2017
02.13

闇の中、出口に向かって。『エンド・オブ・トンネル』感想。

end_of_tunnel
Al final del túnel / 2016年 アルゼンチン、スペイン / 監督:ロドリゴ・グランデ

あらすじ
ここ掘れワンワン(言いません)。



車イス生活を送るホアキンが自宅の部屋を貸し出したのは、ダンサーの女性とその娘。徐々にその母娘と交流を深めていくホアキンだったが、ある日地下室で奇妙な音を耳にする。それはある犯罪計画に関わるものだった……というサスペンス。「未体験ゾーンの映画たち2017」上映作品。

これは驚きの面白さ!自宅に引きこもり孤独に暮らす車椅子の男ホアキンが、金策のため家の2階の部屋を貸し出すことにしたところ、そこに名乗りを上げたのがストリップダンサーのベルタとその娘ベティ。自分の殻に閉じこもっていたホアキンですが、陽気に接してくるベルタにやがて少しずつ打ち解けていきます。そんななかホアキンは自宅の地下室で、悪党共が銀行を襲う計画を偶然知ってしまいます。不自由な体、ワケありの母娘、間近で進行する強盗計画、これらの要素が徐々に渾然一体となっていき、緊張感溢れるクライム・サスペンスにして高揚感滾るケイパーものへと展開。さらには家族愛と希望の物語にまで昇華されていくのです。これは極上の娯楽作。素晴らしい!

ホアキン役は『人生スイッチ』のレオナルド・スバラーリャ。ちょっとジョージ・クルーニーっぽい色気と男くささが良いです。車イスながら様々な技術を駆使するホアキンを見てると、これはエンジニア映画でもありますね。ベルタ役のクララ・ラゴは存在感あるラテン美女で、セクシーダンスまで披露してくれます。次回作ではリーアム・ニーソンと共演だとか。あと年寄りの犬が出てくるんですが、これが寝てるだけかと思いきや意外な役割を持つのも面白いです。

あまりのスリルに何度も声が出そうになります。そして痒い所に手が届く丁寧な作りながら、必要以上に多くは語らない。じっくり描くところは描き、それでいてテンポもいい。伏線の回収も見事で、全てに納得のいく理由がつくのも気持ちがよいです。『ドント・ブリーズ』のような息の止まるスリル、『大脱走』を彷彿とさせるトンネルという舞台、『ダイ・ハード』を思わせる閉塞感ある通路での攻防、そしてじんわりする暖かみと、色々盛っているのに全く煩雑ではなく、実によく練られている。最高です。

↓以下、ネタバレ含む。








地下室から聞こえる男たちの声、それは銀行の金庫室までトンネルを掘って金品を強奪しようという犯罪計画。やけに時代がかった計画ではありますが、それを知ったホアキンは裏をかいて自分がその金を奪うことを決意します。これが実にスリリング。一度は地下室に開けた穴から偵察に行ったら夜しか来ないはずの犯人たちがやってきて慌てて脱出。次にはトンネルから戻る途中で犯人たちが来て脱出できず、脇道に隠れて息を殺す。そして仕込んだカメラで様子を見ていたらべティちゃんがそこに!これらのシーンには「ヒ~!」って声にならない声が出ましたよ。

ホアキンが下半身が動かないため素早く行動できないのも非常にもどかしい。この「主人公が車イスである」というのがスリルでもありつつ、不自由な体でどう横取りするか計画を練ったり準備をしたりするプロセスにはワクワクします。技術屋らしいテクニックを随所に活かすのも楽しい。車イスだからこそ疑われにくいはずなのになぜそれが崩れるのか、いざというときどう反撃するのかなども予想が付かずハラハラ。水攻めにしたとき犯人の一人を助けようとして引っ張られるのもかなり際どいですが、ここでホアキンが悪人になりきれない男だというのも表れているんですね。

また、細かい描写がいちいち秀逸。ベルタが偶然見つけた妻と娘の写真、庭に放置されたグチャグチャの事故車などから、ホアキンが事故で妻子を失い自分は車イスとなった経緯が伺え、それがホアキンが母娘を救おうとする動機に繋がることも分かります。べティちゃんが犯人の腕時計を持ってきてしまうのは足がつくんじゃないかとビビりますが、これが逆転のきっかけになるのには喝采。トンネル脇道に隠れたときにその腕時計の持ち主を「信用できない」と言っていたのも伏線になってるんですね。また犯人リーダーが、情報漏らした仲間をツルハシでブチ殺すところでこいつの危なさがわかるし、ペドロリのクズ野郎なので死んでよしという理由付けもできる。あとトンネルを匍匐前進で進んだら肘を擦りむく、だからそれを教訓に次は包帯を巻く、というこの細部が良い!べティちゃんが言葉を失った理由がラストに繋がってくるというのも唸るし、何となく「伏線かな?」と思う犬を安楽死させるためのクッキーがここぞというところで活かされるのもナイスです。

この作品がよくできてるのは、クライム・ストーリーでありながら一人の男の過去、現在、未来までを描くところです。事故で家族と両足の機能を失うという悲劇に見舞われた過去。そこから抜け出せないまま自宅に引きこもり、金にも困り、長年一緒だった愛犬も寝たきりという現在に、突如現れたベルタ親子。彼女たちと接するうち、ホアキンは地下室で一人、突然込み上げてきた感情を抑えられず涙します。自分の妻子を重ねてしまったために枯れ果てていた涙が流れたのでしょう。だからこそベルタの正体を知りながらも彼女たちを救おうと現金強奪を決意する。それは同時にホアキンにとっての再生をも意味します。そして未来を手に入れるため、不自由な体を引きずりながら危ない橋を渡る。泣かせるじゃあないですか!

結局金は手に入りませんが、クズロリ野郎はベルタによって葬り去られ(額に一発!)、脅していた黒幕も死に(金を持っていたので全ての罪は彼に付く)、結果的にホアキンたちは全ての憂いから解放されます。思い出の残ったあの家は恐らくホアキンを縛りつけてもいたのでしょう、その家を売って新たな人生へと旅立つためドア口に立つ三人。地下の危険なトンネルを抜け出たホアキンにとって、ドアの向こうは彼がさまよっていた悲哀というトンネルの出口でもあるのです。犬にしか心を開かなかったべティちゃんが、最後にそっとホアキンと手を繋ぐラストシーンにじんわりします。

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