2017
03.05

夢追い人の見た夢。『ラ・ラ・ランド』感想。

LaLa_Land
La La Land / 2016年 アメリカ / 監督:デイミアン・チャゼル

あらすじ
夢を見ていた。



オーディションに落ちてばかりの女優志望のミアは、ある夜ピアノの音に惹かれて入ったジャズバーでピアニストのセバスチャンと出会う。後日偶然再会した二人は最初はぶつかり合うものの、徐々に惹かれあっていくのだが……。『セッション』のデイミアン・チャゼル監督が、ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン主演で描くミュージカル・ドラマ。第89回アカデミー賞で監督賞、主演女優賞など6部門を受賞。

売れない女優ミアとやりたい音楽が出来ないピアニストのセブ、そんな二人が出会って恋に落ちるという物語を、L.A.を舞台に往年のミュージカル映画を思わせる歌とダンスで描きます。色彩の豊かさや照明の当て方などが華やかで美しい映像、良質な楽曲の高揚感と繰り返すメロディによる心情表現、そして長回しによるミュージカルシーンのダイナミズムといったさまざまな技巧がときにゴージャス、ときにエモーショナルに迫り、夢を追う二人の現実をロマンチックに彩ります。冒頭からして圧倒的なスケールで飲み込まれる高速道路の群集シーン、ミアとセブが惹かれ合うさまをファンタジックに映す天文台のシーンなど、心が踊る、あるいは締め付けられるシーンは素晴らしい。まさに「映画のマジック」です。

セブことセバスチャン役は『ドライヴ』『オンリー・ゴッド』のライアン・ゴズリング。歌と踊りをこなし、3ヶ月特訓したというピアノの腕前もかなりのもので、ホント器用な人ですね。ミア役は『アメイジング・スパイダーマン2』エマ・ストーンで、ミュージカルシーンの歌声も、とても豊かな表情も魅力的。本作はほぼこの二人の物語に特化していますが、二人とも見飽きない顔なので問題なし。ちなみにゴズリングとエマは『L.A.ギャングストーリー』でもL.A.を舞台に共演してますね。クリスマス・ソング好きの頭フリフリ店長として、フレッチャー先生ことJ・K・シモンズも出演。ジャズの演奏シーンも『セッション』のデイミアン・チャゼルらしさを思い出させます。また『エクス・マキナ』のソノヤ・ミズノがミアの友人役として出ていますね。

意外と賛否両論のようですが、僕はとても好きです。冬から始まる二人の関係のもどかしさ、微笑ましさ、難しさにはじわりとするし、エピソードや台詞がいちいち良いんですよ。ラストのアレには素直にやられました。原題の「La La Land」は舞台であるロサンゼルス(L.A.)のことで、そこに住んで夢を叶えようとする人たちのこと、転じて「夢見がち」という意味があるようです。だからラブストーリーというよりは「夢を追う人」の物語なんですね。そして文字通り、夢見るような映画です。

↓以下、ネタバレ含む。








■映画的な巧みさ

最初の曲"Another Day Of Sun"で始まる序盤のハイウェイは、トリッキーなカメラワークでほぼワンカット、遥か後ろの方まで皆踊ってるのがスゴくて、どうやって撮ったんだ!?と思わずにいられません(実際に高速道路を貸切って撮ったようです)。そして曲の終わりと同時に表示されるタイトルの出かたには震えます。「彼氏をおいて長距離バスに飛び乗った」から始まるこの曲からして夢を追いかける者の歌なんですね。それこそ性別、人種、得意分野を問わず、多くの夢追い人が集まる街。このシーンからシームレスに移動することで、夢追い人の中でもミアとセブをクローズアップした話であることが示されます。

本作は四季の名を冠した章立てになっています。「冬」から始まる各季節のイメージと重なるように、ミアとセブの関係も不安→高揚→情熱→寂寞、と推移していきます。わかりやすいですね。ストレートすぎないかという気もしますが、形としてはキレイに収まっているし、そもそもストーリー自体何も難しいことはないんですよ。それをミュージカル映画の語り方を巧みに取り入れて、カラフルでファンタジックに、娯楽としての映画的な演出で彩っているのです。人によってはそれはリアリティに欠けると感じるかもしれませんが、その分フィクションとしての面白さを追求したと言えるんではないでしょうか。冒頭でスタンダードサイズのスクリーンが拡がって「CINEMA SCOPE」と表示するのも「これは映画ですよ」と宣言してるみたいだし、最後に「The End」と表示するのも「これにておしまい」って感じがするんですよ。

