2017
02.23

殺戮への抗えぬ衝動。『虐殺器官』感想。

gyakusatsu_kikan
2017年 日本 / 監督:村瀬修功

あらすじ
チェコの信号は変わるのが早い。



アメリカ軍特殊部隊のクラヴィス・シェパード大尉は、世界中で起こる紛争や虐殺に関わっていると思われるジョン・ポールという男を追跡するというミッションを受ける。ジョンの潜伏先とおぼしきチェコに潜入したクラヴィスは、ジョンと関係のありそうな女性ルツィアに接触するが……。伊藤計劃の同名小説をアニメ化したSF作品。

34歳で病没した作家、伊藤計劃の長編3作を映画化する「Project Itoh」も『屍者の帝国』『ハーモニー』に続き遂にラストの3作目。一度は制作会社の経営破綻により製作が危ぶまれていましたが、なんとか完成に漕ぎ着けてくれて一安心(エンドロールにもわざわざ出てきますが)。伊藤計劃の長編デビュー作でもある原作は僕も読みましたが、非常に面白いです。本作はその原作世界の映像化にアニメーションならではの大胆さと緻密さで挑んでいますね。戦争アクションでありながら会話劇であり、高度なSFでありながら哲学的思索にまで踏み込んでいきます。

優秀とは言え一介の言語学者であったはずのジョン・ポールが、いかにして紛争地帯の殺戮に関わっているのか。それを追いかけるクラヴィスはジョンを捕らえることができるのか。二人の邂逅は世界を揺るがす「人間の変質」にまで迫っていくことになります。伊藤計劃作品の映像化としては最も危惧していた本作ですが、骨子を崩さず上手くビジュアル化してると言ってよいでしょう。ゴア描写も辞さない軍事行動描写は激しく、捻れていく人物関係もなかなかのスリル。長台詞の見せ方も色々工夫はしてます。

思ったよりも分かりやすいのは原作未読者にとっても良いのではないでしょうか。虐殺の理論も納得できるようには作られていると思うし、楽しめました。ただ原作好きな人には、映像はともかくカットされた要素に関して物足りなさが残るかもしれません。

↓以下、ネタバレ含む。








近未来ガジェットの数々は思ったほど目立たない印象。FPSばりの戦闘シーンやヘルメット内の情報表示も悪くはないけど目新しくもなく、人工筋肉の描写などは原作ではもっとインパクトあった気がしてちょっと物足りない気も。でも実際絵にしたらあんな感じになるでしょうかね。バランス取ってあえて突飛さは抑えたのかな、とも思いますが、空から射出されて着陸後は強襲兵器となるポッドや、水中でイルカのようになる潜水艇、手が連なった翼を持つ飛行機などが出てくるのは良かったです。映像的にはなかなか良くて、複数のラインが文字の横線を作り出すタイトルもカッコいいし、プラハの美しい街並みは再現度高いし、クラブでの奈落の底のようなプロジェクション・マッピングは面白い。ちょっとリアルに寄せたキャラデザインも世界観に合ってます。難を言えば、アクションシーンと会話シーンのテンポに結構差があって、銃を向けられる緊迫感が会話の内容によるスリルに上書きされてしまう、というのがありますかね。

個人の管理化が進み、監視の目を逃れるためには違法なバーに行くしかないような社会。そうした情勢に反抗する勢力がジョンの協力者でもあるわけです。SFにはよく見られるものの、管理社会による縛りの徹底化という視点はまさに今の現代的でもあり、その両極にいるかのようでありながらどこか通じてしまうクラヴィスとジョンは、現代の管理社会における立ち位置の多様化を感じさせます。国を憂いながらそれを救うため虐殺を繰り返すジョンと、国の言いなりに人を殺すクラヴィス、その間で虐殺を止めようとしながら自身が犠牲となるルツィアという配置なんですね。

クラヴィスの内面がほとんど語られることがないため、彼がルツィアに惹かれるのがいささか唐突な気もします(原作ではクラヴィスの母親が関係してたような?)。でもこの辺りはルツィアの美しさと彼女の語る言葉がクラヴィス視点でグイグイくるため、それがきっかけだったとは言えるでしょう。あとジョン・ポールを射殺するのがクラヴィス自身であるというのは原作と異なる点です。アメリカを他国から守るために虐殺の文法を使ったジョンと、自身を罰するために自国を破壊するクラヴィス、という構図が、ジョンの意思をクラヴィスが受け継いだかのようになっているんですね。原作とはニュアンスが変わってしまいますが、クラヴィスの心情を台詞で表して陳腐になるよりはいいかもしれません。ただ、最後にクラヴィスが虐殺の文法を使ったというのがちょっと分かりにくいのは残念。

人間には虐殺の器官が備わっていて「言葉が思考を定義する」、というのは、そもそも人間が持つ残虐性と、思考を言語化することによる周囲への影響、例えばアジテーションといったものを、より具現化し手続き化した概念と言えます。そして個人の行動が国により阻まれ、しかしその国を最後は個人が崩壊へと導く。これが「大災禍(ザ・メイルストロム)」を引き起こし、続編である『ハーモニー』の新たな管理社会へと続いていきます。ピザを食べながらそれを眺める我々は、果たしていつまで部外者でいられるのか。いつだって気付かないうちに、ちょっとした言葉で虐殺の渦中に巻き込まれるかもしれない。それが今の世界なのだ、という警鐘にも取れるのです。

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