爆発事故を『バトルシップ』『ローン・サバイバー』のピーター・バーグ監督が映画化。

石油採掘基地の爆発事故という実話を元に、判断ミスや思惑といった人為的な要因により世界最大の人災が引き起こされた経緯、そして火の海と化した施設からの決死の脱出劇が描かれます。親会社と下請け会社の確執から、海底の怪しげな様子、それらに被せるように不穏な描写が続き、テンポよく場面が切り替わることで観る方の混乱まで助長していきます。とにかくヤバい、という空気で満たしていった後の想像を絶する炎の海は、人災ながらディザスター・ムービーの迫力。そして絶望的なサバイバルに息が詰まります。

とんでもない炎の勢いや圧力による軋みの恐怖は凄いし、監督ピーター・バーグの前作『ローン・サバイバー』に続く「痛みのある負傷」シーンがエグいです。電気技師マイク・ウィリアムズ役のマーク・ウォールバーグは、『トランスフォーマー ロストエイジ』のマッチョぶりに加え意外と賢そうに見える(失礼)のが実に良いです。主任のミスター・ジミー役のカート・ラッセルの頼もしさ、BP社の管理職ヴィドリン役のジョン・マルコヴィッチの憎々しさもさすがの貫禄。若い作業員ケイレブ役の『メイズ・ランナー』ディラン・オブライエン、女性操舵員アンドレア役のジーナ・ロドリゲスも良かったです。

納期や予算に囚われて品質を疎かにすると地獄を見る、というQCDの話ではあるんですが、人命のかかった現場での安全性がいかに重要かという提言を、そして失われた命はフィクションではないということを突き付けてきます。

↓以下、ネタバレ含む。








海底で軋むケーブルの不気味な音、不意に飛び出すコーラ、危険を知らせる色であるマゼンタのネクタイ、予定外に待機している船。不吉さを予感させる描写の数々は、これから起こる出来事をこれでもかと煽ってきます。次々と切り替わる複数の現場を映すことで、様々な要因の積み重なりや各人のスタンスをわからせ、そのとっ散らかった様子がそのまま現場の混乱をも予感させます。納期の遅れと予算の浪費に焦る上層部が強行しようとする作業、それを安全性第一とする現場責任者ジミーは止めるものの、聞き覚えのない言葉による理論武装に押しきられ、賛同はせずともテストは実行せざるをえない状況になります。マイクもヴィドリンに聞かれてハッキリ苦言を呈していますね。どこまで脚色が成されているかはわかりませんが、ちゃんと抑止力はあったことを描き、どこかで防げたのではないかと思わせる作りになっています。結局は作業員たちが「マネー、マネー、マネー」と歌うところに帰結はするんでしょうが、それでも単にヴィドリンたちが悪いと言うだけでは済まない複雑さも示しています。

事故発生後の描写は凄まじい臨場感です。泥水の逆流、ガスの噴出、圧倒される炎と続くわけですが、とにかく「勢い」が凄いです。とんでもない圧力で噴き出す泥水にフッ飛ばされ、あっという間にセンサーをマゼンタに変えていくガスに戸惑う作業員たち、と段階的に見せた後、一気に限界を超えて大爆発、吹き上がる炎の柱を目の当たりにする恐怖といったらないです。そして痛みのある負傷シーン、特にガラスの破片が身体中に突き刺さるというのが痛々しい。ジミーなどはよりによってシャワー中に爆発、裸で放り出され足の裏をガラスでざっくり、と言うのが非常にイヤですね。あと倒れているのが見知らぬ人々ではなく仕事仲間である、というのがイヤさに拍車をかけています。

炎の描写は熱さや息苦しさを感じるほどで、威圧的とさえ言えます。クレーンを動かして救助艇を救い自身は落下死する作業員が悲しいですが、彼が落ちる直前に炎を見つめる表情には、炎の美しさではなく狂暴さに絶望する思いが感じられます。そんな絶望感は、救助艇で我を失う男の姿にも見られるようにどんどん膨らんでいき、ケーブル切り離しに失敗、マイクたちを置いて落ちてしまう救助艇、タワーの上から見下ろした文字通りの火の海、海に落ちてからも弾丸のように降り注ぐ破片、と容赦がありません。何とか被害を食い止めようとする男たちの姿には、熱くなる以上に「早く逃げてー!」とハラハラしてしまうほどです。それはヒロイックな行動と言うよりは、現場で従事する者の責任感に依っているからそう感じるのでしょう。それでもそれは勇気ある行動であり、そこを語ろうとすることは物語の盛り上げ以上の意味を持ちます。

マイクとアンドレアの脱出劇は、まるでミッションに失敗して敵中に取り残され、水中に逃れても銃撃されている、という戦争映画のよう。そう考えるとこれは『ローン・サバイバー』に連なる話のように思えます。恐らくピーター・バーグは意識的にそう撮っているのでしょう。つまり「人が起こした、人に死をもたらす愚かさ」です。星条旗の向こうに炎が燃え盛るというショットがありますが、本作で言えば親会社のような大きな組織の中で、そんな愚かさに巻き込まれて足掻く人々を表しているように感じられます。そしてジミーが名簿の名を読み上げるも返事のない空しさと、その裏で生き残れたアンドレアの「ありがとう」の言葉に、生死の境界が紙一重であったことを思い知るのです。思えば『ローン・サバイバー』でも、最後に心からの「ありがとう」が印象的でした。

それだけにマイクが再会した妻と娘と三人で抱き合うショットには泣かされます(しっかり恐竜の爪を持ち帰るという微笑ましさまで)。一方で"Take Me Home"と歌う曲に乗せて事故で亡くなった11人の名前を全て表示するというのは、前作以上に鎮魂の様相。これはもはや『ローン・サバイバー』の続編、と言ってしまっていいでしょう。ピーター・バーグの次回作は三度マーク・ウォールバーグと組み、ボストンマラソン爆破事件というまたもや実話を描く『パトリオット・デイ』。エンターテインメントとしての見せ方を失わず社会への提言を続ける三部作となるのかもしれません。

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