ミュージカルシーンは基本全て長回しワンカット(擬似かもしれませんが)で、舞台的でもありながら自在なカメラワークによりやはり"映画"だと思わされます。ミアと仲間がパーティーに行く曲"Someone in the Crowd"、ドレスを着て出てきたミアから上空にカメラがパンして戻ると上からの視点で回る4人、「自分はそんな誰かに出会えるのだろうか」と歌って外に出た後のスローに動く人々とミアとの隔絶感、ミアの心情とは対称的にプールでグルグル回って花火でフィニッシュと盛り上がるパーティー。夜の高台での曲"A Lovely Night"では偶然の出会いに意味などない、夜景も別に良くない、といい雰囲気なのを強がって否定し、わざわざタップシューズに履き替えてコミカルに踊る二人。グリフィス天文台での曲"Planetarium"では、恋心で天にも昇る気持ちを「宙に浮く」というそのものの描写で描き、星空をバックに気恥ずかしいくらい優雅に踊る二人。

気になったのは、ジャズバーでセブの弾くピアノで踊るミア(可愛い)以降は、ダンスシーンは最後の「夢」シーンまでないということです。後半のほうが感情の昂ぶりは激しいけど、それをダンスで表現はしないんですね。むしろ「夢を追うぞ」とか「パーティーに行くわ」とか「やっぱ好きかもー」みたいな前を向いているときに踊っているように思われます。従来のミュージカルは不穏な状況や負の感情の昂ぶりでも踊りだす気がするので、あえて使い分けてるんでしょうね。そういう意味では往年のミュージカル映画へのオマージュかと言われれば微妙で、手法は同じだけど文脈は異なるのかもしれません。

ミュージカルシーン以外の演出も結構細かいところで効いています。オーディションで相手にされなかったミアが、コーヒーで汚れたシャツでエレベーターに乗ったら両隣を真っ白なシャツの女性に挟まれる。グレッグとの食事を放り出して店を出たミアの軽い足取りに合わせる様に舞う花びら(桜?)。道端から覗いた映画スタジオの四角く切り取られた情景が別世界のようで、ミアのいる世界との距離を感じる。春に二人で『理由なき反抗』を観た映画館が、秋には閉館している寂しさ。「車はプリウス」と言われて見たら同じキーがいっぱいあるとか、ミアが車を探すとき顎の下にキーを当てると見つかるなどコミカルなシーンから、その後「車のところまで乗せる」と言うミアにセブが「すぐそこだから」と言いながら入り口まで戻るところにまだ微妙な関係性を示したり。最後にセブの店で序盤の「椅子」を映したり。巧みです。


■二人の夢追い人

強がった態度で我の強そうなセブですが、序盤で騙された(姉いわくカモにされた)と何かしらのトラブルがあったことを匂わせるし、シモンズの店で「俺は生まれ変わった」と言うのも過去に失敗して一度クビになっていると思われ(一対一が百対ゼロになる弱さ)、それが「バリスタだから俺を見下すのか」と言うようなひがみっぽさに繋がり、「自分なんかが人を楽しませることができる」と自信のなさとも取れる発言をします。それらが合わさって「君は不遇の僕を見て優越感を得るために付き合った」という最低の台詞まで吐いてしまうんですね。あの食事シーンは最初は嬉し楽しい時間だったのに、ちょっとした言い争いから気まずくなるのがイタい。「人が言うことなど気にするな」というセブの口癖は、実は自分にも言い聞かせていたのかもしれません。

一方で自分の好きなことは絶対だという頭の固さもありますね。ジャズに関する熱意はウザいくらいだし、シモンズ店長にクリスマス曲以外を「心底では望んでたろ」という言い訳には呆れます。自分が素晴らしいと思うものは他人にとっても素晴らしいはずという驕りはタチの悪いオタクみたいですが、でもこの熱意がミアに対しても発揮され「君なら出来る」「君は才能がある」と言い続けることで、ミアは一人舞台を決意し、最後のオーディションにも向かうので、セブのこうした言動は「迸る情熱」であると捉えるべきなんでしょうね。ところでショルキー持ってウロウロするゴズリングとか「ジョージ・マイケル」と呼び止められて反応するゴズリングとか3回くらいビクッてなるゴズリングとか面白い。

ミアはセブに比べると真っ直ぐな印象。叔母の影響で女優になったという理由からも「好き」だけでなく「憧れ」があって続けてきたのだろうなと思えて、そこがまたある意味ピュア。真っ直ぐすぎて、映画館でセブを探すためにスクリーンの前に立つという暴挙に出ますが、まあこれも演出ですから……(「おい!」とは思ったけど)。だからその真っ直ぐさゆえに、セブが目指してきたのと違う音楽をやっていることにも疑問を持つんですね。セブとミアは共に夢追い人として描かれますが、二人のスタンスはわりと異なると思うんですよ。ミアが相手の夢も尊重しているのに比べて、セブは金のためにキースのバンドに入ったり、ミアの予定を考えずツアーに付いて来いと言ったりします。もちろんそれはミアのためだったり、一緒に居たいという思いの表れだったりするわけですが、真っ直ぐなミアにしてみればセブが夢を投げ出してしまったように感じられたのでしょう。実際セブは手段のはずのバンドが目的になってきたり、ちょっと流されかけてるようにも見えます。ミアは映画に駆けつけたのに、セブは舞台に行かなかった、というのも、真っ直ぐなミアと流されるセブという対比となっています。

