2017
02.05

選択にて生まれし魔術師。『ドクター・ストレンジ』感想。

Doctor_Strange
Doctor Strange / 2016年 アメリカ / 監督:スコット・デリクソン

あらすじ
ドクターと呼べ。



天才的な技術を誇るも性格は傲慢な神経外科医スティーヴン・ストレンジは、不慮の事故による両手の大怪我で医者としての道を断たれてしまう。諦めきれないストレンジはあらゆる手段を模索するうちにやがて魔術の力へ辿り着くが、そこで思いもしない強大な敵との戦いに巻き込まれていく……。マーベルの異色ヒーローを実写化したアメコミ・ムービー。

『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』から始まったMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のフェーズ3に新たなヒーロー、ドクター・ストレンジが登場!中枢神経や脊髄系などの名外科医としてスーパードクターの名を欲しいままにする男、スティーヴン・ストレンジ。おかげで天狗になっちゃって、他の医師は無能扱い、名声を得られないERには見向きもしない、要するに調子こいた奴なんですが、そんなストレンジが事故で両手を潰してしまい医者廃業の大ピンチ。しかしそんな折り、ある情報を頼りに飛んだチベットで手を治せるかもしれない希望が見つかります。それが魔術!しかし魔術に関わったがために、やがてストレンジは世界の危機に直面することになるのです。

というわけで、超能力や神話世界とはまた一味違い、ドクター・ストレンジが操るのは魔術。魔術ってなに?と聞かれても「魔力を操る術です」としか返せませんが、魔術によって空間を飛び越えたり作ったり、盾にしたり武器にしたり、なんか色んなことができます。超便利!そしてこの魔術を駆使したビジュアルがとにかく圧倒的!周囲の世界が拡がって、捻れて、回って、全てが動くドラッギーな映像には「うひょー」と声が漏れそうになるほど。現実の情景を非現実的に動かすというのは『マトリックス』や『インセプション』でも見られたため「全く新しい」とは言いませんが、それでもこの映像体験は今までにないほど「快感」です。

ドクター・ストレンジを演じるのは『SHERLOCK シャーロック』を始め『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』などのベネディクト・カンバーバッチです。様々な役者の名が上がり紆余曲折あったドクター・ストレンジ役ですが、蓋を開ければバッチさんは大ハマり、文句なしです。ヒロインのクリスティーン役は『スポットライト 世紀のスクープ』レイチェル・マクアダムス。元々可愛いんですが、今までにないくらい可愛いです。一方でストレンジの師匠となるエンシェント・ワンを演じるは『スノーピアサー』などのティルダ・スウィントン様。元々浮世離れしてましたが、今までにないくらい人知を越えてます。敵対するカエシリウスには北欧の至宝こと『悪党に粛清を』のマッツ・ミケルセン、ストレンジの兄弟子モルドに『それでも夜は明ける』でもカンバーバッチと共演したキウェテル・イジョフォーで、二人ともアクションシーンも豊富。イジョフォーとは『オデッセイ』で共演したベネディクト・ウォン、華麗なアクションで魅せる『ニンジャ・アベンジャーズ』のスコット・アドキンスらが脇を固めます。

思いの外コメディ色があって笑えるというのが予想外ですが、しっかりヒーローものとして大事なものもあって、終始楽しいです。不満な点もなくはないですが、単独でここまで世界観の構築をしてくれて、かつ個性的ヒーローの誕生譚を描いてくれたのならオッケーですよ。そしてやはりヒーローにはマントだな!ちなみにMCUに特化したマーベルスタジオの新ロゴもカッコいいです。

↓以下、ネタバレ含む。








■怒涛の映像体験

見たことのないような世界をダイナミックに見せてくれる映像、本作の一番の見どころを上げるとしたらやはりそれでしょう。序盤でカエシリウスとエンシェント・ワンが戦うシーンからしてスゴい。重力が自在に傾き、ビルが命ある機械に変わったかのような舞台でのカンフー的体術の激突には、いきなりフルスロットル感満載。多元宇宙(マルチバース)に飛ばされた際のドラッギーかつスペイシーな映像には目を見張るし、ストレンジたちとカエシリウスのニューヨークでの戦いはエッシャーの騙し絵を実写化したかのよう(『ナイトミュージアム エジプト王の秘密』の方がエッシャーそのものでしたが)。

部屋が拡がっていく万華鏡のような動きや、空間が歪んだトリックアート的なショット、チャカチャカ戻る時間のなかで逆に飛んでくる障害物を避けながらの戦い(カエシリウスが逆再生で動くのが笑う)、アストラル体同士の異なる位相でのバトルも面白い。これらの映像は、魔術師が空間と時間を操り魂さえも操る超越した存在であるというのをこれ以上ないほど視覚的に表しています。あと序盤でストレンジの事故った車が横回転しながらブッ飛んでいくシーンも地味にスゴいです。よく死ななかったなストレンジ先生。


■「ドクター」であること

ベネディクト・カンバーバッチは序盤の高飛車な感じから、負傷後の手の震え、自暴自棄になってのブチギレなど演技の幅がさすがです。あの佇まいなので手術シーンも自然と名医に見えるし、それでいて手を回して陣を浮かばせるという中二感満載シーンも様になってます。バッチさんが多元宇宙(マルチバース)を飛ばされていくシーンやマントに引っ張られるシーンでは撮影時にひとりでワーッてやってたのかなあと思うとちょっと笑えますが、『ホビット 竜に奪われた王国』でスマウグを演じる時も喜々としてやってたから今回もノリノリだったんじゃないですかね。

