2017
05.02

狂おしく愛しき日々と共に。『3月のライオン 後編』感想。

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2017年 日本 / 監督:大友啓史

あらすじ
あかりさんにふくふくにされたい。



今年も獅子王戦トーナメントが始まり、18歳となったプロ棋士の桐山零も他の棋士たち同様高みを目指して対極に臨む。そんななか、育ての親である幸田が入院したと聞く零。そして零が世話になっている川本家にもトラブルが降りかかり……。羽海野チカの同名コミックを2部作で実写映画化、その後編。

前編の感想はこちら。
襲いくる寒き日々の先へ。『3月のライオン 前編』感想。

前作の新人戦から続く形で始まる2部作の後編です。原作未読で前編中心のアニメ版しか観ていない状態での後編鑑賞でしたが、未知の展開の連続で非常にスリリングでした(なので原作との比較は今回ないです)。主人公の桐山零を始め多くの人物が様々な事態に直面し、そんななかで零が気付きを得ていく物語です。思った以上に重いドラマにはちょっと打ちのめされそうになりますが、皆が抱える感情がむき出し寸前まで露になり、それを乗り越える一手を指していく姿には爆泣き。闇しかないと思っていても光はあるのだ、ということを教えてくれます。

零役の神木隆之介くんは表情も細かい演技も素晴らしい。守りたい一心で暴走する姿には「待て待て」と声をかけたくなるほど。加瀬亮の演じる宗谷名人が見せる無表情な怒り、伊藤英明の演じる後藤の威圧感の裏にある悲しみ、豊川悦司の演じる幸田の冷静さと愛情も良かった。相変わらず胃が痛そうな島田さん役の佐々木蔵之介、可愛さより鼻息の荒さが目立つ二海堂役の染谷将太、脆いところも見せる香子役の有村架純らの主要人物も良いですが、今回はひなちゃんの清原果耶が重要な役どころになってますね。倉科カナのあかりさんは言うまでもなく最高です。また、伊勢谷友介が川本家に波乱を呼ぶ人物として新たに登場。

抑えめのモノローグ、使いどころを見極めた音楽などのテイストは前編を引き継いでおり、役者の顔力も上手く活かされていてアップの多用もさほど気になりません。多くのエピソードが取り込まれているため前編同様長さは感じるものの、それが退屈に感じることはなく、むしろ「濃さ」として昇華されている感じです。とても良かった。あとカレーが食べたくなります。

↓以下、ネタバレ含む。








神木くんがとにかく良いです。冒頭の壇上で新人王を祝われるときの超嫌そうな目の泳ぎ方や、川本父に言い過ぎたことを悟ったときの表情、猫背気味にほとほとと歩く姿まで、桐山零という少年の実像化を見事にこなしてるんじゃないでしょうか。ひなちゃんに「ありがとう」と言い出したときには最初は「?」となりましたが、ひなちゃんのいじめから級友を救おうとする姿が、遡って過去の零を救ってくれたということなんでしょうね。それだけに川本家を守りたい一心での必死さが裏目に出ての暴言や、より一層将棋しかないと思い込んでしまうという頭でっかちさな不器用さが痛々しいです。金を貯めるために飲みに行くのを「無駄」と一蹴したりね(先輩ショック)。いきなり結婚話を持ち出すのも零なりに考えた救い方なのでしょうが、さすがにブッ飛びます。

結構重い展開が続くのでちょっとツラいものがありますが、だからこそ心に染みるものがあったりします。ひなちゃんへのいじめ、川本三姉妹ラブの身としてはいじめる女生徒には殺意さえわきますが(皆そうだよね?)、「間違ったことはしていない」と言うひなちゃんに前田吟の演じるおじいちゃんが「よくやった」という言葉をかけるのは見習いたいところ。また、三姉妹の父・誠二郎は自分勝手な理屈で同居を申し出てくるため、三姉妹ラブの身としては(またかよ)零が出しゃばってしまうのもわかるんですが、でもこればかりは他人が踏み込める領域を超えた家族の問題。それだけに姉妹で話し合った結果の父との決別は、安堵と共にせつなさもあります。さすがのあかりさんも父親に手を上げた後にひなちゃんに寄りかかってしまうほど。あかりさんはもうね、零の言葉を聞いて泣きながら笑うところなんて愛おしさしかないですね。好きすぎますね。

今回は零の義父である幸田の深みも印象深いです。宗谷戦の前に幸田が零に言う「相手は人間だ、自分の作った怪物と戦うんじゃない、楽しめ」という台詞の心強さ。香子に対しては諦めているのかと思っていたら、かつて零に敗れた香子の手を見せ「自分で勝ちを諦めた、でも必ず一手はある、幸せを祈ってる」という台詞の暖かさ。自立を促しながら決して見捨てない親としての立ち位置があるんですね。一方で後藤が見せる厳しさも大きいです。対局中に妻の死を知って、密かに駆けつけようとする焦りから伺える後藤の本心、そしてトイレで一人泣き対局に戻るという凄みからも伺える後藤の覚悟。そんな後藤と対局し、頭を掻きむしりながら逆転の一手を指して泣きじゃくる零に「泣くな、みっともない」と言う後藤の苦言とも思える言葉が、勝者に手向ける先達からの激励であったというのが泣かせます。やかましい会長やスミスがこの対局後に何も言えないというのが勝負の激しさを物語っています。

将棋に奪われる、将棋にすがるという思いや関係は、ときに苛烈さを伴って描かれます。父に当てつけるように出歩く香子、引きこもってしまった歩、幸田の見舞いに行った時に態度のよそよそしい義母、そんな壊れてしまった幸田家に対して負い目を感じている零。妻の死によりようやく将棋に集中できると言う後藤。宗谷に負けて以来自分の将棋を指せない島田。ストレスで耳が聞こえないときがあるという宗谷。

しかし幸田が「将棋は誰からも何も奪わない」と香子を諭すように、何かのせいにしているうちは前に進めないということを本作は示します。「闇しかなかった」と絶望していた零が、自分にも多くの人との出逢いという「光」があったことに気付いたとき、幼い頃についた「将棋が好き」という嘘がいつの間にか本当になっていたことも知ります。幸田、川本三姉妹、二海堂や島田はもちろん、歩にチケットを渡すのも、かつて「宗谷と戦うときは呼んでやる」と言っていた歩がその光のひとつだから。そして初対局で迂闊な一手に無表情で怒りを表した宗谷もまた光のひとつです。ラストショットで見せる零の表情には、ライオンのような春の嵐が吹き荒れてきたこれまで、そして羊のように穏やかな心でタイトル戦に挑むこれから、そんな全てが集約されているように思えるのです。

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