それだけに、ミアがその真っ直ぐな思いを「もう一度セーヌ河に飛んでみたい」と言った叔母に重ねて歌う"Audition (The Fools Who Dream)"には、劇中最も泣けましたよ。周囲が暗くなりピンスポの中で「夢追い人に乾杯を」と独唱する、ここでも本作のテーマは強く感じられます。そんなミアに「全力でやれ」とセブが言うのは、廊下でこの歌を聴いていたというのもあるのかなあ、などと思うのです。「いつまでも愛してる」と言い合う二人が見上げる天文台、「昼間は初めてだ」と言うのが、まるで夢から覚めたかのような寂しさを感じさせます。


■引っ掛かる点

引っ掛かる点はあります。例えば時代設定はスマホや車のリモコンキーが出てくる以上現代なんですが、それにしては往年のハリウッドみたいな昔の雰囲気が漂います。5、60年代ハリウッドの華やかさが夢に憧れる象徴ということなんでしょうが、時々「今いつだっけ?」と混乱しました。古き良き時代にせずあくまで現代の話としたところに意味があるとは思いますが。

音楽観に関しては、ジョン・レジェンド演じるキースが率いるザ・メッセンジャーは、あれはあれで個人的にはカッコいいと思うんですが、セブの目指す音楽と違うがためにちょっとこれじゃない感を煽るような演出にはなってます。ただあくまでセブ視点では、ということであり、ミアが戸惑った顔をするのもセブの好みではないと思ったからで(ミアは「私は好き」と言う)、そこまでジャズ以外を愚弄しているとは思わなかったですけどね。そもそも「違うのはわかってる、でも今のままでは年寄りしか聴かない」「彼らは革命児だった」「ジャズは未来の音楽だ」みたいなことを言うキースはセブが一応の納得を見せるほどカッコいいので全然オッケー。a-haの"Take on me"をちょいダサめに見せるのもそれがセブの本意ではないと強調するためだし、あくまでセブとミアの物語だからそういう語り方になってるのだと思います。

あとは、ミアの舞台がガラガラだったのは宣伝方法に問題があったのではと思うし、ミアがグレッグとの食事中に、有線で二人が出会った曲("Mia & Sebastian’s Theme")が流れるのには「(設定上)オリジナル曲じゃないんかい!」と軽くガッカリはしました。あとあの予告編の作り方はなあ……いや、あれが却って良かったという声があるのもまあわかるんですが、ミアに肩をぶつけて出ていくセブには劇場中が「あれ?」という雰囲気になってましたよ。「上手いこと捻った予告だったのか」と感心する方が、感動するより先に来ちゃったんですよねえ。やはり知らずに観たかった。


■夢追い人の見た夢

そして5年後の冬、再会する二人。結婚して子供までいるのは驚きましたが、とにかく女優として成功したミアと、恐らくバンドを辞めて自分の店を持ったのであろうセブ。そして夢見ていた二人が、あの曲で思い描く夢。二人の幸せを綴るシーンの連続には、まるで二人が別れた話こそが幻だったかのような錯覚さえ覚えるんですが、でもそこは劇中最も「ミュージカル映画」的で、ハッピーな雰囲気に満ちた古き良き夢の世界なわけです。8mmっぽいフィルム映像で映すのも、それこそが虚構であるということ。元の場面に戻り、ハッピーな空想を現実が覆います。

この「あり得たかもしれない夢」を見てしまうというのは、今という現実と関係なくあの頃に戻ってしまえたということであり、「いつまでも愛してる」が嘘ではなかったことに他なりません。しかし既に道を違えた二人にはその「二人の夢」を具現化することはもうできないし、それは「自分の夢」を追う途上で手からこぼれてしまったものです。

でもそこにあるのは夢見ることの悲しさではないわけです。ミアはセブが説得しなければスターにはなっていなかったし、セブはミアがバンドを続けるのかと問わなければ店を持とうと思わなかったかもしれません。二人の結末は最良の形にはならなかったけど、それでも夢は見てもいいし、与えあった影響は糧となるんだという、夢への肯定がそこにはあるのです。セブの店の名前が「チキンスティック」ではなく「SEB'S」で、ロゴにミアの考えた音符を使っているのも、そこにミアから受けた影響を反映したかったからでしょう。だから去り行くミアにセブは微かに頷き、その思いを同じように持つミアは微笑む。最後に自分に頷いて弾き始めるセブにはせつなさを感じつつも、そこにあるのは決して後ろ向きな感情ではないと思えます。「冬」で終わる物語は、その寒さを乗り越えた先の「春」を感じさせて幕を閉じるのです。

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