2017
03.30

ショー・マスト・ゴー・オン!『SING シング』感想。

Sing
Sing / 2016年 アメリカ / 監督:ガース・ジェニングス

あらすじ
ピギー・パワー!



動物だけが暮らす世界。バスター・ムーンが経営する劇場は過去の栄光とは裏腹に取り壊し寸前。そこでムーンは再起を賭けて歌のオーディション開催を企画する。町中の動物たちが夢と賞金をつかむためオーディションに参加するが……。『ミニオンズ』『ペット』のイルミネーション・スタジオによる長編アニメ。監督は『銀河ヒッチハイク・ガイド』のガース・ジェニングス。

動物たちが人間のように暮らす世界を舞台に、傾いた劇場を立て直すために企画されたオーディション、そこに様々な思惑で参加する人々、もとい動物たちを描きます。オーディションで歌うだけの話かと思ったらむしろオーディションの後が本番で、基本はイルミネーションらしいドタバタコメディではあるんですが、キャラごとの背景を描くドラマが意外にも深く、笑いながらも身につまされる展開もあったりします。そんなやるせない日常で見た夢が花開くステージ、そこに映し出されるショーは歌の持つ力を十二分に反映し、予想以上の興奮と感動。懐かしいのから新しめのまで、次々出てくる聞き覚えのある名曲が実にショー映えする選曲であるのも良いですね。

字幕版で観ましたが、声優陣がまあ豪華。バスター・ムーン(コアラ)役がマシュー・マコノヒーというのは全然気付かなかったですよ。アッシュ(ハリネズミ女子)役のスカーレット・ヨハンソンはハスキーボイスがたまらないし、ジョニー(ゴリラ青年)役である『キングスマン』のタロン・エガートンの透明感ある美声には驚き。マイク(ネズミ)役が『TED』シリーズ監督のセス・マクファーレンというのも驚きましたよ。器用だなこの人。もちろんロジータ(豚の奥さん)役のリース・ウィザースプーン、そしてミーナ(ゾウ)役のトリー・ケリーも素晴らしい。エディ(ヒツジ)役にジョン・C・ライリーというのもなかなか面白いです。世界で唯一日本だけが歌まで吹き替えたという吹替版も評判良いようです。

動物キャラによる物語となると『ズートピア』を彷彿とさせますが、意外と被ってる印象はないです。各動物ごとの種としての特性を活かした細かい描写も面白い。イルミネーション作品は毎回驚くような大仕掛けがあるけど、それが今回は感情に直結しているのがとても良いです。それぞれの事情を抱える人々、もとい動物たち(めんどくさいな。以下読み替えてね)が見せるショーのカタルシスに酔いしれます。

↓以下、ネタバレ含む。








■Golden Slumbers(黄金の眠り)

動物ばかりが出るものの、種による差別表現などはあまりなくて、アッシュが興奮してヤマアラシのトゲを飛ばすとか、ミーナが鼻を使ってガラスを吸い出すとか、発光するイカがライトアップになるなど、その動物らしい動作を笑いや特技に変えるという使われ方にはある種の正しさを感じます。カメレオンであるミス・クローリーの目が焦点定まらないのは義眼だから、というのはちょっと感心しました(若干ブラックだけど)。あとは体の小さなマイクが誰より態度がデカいとか、メタボ体型の豚のグンターがキレキレのダンスを踊るとか、いかついゴリラであるジョニーの父がウサギ型のマスクを着けてるといったギャップとしても効いてます。オーディション風景は短い間隔でバリエーション豊かな動物が歌ったり踊ったりするので実に楽しい。日本のアイドルを模したレッサーパンダたちのしつこさには笑います。このオーディションに出てた奴らが終盤ショーの会場にいたりするのも細かいです。

悩みを抱えたり日々の生活に追われたりしながらもスポットライトを夢見ている人々は、立場や経歴も様々。ロジータは25人の子のお母さんですが、豚であってもどこかセクシーさを感じさせる造形は絶妙。彼女は家庭に不満があるわけではないにしろ好きな歌をもっと歌いたいという思いがあります。人のいないスーパーで躍りだすシーンにはそれが溢れており、監視カメラで見ていた警備員の粋な対応もあって実に良いシーン。毎日が同じことの繰り返し、というのを逆手にとって、全自動家族面倒見装置を作っちゃうという発想が凄い。発明王か。

アッシュは自信過剰な彼氏と二人でパンクユニットをやってますが、彼の自意識に囚われているのが垣間見えます。彼に合わせているために前に進めないんですね。オーディションによって自分の道が開かれるわけです。ジョニーもまたギャングの親父たちに無理やり強盗を手伝わされ、本当の夢を抑え込んで生きています。歌声やピアノに見る繊細さと、車を飛ばして両立しようとする剛胆さを併せ持ってますね。グンターは、まあ、人生楽しそうで羨ましいです。


