2017
01.23

愛は生臭さを超えて。『人魚姫』感想。

ningyohime
美人魚 Mermaid / 2016年 中国、香港 / 監督:チャウ・シンチー

あらすじ
恐怖!鉄板焼き!



リゾート開発のため海を埋め立てるプロジェクトを進める実業家のリウ。この海に暮らす人魚族は埋め立て計画を阻止するべく、人魚のシャンシャンを人間に変装させてリウの元へと送り込むが……。中国歴代興行収入No.1となった、チャウ・シンチーによる人魚と人間のラブコメディ。

人魚姫と言えば、人間との叶わぬ恋を描いたアンデルセンの悲恋童話ですが、本作は製作・監督・脚本がチャウ・シンチーなので、もちろんそんなおとなしい話ではありません。実業家のリウは成金で自分勝手で女好きのクズ野郎で、そんな彼がノリで買収した自然保護区に一大リゾートを建設しようとします。怒ったのはその保護区の海に住む人魚たち。彼らはリウのパーティーにシャンシャンという人魚を送り込み、色仕掛けで油断させたところを暗殺しようと企みます。こう書くとキナ臭いですが、これが序盤から大笑いのコメディ。さすがチャウ・シンチーという残虐性と表裏一体の笑い、女性に対しても容赦ない痛さ、インパクトある登場人物。しかしこれがまさかの純愛ラブストーリーで、しかもまさかの泣き物件というのが驚き。『西遊記 はじまりのはじまり』でもそうでしたが、ファンタジーを引きずり下ろして現実的な話にしながら、着地がドラマチックなのも実に良い。

主人公の人魚姫、シャンシャン役のリン・ユンは新人なんですね。オーディションで12万人の中から選ばれたというシンデレラです(人魚だけど)。とぼけたコメディエンヌっぷりも良く、ちょっと間の抜けたスー・チーという感じでとても魅力的。シンチーは新人を見出だすのが上手いなあ。リウ役のダン・チャオはいかがわしい三上博史という感じですが(なんだあのヒゲは笑)、ノリノリのバカ富豪っぷりが面白い。キティ・チャンのお嬢様がセクシーで良いです。ナイスおっぱいです!そしてチャウ・シンチーと言えば強烈な顔面を持つ素人の起用ですが、今回も人魚のイメージをブチ壊すおばちゃん人魚とかなかなかキツくて良いですよ。タコ兄の体を張ったネタも爆笑。『少林サッカー』のティン・カイマンやラム・ジーチョンも恒例のチョイ役で出演してます。

環境保護を匂わせるテーマに若干引きそうになりますが、説教臭くなるギリギリで回避してる印象。何より命がけの恋物語にはときめきよりも熱さを覚えます。ファンタジーをコメディで彩りアクションをブチ込んでラブロマンスで仕上げた、特盛娯楽作です。

↓以下、ネタバレ含む。








冒頭のインチキ博物館長からしてヒドすぎて笑います。なんだあの腹の毛は。人魚がこの館長だけだったらどうしようと不安になるので、シャンシャンが出てきて本当に良かった。シャンシャンは人間らしく見せるために改造された改造人魚である(尾ひれを切っただけですが)、ということで下半身はやはり魚なので、歩くよりスケボーに乗った方が楽なんですね。人魚の隠れ家に帰るために仕込まれた無駄にアドベンチャーなギミックが愉快。そこで暮らす異形の者たちには、マーメイドゥ!なきらびやかさはなく、普通におっさんやおばちゃんもいるし、魚部分がやけに生々しくて生臭いです。リアリティという点では正しいんですが……ああ、マーメイドのイメージが……

やりすぎ感ある笑いはチャウ・シンチーならでは。ヒロインであるシャンシャンでさえ、ブン投げられたり顔面にモノを投げ付けられたりリウの華麗なステップに手を踏まれたりと結構ヒドい目に逢いますからね。タコ兄はもっとヒドくて、食われたり焼かれたりしそうになる序盤のしつこさは笑うし、味方から毒針食らって泡吹くし、自らを食材にしてでも暗殺遂行しようとする根性には頭が下がります。あと人魚族長老のババアが凄い!水で飛行機や爆弾まで表す表現力に加え、巨大尾ヒレでの攻撃力も激強いです。かつて人間と恋に落ちた、というのを仄かに匂わせるのがニクいですね。リウのビジネス仲間(薄毛)がジェットパックで飛ぶときに「ゲッターロボのテーマ」が流れるのには驚きつつも吹きますが、『西遊記 はじまりのはじまり』では「Gメン75」だったし、意外な曲を引っ張ってくるのがタランティーノとはちょっと違ったセンスで楽しいです。

音楽と言えば、印象深いのが劇中何度も流れる「Fist of Fury」のメロディです。『ドラゴン怒りの鉄拳』のテーマ曲ですが、チャウ・シンチーがブルース・リー好きというのはあるにしろ、日本人に蹂躙された中国人武術家の復讐譚のテーマ曲を使うところに、人魚族の人間に対する恨み辛みが表れます。それを具現化するように、人魚たちが悪辣なソナーでボロボロになった姿も映される。そのため環境保護とか動物愛護的な観点が取り沙汰されそうですが、込められた思いはもっと包括的なものだと思うのです。金にものを言わせる輩が犯す過ち、住みかを追われる者たちの悲しみ、自分達と違う者を虐げる残酷さ、自意識により他者を傷付ける愚かさ。笑いの裏では様々な悲劇が描かれます。だからこそリウとシャンシャンが惹かれ合うという展開が際立つと言えます。

拝金主義の権化たるリウが、シャンシャンとチキンを食べたり(食べ過ぎ)、いきなりデュエットで歌ったり(しかも躍る)、吐くまで遊園地の乗り物に乗ったり(そして吐く)、そんな中で貧しくとも心豊かだった子供の頃を思い出す。無くしてしまったものに気付き、新たに出会ったものを愛おしむ。あえておとぎ話そのもののベタな恋愛物語とすることによって争いによる空しさを浮き上がらせ、いがみ合うより愛し合おうというピースフルなメッセージへと変換させる。笑いを糧にしながらも、やがてそのメッセージは痛みを伴いつつエモーショナルに突き刺さってきます。ラストに映る陽光に輝く美しい海、そして人知れず一緒になった二人。泡になって消える童話をハッピーエンドに変えたこともまた、嘆くより笑おうという前向きさを感じさせます。タコ兄も足が生えてきてよかったな。さすがタコだ。

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