2017
01.21

すれ違う人々、忌避すべき狼。『ドラゴン×マッハ!』感想。

dragon_mach
殺破狼II SPL 2: A Time for Consequences / 2015年 香港、中国 / 監督:ソイ・チェン

あらすじ
カンフーvsムエタイvs所長!



臓器密売組織を摘発するため潜入捜査をする香港の刑事チーキットだったが、正体がバレてタイの刑務所に監禁されてしまう。その刑務所の看守チャイは、自分が刑事だと訴えるチーキットを奇妙に思っていたが、やがて刑務所長コーの真実を知り……。トニー・ジャー、ウー・ジン主演の香港アクション。

原題は『SPL2』で、ドニー・イェン主演だった『SPL 狼よ静かに死ね』の続編に当たりますが、直接の関係はない模様(実は現時点でまだ観れてないんですが……)。本作は臓器密売を軸に男たちの苦悩と正義が炸裂する、これはもうハードボイルド・アクション巨編と言っていいでしょう。のっけから臓器売買組織によるえげつない闇行為が映され、ヤク中一歩手前までいくハードな潜入捜査が描かれます。一般人をも巻き込んだ銃撃戦、保護対象者を巡る死闘、タイの刑務所に囚われる脱出不可能状況と、とにかく絶望的な危機の連続。その中で繰り広げられる銃撃戦から格闘戦まで怒濤のアクションが凄まじいです。

チャイ役は『マッハ!』シリーズのトニー・ジャーで、タイのスターが香港映画で主役を張るというのは異例じゃないでしょうか。そしてチーキット役は『ドラゴン・コップス 微笑捜査線』のウー・ジン。このムエタイとカンフー両雄の肉体を酷使した限界アクションが凄まじいのです。さらに刑務所長コー役、『グランド・マスター』のマックス・チャンが、ピッチリ決めた髪型にスーツ姿で魅せる鬼強さ!ロケーションを活かしたバトルに、ここぞというスローの使い所!そして度肝を抜く超絶長回し!『ホワイト・バレット』で長回しワンカットアクションの新たな地平を見たばかりのところに、「アクション映画にはまだ先がある」と言わんばかりの見せ場の数々で、感動しきりです。

アクションが抜群なだけでなく、ドラマもとても良いです。人身売買の恐ろしさに憤り、命懸けの潜入捜査に緊張し、すれ違う人々の邂逅に泣き、守るための勇気に熱くなる。ドラマの熱がアクションの興奮をさらに引き立て、逆もまた然り。『エグザイル 絆』『アイスマン』のサイモン・ヤムや『毒戦 ドラッグ・ウォー』のルイス・クーらの存在感もさすがだし、香港とタイを繋いでのスケール感もある。期待を遥かに越える素晴らしさ、最高峰のアクション映画だ!

↓以下、ネタバレ含む。








■空間の演出

空間の使い方が上手いんですよ。広いスペースを俯瞰で突き進むカメラが心地よく、かつそれで全体をまず見せて、その中で攻防戦が始まるという手順を踏むので、空間を把握しやすいです。一方で診療所で襲われる際の狭い階段ではアングルの工夫とカットの繋ぎで、閉塞感がありながらも単調にならないようになっています。また、チーキットらがフェリーターミナル2階から飛び降りるときにカメラがそのまま窓を通りすぎていったり、終盤にビルに向かって高所から迫るカメラがそのまま中に入っていくなど、壁を抜けながらのシームレスな映像にも「おっ」と思います。ターミナルでチーキットを撃とうとするチャン叔父を組織幹部が見るシーンの位置取りもイイ。ターミナルの銃撃戦は敵味方入り乱れての撃ち合いもさることながら、始まる前のポジショニングによる緊張感もたまりませんね。もちろん刑務所大乱闘でのカメラの動きも素晴らしいです。

あと音楽がとても良いです。ターミナルでの緊張感ある旋律、捕まったチーキットとチャン叔父が脱出しようとするときの寂しげなメロディ、ラストバトルで徐々に音量を上げていく荘厳なレクイエムなど、どれもシーンによく合っています。エンドロールに入る直前に流れる曲『I Still Carry On』がスゴく好き。もちろんエンドロールで流れるテーマ曲の熱さもたまりません。サッポ~ロ~ン♪