それ以前にコミカルなシーンが予想以上に多いのは意外と言えば意外。ドア開けられてゴロンと転がったり、アストラル体で修行を効率化したり、ウォンの目を盗んで本を取ったりとストレンジのお茶目さも目立ちます。修行シーンは端折ってる感じがしなくもないですが、もともと天才肌なので習得も早いわけですよ。その頭脳とウィットに富んだ雰囲気はトニー・スタークに近いものがありますね。魔術師のわりに戦いは魔術より物理中心なのが気になりますが、スリング・リングがメリケンサックにも見えるのでまあしょうがない。笑いという点ではマッツのカエシリウスが「ミスター・ドクター」って呼んじゃうのもクスッてなるし、あと拘束具で固められたマッツはかなり面白いです。レイチェル・マクアダムスがアストラル体に驚く姿もキュートで、ストレンジが去った後にモップが倒れて「キャッ」てなるのカワイイ。超カワイイ。そういえばスタン・リー御大は今回はカフェで余裕こいてました。

そして浮遊マントですよ。MCUではソーやヴィジョンも着けてますが、あれほど存在感を主張するマントはないですよ。むしろムジョルニアやジャーヴィスの枠ですね。襟で涙を拭くとか可愛すぎます。それでいてマントをバッサァ!と装着するという、マントならではの絵になるシーンがあるのが嬉しい。なぜマントがストレンジを選んだのかは謎ですが、伝説の剣が勇者を選ぶみたいなものだと思えばそれほど気にならないです。

本作では傲慢で自信家のスティーヴン・ストレンジがヒーローになるまでが描かれるわけですが、魔術に出会ったストレンジはあくまで自分の手を治すために修行に励みます。だからカエシリウスらと戦うのも最初は成り行きだし、自分は準備が出来ていないと言って身を引こうとさえします。医者としての自分が大事なのかと思うわけですが、敵を殺してしまったことで「命を守るために医者になったのに」と思わず本心を漏らしたことで、彼には他者を守る素養があるのだとハッキリ描くんですね。「ミスター」という一人の男ではなく「ドクター」という呼称にこだわるのもそのためでしょう。だからエンシェント・ワンとの最後の会話で外科医に戻るか魔術師として戦うかの選択を迫られた際、彼女が止め続けた災厄を見てストレンジが戦いを選ぶことに齟齬はないのです。


■繰り返しの不備

ただ、全体の構成としてはちょっとスマートさに欠けるところも。特に病院に戻るのがストレンジ負傷とエンシェント・ワン負傷で二回、ニューヨークの同じ場所でカエシリウスを迎え撃つのが二回、といった繰り返しが非常にくどいです。ドルマムゥ戦の繰り返しの伏線というわけでもないので、ここはもう少し脚本を練って欲しかったところ。あとはカエシリウスと対峙してるはずなのに、ちょっと動きが止まっちゃうところがあるのは緊張感を削ぎますかね。ドルマムゥのデザインもちょっと、うーん、まあ顔の表面が動き続けるのは得体の知れなさがあっていいんですけど。

ちなみに笑いが多かった点に引っかかるという意見が意外と見受けられたんですが、個人的にはこれはありだと思います。わりと軽妙なストレンジのキャラクターならシリアスもコメディもいけるし、それは今後の語り方の幅にも繋がると思うんですよ。


■時は動き出す

本作の重要な要素として「時間」が言及されますが、これは良かったです。リンゴを使った部分的な時間の操作でその強大な力と禁忌の理由が示され、それだけにカエシリウスの企みがヤバいという理由付けが成されるんですね。しかしその禁忌の力を使ってでも戦うところに、ストレンジの柔軟性も表れています。何よりアガモットの眼によるループで「負け続けること」によりドルマムゥを止めようとするストレンジ、繰り返すから死なないのだとしてもそこには肉体的激痛があり続けるわけで、「ドクター」にこだわったストレンジが人々の命を救うためにその手段を躊躇なく選んだ、というところにヒーロー性を感じるのです。またクリスティーンからもらった大事な腕時計が壊れるシーンがありますが、そこにはそれまでストレンジが生きてきた時間の終焉が投影されており、そんな彼が時をも操る「ソーサラー・スープリーム」になるというのが、クリスティーンとのせつない別れと相まってヒーローの孤独さを感じさせます。

ラストの時間の逆回転を含め、ちょっとクリストファー・リーブの『スーパーマン』を思い出したんですが、それがかえって好ましい。その強大な力をどう役立てるのか、そして考え方がすれ違ってしまったモルドとどう対峙することになるのか、それはストレンジが今後背負う苦悩となって描かれるのでしょう。そしてウォンが言う「アベンジャーズは物理的脅威と、我々は神秘的脅威と戦う」の言葉でMCUとの繋がりも明示されます。アガモットの眼がインフィニティ・ストーンであるという事実、エンドタイトル後のソーとのおとぼけなやり取り。地球とアスガルドの中間的立ち位置として、ドクター・ストレンジは今後重要な役割を担っていくことでしょう。そしてソーの次回作『ソー:ラグナロク』辺りでマーティン・フリーマンとの『SHERLOCK』コンビが邂逅か?それも含めて今後もMCUにはワクワクさせてもらいますよ!

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