2017
04.03

アダムの孤独、イブの決断。『パッセンジャー』感想。

Passengers
Passengers / 2016年 アメリカ / 監督:モルテン・ティルドゥム

あらすじ
You Die, I Die.



地球から120年かけて新たな居住地となる惑星へ向かう宇宙船アヴァロン号。しかし冬眠装置で眠る乗客5000人の中で一人、予定より90年も早く目を覚ましてしまったエンジニアのジム。絶望的な孤独の下で、ジムは生き残る方法を模索するのだが……。ジェニファー・ローレンス、クリス・プラット主演のSFドラマ。監督は『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』のモルテン・ティルドゥム。

目的地に着くまではまだ90年というタイミングで、たった一人広い宇宙船の中で目覚めたジム。そしてジムに続いて目覚めるもう一人、オーロラという女性。この二人を描く話である、と聞くと、二人力を合わせて難局を乗り切ろうとするラブストーリーかなと思うんですが、そしてそれは間違ってはいないんですが、これが単なるラブストーリーというだけではない、というのが本作のポイント。愛情だけではない、大きな感情を描く物語であり、良くも悪くも決断の物語です。そういう意味ではとても人間的な話じゃないですかね。これは宇宙が舞台じゃないと成立しないでしょう。そしてSF的なガジェットの数々も良くて、特に宇宙船のデザイン、ユートピア感が溢れる清潔で自動化された船内や、巨大さを感じさせる描写が随所にあるのも良いです。

ジム役は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『ジュラシック・ワールド』のクリス・プラット、オーロラ役は『ハンガー・ゲーム』『世界にひとつのプレイブック』のジェニファー・ローレンス。この主演二人がほぼ出ずっぱりですが、そこに飽きることは全くないほど二人のスター感がスゴいです。クリプラは『マグニフィセント・セブン』での飄々とした感じも残しつつまた違った役柄だし、ジェニファー・ローレンスはすこぶるエロくて殺意がわくほどクリス・プラットが羨ましい。でもクリプラの尻も見れるのでそちらを望む人にも良いぞ。

いくら便利で小綺麗な巨大宇宙船であってもそこに一人きりというのがどういうことか、というのは上手く描かれてると思います。ただ、簡単には結論を出せない感情の問題が絡むことで、好き嫌いはハッキリ分かれるでしょうね。上手くない部分もありますが僕は楽しめました。

↓以下、ネタバレ含む。








■宇宙の中心で

宇宙船に障害が発生するというのは物語の冒頭から始まっています。2年ももったのにいきなり爆発寸前の大ピンチになるというのは出来すぎな感もありますが、エレベーター、案内ロボット、掃除ロボットとエラーを起こしていく描写が要所で入るのでまあいいですかね。ただ非常時に何の手立てもないとか、一度起きたら再入眠できないなど、120年も旅するわりにはちょっとシステムが杜撰。その理由を「故障しないはずだから」と繰り返しますが、機械が故障しないなんてありえないわけで、フェイルセーフと言いながら可用性がなってないな!せめて何重にも自己修復機能が仕込まれていたがそれが動かなかった、みたい設定があればよかったですかね。

船内の生活のシーンは色々と面白いです。食事がクラスごとに異なるところには格差社会を感じます(ジムがゴールドクラスの食事をもらったところはもう少し感動しても良かったけど)。宇宙遊泳の靴をロックしたりリードを繋いで飛び出したりは、クライマックスでジムが射出口に踏ん張るところや飛び出たジムをオーロラが捕まえようとするところでも活かされるし(『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』に続き宇宙で凍るクリプラ……)、何より宇宙服を着るためにオーロラが脱いだドレスを蹴ってよこす生殺しシーンなどはたまらんですね!と言うかジェニファー・ローレンスのタンクトップ姿や水着姿が絶妙にエロくて、何だか解放感さえ感じます。あと重力ベースが異常をきたしてオーロラがプールの水に囚われるのは相当なスリル。ドラえもんの「ルームスイマー」を思い出しました。

しかし第3の人物が目覚めたと思ったらまさかのローレンス・フィッシュバーンなのにはちょっとビビりますね。結局この甲板長は今まで行けなかったところに行ける、新たな権限のバンドを渡すという役割を果たしてあっさり退場するフラグみたいな人ですが、もう少しオーロラの心情変化に影響を与えるみたいな役割があってもよかった気もするし、でもあまり3人の絡みが長引いてもなーという気もするし、何とも難しいところではあります。頼り甲斐がある人が登場したと思ったら即座にいなくなるのはそれはそれでスリリングですけどね。そういえばラストに物凄いチョイ役で、船長役としてアンディ・ガルシアが出たのも驚きました。あれはヘタすりゃ気付かないところでしたよ。