■人物の立ち方

登場人物の人物像や関係性も把握しやすいです。序盤のやり取りでチーキットを潜入捜査につけたのがチャン叔父だと分かります。ヤク中になりかけていることはその後チーキットを追い詰め、刑務所で禁断症状からの喉の渇き、そこから便器を映すのがキツい。ヤク切れで朦朧としてるから、電話で話してる番号が自分のものだと分からないのかもですね。あと自分を刺しておびき寄せるときに深く刺しすぎなのもこのせいか(単にやりすぎただけの気もしますが)。さらにサーへの骨髄提供が3年は出来ないという失望と祈りのドラマにも繋がります。チャン叔父は万力で手首砕いたり背中から刺されたりとかなり瀕死だと思うんですが、犬マネする余裕を見せるだけあって大丈夫でした。さすがサイモン・ヤム。ウー・ジンはカッコいいんだけど、自分を刺したときなどたまに変顔になるのが面白かったです。

チャイと娘のサーちゃんのやり取りはどれも良いですね。ムエタイ戦士も氷の上ではヘッピリ腰という微笑ましいシーンに始まり、チューブの刺さった手をチャイの背中に回しながら「大丈夫だよ」と言うサーちゃんや、チャイの話す植物の種の例え話などもとても良いです。というかサーちゃん可愛いすぎる。サムズアップしたり、お医者さん遊びを「ただのごっこ遊びよ」と言ったりおませさんだな!サーちゃんの入れた翻訳アプリのおかげでチャイとチーキットがコミュニケーションを取れるというのもお手柄。物凄い精度の高い翻訳機能だな、欲しいなアレ。さらには翻訳機能がなくても絵文字で会話できるという能力も凄い。あとあのマスクは何だろうと思ったんですが、ひょっとしてアイアンマン?リパルサー撃つポーズをとったりもするのでアイアンマン好きのようです。だから自分を救えるチーキットはきっとヒーローに見えたことでしょう。チャイの同僚のおじさんもサーちゃんの薬代がかかるという話を聞いてチャイを組織の仕事に巻き込んだのでしょう。悪い人ではないんですね。

組織の黒幕である坂本龍一ことホン・マンコン、髪型とメガネのせいで最初ルイス・クーと気付かなかったんですが、あの虚弱な悪党の親玉像がイイですねえ。本人は最弱でも、恩義を感じる最強の番犬コー所長ことマックス・チャンがいるので全然オッケー。実の弟から心臓を奪おうという生への執念が凄いです。弟はそもそも兄と一緒に人身売買に手を染めていて、序盤に拉致した妊婦を診察するのが彼ですね。その妻も、指輪に仕込んだ針から同じくグルだったとわかります。あの奥さんの平手打ちは尋常じゃなかったですが、結局はあっけなく撃ち殺されてしまいます。そんな目に会っているのに、それでも死にゆく兄を憎み切れない弟に、この兄弟の悪くなかった関係性が見て取れます。


■怒涛のアクション

序盤の刑務所で早くも見せてくれるトニー・ジャー対ウー・ジン!ここでトニー・ジャーがムエタイの首相撲をかけたり、ウー・ジンをブッ飛ばした後でおなじみの「ハッ!」という構えを見せてくれることで「ちゃんとムエタイ使いという設定なんだ!」とアガります。舞台がタイだから違和感がないのも良いですね。トニー・ジャーは解体アジトやラストの高層ビルでも一対多のバトルが多く、『トム・ヤム・クン!』の頃の超絶バトルをまた見せてくれるので『ワイルド・スピード SKY MISSION』での物足りなさを完璧に満たしてくれました。超カッコいいです。

二人のバトルは刑務所大乱闘で再び見れますが、こちらは度肝を抜く超絶長回しの方に意識を持って行かれます。カットの繋ぎ目がわからなくて一体どうやって撮ったのか、しかもあんな大人数のなかで、手すりを渡ったり2階から落ちたり、いやホント凄い。そしてコー所長ですよ。最初にチーキットが暴れ出した時に何もせずチャイに任せている姿を見て「こいつ弱いのかー?」などとナメたこと思ってホントすんませんでした!いきなり空中二段蹴りをかました時点でテンション爆アガりですよ。一人で囚人たちをなぎ倒しつつ女たちを助ける姿は、一瞬ヒーローにさえ見えるほど(実際は商品を回収しただけですが)。そして一糸乱れぬ髪型とスーツ姿、息一つ上がっていない無駄のない動きには、カンフー映画の様式美が詰まっています。超カッコいいです。