■I'm Still Standing(僕はまだ立っている)

マイクは自信家で嫌味たらしく、徹底的にイヤな奴。序盤でチップをくれた猿へ行う酷い仕打ちなどは見事なクズ野郎っぷり。ただ自身の実力に絶対の自信があるからこそのデカい態度であり、警察に邪魔されながら歌う『マイウェイ』を劇的なステージに変えてしまったり、一人だけノワール調で終わるのも大物感があって面白いです。あれで車を運転できるのか、すげーな。

そして中心人物であるはずのバスター・ムーンは、場当たり的な適当さとビッグマウス(コアラだけど)を相当こじらせてる感じ。キリンのジョニーを声が届かないから落とす、などは相当悪質。ただ確かに印象は悪いですが、そもそもムーンに共感をさせようという気は恐らくないんでしょうね。詐欺師呼ばわりされかねない人物を中心に据えることで不安定さを与え、それによってショーが成功か失敗か五分五分という緊張感が生み出されていると言えます。そしてクズが全てを失ってその結果見えてくるもの、という構成が終盤上手くハマるんですね。このようにメインキャラであっても善人とは限らない、というのがとても良いです。それは多様性がある人々が集まって、それでも一つの完成形を作り上げていくドラマに繋がっているからです。

難点を言えば、いや難点というわけじゃないんですが、「ショー」というのがどういうものか正直ピンとこなくて、最初はミュージカルでもやるのかと思ってたら歌と踊りをするだけなのか、とちょっと不安だったんですよ。よく考えたら冒頭でナナ・ヌードルマンが見せたレヴューのようなものだったわけですね。あとムーンがミーナの歌を聴いて「またやろう」と思うところがちょっと弱いかな?とも思ったんですが、その前に「恐れる前に勇気を出せ」をいうムーンの言葉をミーナが言っている、そしてムーンがミーナの歌声を聞くのはそのシーンが初めて、ということを考えれば十分納得できるものですね。

ちなみに、電源コードを引っ張って繋げようとしたら届かない、ギターソロやりすぎたあと片目を開ける、ロジータの作った朝の支度システムなど、明らかに『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ネタがあるのには笑います。同じユニバーサル配給ならではの遊びですかね。


■Don't You Worry 'Bout a Thing(くよくよするなよ)

後半は見事な演出のオンパレード。壊れた水槽から大量の水があふれて劇場を破壊する、スペクタクルと言ってもいいシーンには驚きました。彼らの希望の象徴である劇場を、ステージを、客席を、全て押し流して無に帰してしまう。水浸しになるとかいうレベルじゃない、それこそ完膚なきまでに叩き潰されるわけです。そうして残るのが何かと言えば、そんな洪水でも消せなかった情熱の火なんですね。そこから手作りでステージを組み上げるというのも情熱あってこそできる作業なわけです。

また、劇場がムーンの父親が洗車屋をやって建てた劇場だと聞いたときには「どれだけスネかじりだこのクソコアラ」くらいは思うんですが、「コアラの洗車屋」がどういうものかという実態を知ったとき、息子に劇場を建ててやるためにこんな仕事を何十年もやっていたのか、と遡って知る父親の愛情の大きさに打ちのめされるんですよ。いや、これは驚きました。ムーンがどれだけ貧窮しても劇場を手放さないのは、その愛情を分かっているからなんですね。このシーンは散々ムーンに迷惑していたはずのヒツジのエディが、友の窮地にウール100%毛皮を使って車体を拭く役目で協力するのも泣かせます。


■Hallelujah(たたえよう)

他にも、ジョニー父が息子がテレビに出てるのを見て「俺の息子だ」と言う、これだけならわりと普通なんですが、そこで終わらずに脱走までして息子に「お前は誇りだ」と言いに来る、これが熱くて泣けます。しかも警察の登場が舞台装置代わりにまでなるというのがニクい。また、散々周囲をバカにしていたマイクがミーナの歌に聞き惚れる、という描写もイイ。これによりマイクは本当に良い歌を理解できる者であり、翻って彼の態度は実力に裏打ちされた自信であった、ということがわかります。

そしてミーナの声量がステージ背後の壁を吹き飛ばすと、そこには天然のスポットライトである満月がある、というのがまた良いです。ステージの飾りとしてムーンが「一人で」使っていたのは三日月ですが、いま「皆で」協力して作ったステージにあるのは欠けたところのない満月である、ということですね。バスター・ムーン(月)の名前ともかかっていて上手いです。

ボロボロのステージで素人の寄せ集めが嘲笑されながら歌う、そんな学芸会な予感を見事に吹き飛ばす圧巻のステージ。これぞショータイムですね。

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