2017
03.13

インモラルな闇を照らす光。『お嬢さん』感想。

ojyousan
Ah-ga-ssi / 2016年 韓国 / 監督:パク・チャヌク

あらすじ
日本人って変態。



1930年代、日本統治下の韓国で詐欺グループに育てられた少女スッキは、藤原伯爵と呼ばれる詐欺師から、莫大な財産相続権を持つ令嬢の秀子から財産を奪い取ろうという計画を持ちかけられる。スッキは珠子と名乗り秀子の屋敷にメイドとして働き始めるが、徐々に秀子に惹かれ始める……。パク・チャヌク監督によるサスペンス・ミステリー。

原作はイギリスの作家サラ・ウォーターズの小説『荊の城』ですが、そちらはヴィクトリア朝のロンドンが舞台なので原案というところですかね。舞台は日本統治下の韓国に置きかえられ、登場人物も韓国の俳優さんです。詐欺グループの藤原伯爵は、日本かぶれで自らを上月と名乗る叔父の元に暮らす箱入り娘の秀子を誘惑し、財産を乗っ取ろうと企みます。珠子ことスッキはそのサポートをすべくメイドとして屋敷に入り込みますが、そのうち秀子と惹かれ合ってしまいます。

基本はミステリーですが、これが実にエロスに満ちた女同士のドラマ。和洋混合の屋敷という舞台が日本独特の淫靡性に満ちていて、その素晴らしい美術のなかで絡み合う女二人には芸術性を感じながらも、それを拒むかのような動きと音による生々しさがあります。要するにしっかりエロい。モロに隠語が発せられるゲスな宴の変態性も凄くて、さすがはR-18。でもそれと並行して描かれる愛の物語が面白いです。

秀子役は『泣く男』のキム・ミニで、儚げなのに存在感ある美しさ。スッキ役のキム・テリはオーディションで抜擢された新人だそうで、様々な表情に逸材ぶりを伺わせます。この女優二人が素晴らしく魅力的。伯爵役は『テロ,ライブ』『群盗』のハ・ジョンウ、クソ野郎度が半端なくて思わず笑っちゃいます。主要キャストは相当日本語を練習したようで、字幕さえ付かないほど皆ペラペラ喋るのには驚きます。その日本語で話すということにもなぜか背徳感を感じてしまうんですが、自国のものではない言葉が本心を覆い隠しているからかもしれません。

ここまで日本をフィーチャーしたものを韓国映画に作られたのには参りました。ミステリーとしても実によくできており、江戸川乱歩をより露悪的に煮詰めたような感覚、そして仕上げにパク・チャヌクらしい『オールド・ボーイ』のような凄みまで。面白いです。

↓以下、ネタバレ含む。








序盤は二つの時系列の違う場面が交互に描かれたり、伯爵の計画説明がちょっと分かりにくかったりして少し混乱しましたが(自分の集中力が落ちてたんだけど)、スッキが上月の屋敷にやって来た辺りからもう怪しげなムード満点。油がもったいないと言って明かりを点けない薄暗さ、早口で捲し立てる佐々木夫人の無表情、そして叫びをあげる秀子お嬢さま、と一気に物語世界へ引き込まれます。やはり舞台となる屋敷が醸し出す雰囲気は大きくて、スッキが寝起きする押入れと秀子の部屋の豪奢な洋室という落差や、秀子が朗読をする大広間のインパクトなどが印象深いです。

特に大広間で、畳を上げると池や草木を置くスペースがあったり、入り口が仕掛け扉だったり、入ってくる者を威嚇するような蛇の置物があったりという凝り方が並ではありません。後にずらりと並んでいる本が全てエロ本(春画)だと分かるのが衝撃で、さらには地下室への入口まである。特上の変態である上月を象徴するような部屋です。そしてこの部屋は、卑猥な本や体位を披露する人形、幼い頃から叩き込まれた淫靡さ、地下で見た大タコのねっとりした恐怖と、何重にも秀子を縛る牢獄でもあると言えます。ちん○まん○言って笑う少女とそれを折檻する親父とか狂気ですよ。

そんな狂気も第一幕では匂わす程度で、第二幕で爆発、そして第三幕ではそれを破壊するという構成になっています。この構成はミステリーとしても上手くハマっており、第一幕のラストには思わず声が出そうになったし、第二幕で第一幕のシーンを秀子サイドから全く異なる視点で描き、第三幕で文句なしのどんでん返し、というのがたまりません。スッキと秀子の接近、裏切り、真相の描き方も巧みで、悪党に成りきれないスッキの純朴さ、純情と思われた秀子が見せる本来の姿、それらがどちらに転ぶか分からないというのがスリル。二人が惹かれていく様が実にエロティックで、秀子が飴を舐めたり珠子が歯をやすりで削ったりする入浴シーンなどは出色だし、伯爵をダシに全裸で絡むシーンでは二人の思いが迸ってると言えます。いやちょっとエロすぎですけど……。

一方の藤原伯爵は尻は触るわ乳は触るわ、スッキを陥れ、図々しくも秀子にプロポーズまでするという、一貫してクズです。スッキが精神病院から脱出するのに仲間が手を貸すのも藤原伯爵への反感があったんだろうし、そう考えると序盤に旅立つスッキに「なぜ日本人のクソ野郎のところに」と言って泣く仲間たちの心情が遡って分かります。ああでも藤原伯爵は最期がなんかカッコいいんですよ。指を裁断機で切断されながらも水銀タバコで逆襲し「チン○を守れて死ねてよかった」とまっぱで言って死に行く。金を手に入れて成り上がりたかった者が最後に見せる男としての矜持ですよ。とカッコつけたところで変態の巣窟で死ぬわけなんですけどね。

秀子を縛り付けていた牢獄で、エロ本を破り、切り裂いて、水に捨てていくスッキ。そんなスッキを見て秀子が「私の人生を壊しにきた救世主」と言うのが全てでしょう。そこには性を超え、過去をも乗り超えた愛だけがあり、その愛が二人の船出という勝利を勝ち取る。上月が幼い秀子の手を叩くときに使っていた"玉"も、もはや二人の快楽のための道具に過ぎなくなるのです。

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