ウー・ジンはラストのビルに乗り込んだときのノー眉毛ナイフ使いとの一騎打ちが絶品。診療所で警察を一人でスパスパ切り刻んだ手練れ、しかもあの狭い階段でバク宙までキメる身軽さの相手の攻撃を、おや、何かで避けているぞ……と思ったら「トンファァァァ!」って叫びそうになりましたよ。飛んでくる二つのナイフを一つはトンファーで弾きもう一つは避けてジャケットをかすったり、雑誌でナイフを止めたりなどもたまらんです。最後は手首も膝も折ってフィニッシュ!「医者を呼べ」のキメ台詞も超カッコいいです。

そんな「超カッコいい」が激突するラストバトルは、そこまでのアクションさえも凌駕するクオリティでもう失禁しそう。切った鎖を手首にジャラッと巻くトニー・ジャー!物凄い距離を飛んでの両膝飛び蹴り!それを上体反らしてかわす所長!肘攻撃を膝の細かい動きで止める所長!二人掛かりでも勝てる気がしない所長!と、マックス・チャンの強さがとにかく凄いわけです。しかも二対一でようやく勝てるかと思いきや、長針でブッ刺すという鬼畜ぶり。もちろんウー・ジンとトニー・ジャーの共闘も燃えに燃えます。病室のシャレた空間も、水場に落ちたら濡れた衣類で攻撃したり、天井から下がる棒飾りまでアクションに絡んだりと、全てを利用しようという気概が素晴らしいです。


■すれ違いと出会い

『殺破狼』とは中国占星術で「凶星」と呼ばれる3つの星(七殺星・破軍星・貪狼星)のことらしいです。本作も刑務官チャイと娘のサー、刑事チーキットや叔父のチャン、臓器密売のホン・マンコンやコー所長らの三つ巴の話です。この三者を、時間軸を微妙に前後させることで結び付けていったり、刑務所乱闘とチャン刑事がホン弟を連れ出すところを同時進行で見せたりと、絶妙に絡ませていきます。スマートな構成という感じではないですが、結構入り組んだ人物関係や状況変化もわりとスムーズに入ってくるし、エモーショナルな盛り上がりがあります。

最もそれを感じるのが「すれ違い」の巧みさですかね。事件当事者たちが臓器提供の関係でも繋がっていたというのは都合のいい偶然ではあるんですが、これがなかなかリンクしないというもどかしさにより引き付けられます。チャイの電話した先がチーキットで、しかしチーキットのスマホは海の底、それを拾った漁師に本人が電話で話す、目の前にいる男が娘を救えると知らないチャイ。ああもどかしい!でもこの流れで、二人が運命共同体になることも受け入れてしまいます。また、さらわれたチーキットを追うチャン叔父の思い、心臓を奪おうとする兄に対する弟の愛憎なども、すれ違いながら積み重ねられていきます。

そして遂にそのすれ違いが終わる、サーとチーキットが病院で出会うシーン、なぜか逃げ出すサーが「私を助ける人が来た」と太い看護師にこっそり言う可愛らしさに泣きます。事前にチャイのスマホを同僚のおじさんが持つという伏線によって、それがチーキットに渡るわけです。チーキットの決意したときの表情が熱い!ビルに乗り込んだときには「まずチャイを助けないの?」とここで再びすれ違いを感じますが、ホン・マンコンを押さえることで取引し、一網打尽にしようという魂胆なわけですね。そしてサーのマスクを見せることでチャイに事情を悟らせ、合流した後にチーキットが言う「俺がその香港人だ」で全て繋がり、その繋がりが最後にチーキットを命懸けで救うチャイに繋がるのです。

サーちゃんが夜中一人で出ていくのは、事前に鉢植えに目をやるカットがあるので陽の当たる場所を探しに出たことはわかります(大きな木を見て「わお」と言うのが可愛らしい)。不自然な気もしますが、これは父の言った「不安でもこの種のように頑張ろう」という言葉に沿っているのでしょう。つまり連絡の取れない父、という不安を、植物に重ねて見たゆえの行動と思われます。そしてもう一つ不自然なのが都会に出てくる「狼」ですが、これは序盤にサーの夢の中にも出てきます。ドナーが見つからないという恐怖が見せた夢、と考えれば、ラストの狼もまた「死の恐怖」を表すのでしょう。チャイやチーキットらと同様に、サーもまた父や自分の死の恐怖と戦っていたのかもしれません。

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