ちなみにアーサーが「俺が起こしたことは秘密だ」とジムに言われたにも関わらずオーロラにバラしたのは、オーロラの「私たちに秘密なんてない」に対しジムが「聞いた通りだ」と言うことで、「秘密」の約束が無効になったからですね。ロジカルに考えるAIとしては当然の帰結で、そこはやはり人間とは異なるところです。矛盾したことを言われると一瞬エラーを起こしかけたりもしますね。


■愛と憎しみの果て

最初に目覚めたジムは、再び冬眠状態に戻ることもできず、一乗客(パッセンジャー)であるため自動航行の宇宙船をどうにかすることもできず、地球に帰ることもできない。この圧倒的な孤独感が凄まじいです。宇宙に一人きり、と言えば『オデッセイ』のマーク・ワトニーを思い出しますが、あちらはサバイブしないとすぐ死ぬため、創意工夫に勤しむことで生きる力を得ていたわけですが(それでも何年も一人で過ごすので本当に凄い奴)、ジムの場合はやれることを全て試した後は自分の力では何もできず、ただもう怠惰で同じような生活を送るしかないわけです。一年くらいなら大丈夫そうにも思えますが、命の危険もないなか毎朝同じ固形の食べ物、AIとの温もりのないやり取りが一年も続けばおかしくもなるでしょう。唯一の話し相手であるアーサーは非常によくできたアンドロイドですが、表面的な会話はそつなくこなすものの、人間と違って感情がないことが時折見えてしまうのがツラい。

何より目の前には5000人もの人が生きて眠っているわけで、誰かを起こせば孤独ではなくなる、というのは相当な誘惑。それが倫理的に許されないことはジムもわかっており、最初は自ら命を絶とうともするし、人の人生を奪うことへの激しい葛藤の末一時は断念もします。これは自分が同じ境遇に置かれたときに果たして我慢できるか、という容赦のない問いかけでもあります。そしてジムは罪を犯すことを決断しますが、この展開には「えっ、そっち?」と驚きました。もはや哲学的領域まで感じさせる究極の選択を描く、というのが実に興味深い。その後はジムとしてはもう嘘を貫き通すしかないわけです。それでも決してその嘘を忘れることはできなかったのでしょう、オーロラに問い詰められてあっさり認めるところに、ジムが罪の意識を抱え続けていたことが伺えます。

しかし当然オーロラにしてみれば許せるわけがなく、真相を知ったときの地の底が抜けたかのようなぐらつき、視界が揺れて霞むほどの衝撃、船外から映す部屋で泣きわめく姿など、ここはジェニファー・ローレンスがさすがの表現力。単なる事故であるジムとは違い、オーロラの目覚めはジムのエゴでしかないわけです。それまでのラブラブぶりが大きかっただけにその反動たるや凄まじい。ジムを殺そうとさえしますが、それもおかしくない。でも殺したところで境遇は何も変わらないんですね。

オーロラが最後にジムを受け入れるのが、一人で生きていくことに耐えられなかったからなのか、二人で過ごした日々を思い出したからなのか。その辺りの感情的な整理をどう付けたのかが、船爆発の大ピンチに紛れてしまった感はあります。ただ、少なくとも彼女はオートドクターで入眠できる、という道を選びません。ジムが死にかけたときに予期した一人で生きていくことのツラさを与えるのは酷だと思ったのか、命懸けでオーロラと船を守ろうとしたジムの姿に許す心が生まれたのか。あるいは最初に目覚めたときも一週間くらいでジョギングを始めたように、運命を受け入れてそのなかで前向きに生きたいというタイプなのかもしれませんが、いずれにしろそれもまた彼女の決断なのです。


■眠りから覚めて

ひょっとしたら二人の間に子供がいたのでは、という予想は裏切られます。子供を持つという考えが二人の脳裏を掠めたとしても、子供だけで生きることになるのは自分たち以上に耐えられなかったことでしょう(乗客に助産婦がいたのでまさか伏線かと思いましたが、さすがにそれはなかったですね)。それもまた決断です。罪を背負ってでも目覚めさせる決断、自分が犠牲となってでも守ろうとする決断、共に生きて行こうという決断。人の決断はときに倫理を超え、人の一生は過去を忘れることで紡がれる、ということなのかもしれません

アーサーが「眠りの美女ですね」と言うように、本作は『眠れる森の美女』を意識しているふしがあります。ヒロインの名前も同じオーロラだし、実際に眠っているオーロラをジムは目覚めさせます。しかし蘇生措置を全部ブチ込み、最後にキスで目覚めさせるのはオーロラの方ですね。ジムは技術者なので壊れたものを修理しますが、死から生を取り戻すのは無から有を生み出す作家の方なわけです。生み出す者と直す者で世界は循環する、ということかもしれません。だからラストシーンが緑で溢れロボットたちがその世話をしているのは、二人が生きた証としてとても似つかわしい風景だと言えます。

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