2017
03.23

作られた狼たち。『ヘッド・ショット』感想。

Headshot
Headshot / 2016年 インドネシア / 監督:ティモ・ジャヤント、キモ・スタンボエル

あらすじ
うっ、頭が。



頭部を撃たれて発見された男が2カ月後に病院で目を覚ます。記憶を失い名前も素性も思い出せない彼はイシュマエルと名付けられるが、彼がかつて関係していた犯罪組織から命を狙われることに。彼を治療するうち互いに惹かれ合っていた女医アイリンを人質に取られたイシュマエルは、組織の本拠地へと乗り込んでいく。『ザ・レイド』シリーズ、イコ・ウワイス主演のバイオレンス・アクション。

記憶をなくした男が激強かった、という「実は強い」系のアクションです。時折記憶のフラッシュバックに襲われながら、やたら強い敵軍団と戦っていく主人公のイシュマエル、彼にはある秘密があるわけですが、そこはさほど驚くほどではありません。と言うか設定や展開は何とも言えない奇妙な味わいで、目覚めたらいきなり親しげな女医とか、常軌を逸した敵部隊の成り立ちが平然と描かれたりとか、バランスはかなりおかしいです。それでもインドネシアの格闘技シラットを駆使した痛みや重さのある血だらけ高速アクションは絶品だし、絵的にすごく良いショットも多くて惹きつけられます。

イシュマエル役は『スター・ウォーズ フォースの覚醒』にも出演(すげーチョイ役だけど)を果たしたイコ・ウワイス。『ザ・レイド』ほど無双ってわけではないですが、それがかえってスリリング、そして期待に違わぬさすがな技のキレを見せてくれます。本作ではアクション指導も。女医のアイリン役であるチェルシー・イスランはメガネ美女として登場しますが、途中でメガネがどこかにいっちゃうのが残念。対する敵役のリーを演じるサニー・パンがシブいおじさまな上に存在感があって実に良いです。またタンクトップでセクシーに暴れまくるリカが最高。と思ったら『ザ・レイド GOKUDO』のハンマーガールことジュリー・エステルだ!顔がちゃんと出てます。美人です。

特筆すべきは、敵が皆打たれ強いということ。つまりそれだけ致命傷を与えなければ勝てないということであり、これがバトルをエスカレートさせててよりエキサイティングに。そしてイシュマエルと彼らとの関係が明らかになるにつれ、そこにエモーショナルな要素も加わってきます。結構なカルト作かも。

↓以下、ネタバレ含む。








話の繋ぎが少々雑だったり、人物の行動がたまに不可解だったり、敵と対峙してるはずなのに間が空いたりと、ちょっとノイズに感じる点は多いです。イシュマエルとアイリンの距離がいきなり近すぎるのが特に気になって、どう見ても医者と患者のやり取りじゃないし、病室でアイリンが寝泊まりするのもよくわかりません。寝顔にホレたということなんでしょうか。そのわりにはイシュマエルに抱きつかれたときは特にときめき反応もなかったしなあ。あと記憶がどこでどの程度戻ったのかが分かりにくいとか、アイリンと一緒にさらわれた少女はなぜ銃のセイフティを知ってたの?とか、イシュマエルの回想で倒される男は誰?とか、色々と惜しいんですよねえ。あと耳を撃たれて病院でアイリンを脅すクズ野郎は、それこそ最初にリーに脅されたように股間を銃で撃たれるとかもうちょいキッチリ殺してほしかった。

また、リーがさらってきた子供たちに生き残りをかけて戦わせて、残った強い者を手下にする、この「虎の穴か!」と思ってしまう設定は、育成の手間やコストを考えると個人で実現するのはどう考えても効率が悪いです。でもこれこそが物語の根幹に関わるところでもあるんですね。子供たちの打たれ強さはサバイバルによって培われた痛みへの耐性なのだとわかるし、なぜリーに忠誠心を示すのかの理由にもなっているし、ついでにアジトの佇まいが悪の秘密基地みたいでちょっとアガります。特に打たれ強さについてはアクションにダイレクトに反映され、序盤の刑務所で撃たれまくっても倒れないとか、警察でテーブル越しに突き刺さったナイフを抜くとか、タイプライターの破片が刺さったままの拳で殴るといった、ちょっと目を見張る行動に繋がります。倒したと思ったらゾンビのように背後で立ち上がってるとか、ちょっとしたホラーですよ。そりゃ手足をポッキリ折るくらい必要です。ザコのいない、狼の集団なわけですね。

この無茶設定を受け入れられれば、俄然面白くなります。なぜリーはそんなめんどくさいことをしたのか、ひょっとして家族が欲しかったのか?とも一瞬思いますが、家族と呼ぶのは子供たちに忠誠を強いて犯罪をさせるための縛りであったのだろうし、その縛りがイシュマエルの裏切りの理由でもあります。ところがリーはリカの死を知ったときに泣き出すんですよ。自分を本当に父親だと思っている、というリーのサイコパスっぷりが凄い。あるいはリカが「離れられない」と言うことからひょっとしたら男女の関係があったのかもしれませんが、どちらにしろ決して許されない類の悪である、という描かれ方が秀逸。加えてリー自身が最後に見せる強さ、しぶとさもあって、ラスボスとしての存在感はかなりのもの。あの鉤爪のような手の動きは『少林寺木人拳』かと思いましたよ。

立場的にはイシュマエルは他の子供たちとは兄弟であるため、徐々に記憶も蘇るなか同じ境遇で育った兄弟たちを倒さねばならない、というのが悲劇的ながらアクションの見どころにも繋がります。彼を慕っていたというメガネ君との戦いでは警棒を受ける腕が痛そうですが、額に警棒をくらって死ぬ、というのが急所狙い打ちという感じでリアル。またリカの美しい動作は唯一華を感じる戦い。殴られたシーンをスローにするところでは乳の揺ればかり目が行ってしまうのが難点ですが(最高とも言う)。林の中でのメガネ君との対戦から浜辺に移ってのリカとの対戦、というのは場面展開としてスゴくメリハリがあり、また全編に渡る薄暗くもパリッとしたショットの数々も良いです。

アイリンが再会したイシュマエルに最初は殴りかかる、というのも何気にいいですね。死ぬほど怖い目にあったというのが伝わってきます。その後でイシュマエルの危機を救い、血だらけ泥だらけになる二人。そんな経緯があるので、ラストで再び横たわるイシュマエルの側でアイリンが「また2ヵ月も待つのはイヤ」と言うのも、序盤と違って距離感としては納得できるものになっています。そして「アブディ」と書いた名前を消すアイリン、「僕の名前はイシュマエルだ」と言って目覚めるイシュマエル。タイトルの『Headshot』は観る前はヘッド・ショットで敵を倒しまくるという意味かと思ってましたが、頭を撃たれたことによりアブディとしての過去が終わり、新たにイシュマエルの物語が始まる、そのきっかけを示す言葉だったわけです。

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