2017
01.17

『君の名は。』IMAX公開記念:新海誠作品を観てみよう。

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2016年8末公開から4ヶ月以上、興業収入は200億を越え、社会現象にまでなってしまった化け物映画、『君の名は。』。それがこの度IMAXフォーマットにコンバートされて上映!マジか!ちょっと記憶にない異例っぷりの続くこの作品、監督の新海誠にとってもキャリアを大きく変えるヒット作になったわけですが、そうなると監督の過去作を観たくなる人も多いことでしょう。

というわけで、今回は新海誠の全作品についての短めの感想を載せてみたいと思います。既に鑑賞済みの方ならわかるでしょうが、新海誠の過去作品は『君の名は。』のような「笑いあり、スリルあり、感動あり」みたいなものではないのですよ。だから『君の名は。』をはじめて観たときは「これは本当に新海誠なのか……?」と戸惑いを覚えたほどです。ただ、もちろん過去の延長線上にできた作品ではあるので、そこら辺を考えながら観てみると面白いかもしれません。

基本的にネタバレはしてません。別に「新海誠とは」みたいに語っているわけでもないので、お気軽にどうぞ。『君の名は。』についてはIMAX版に関する感想も付けときます。


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■彼女と彼女の猫 Their standing points(2000年)
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新海誠が完全自主制作で作った5分ほどの作品。音楽はその後長く新海作品を手掛ける天門。飼い主である「彼女」とその飼い猫チョビの、日常に潜む暖かさやツラさを描きます。動きはあまりなく情景の使い方で色々表現しており、その後の新海作品のプロトタイプ感があります。いきなりモノクロで作るというのがチャレンジングですが、これの前に作った同じくモノクロの1分半ほどの習作『遠い世界 OTHER WORLDS』は「マシン環境の都合でモノトーンにした」と言っているので、これもそうなのかな?何にせよ短いのでまずは観てみるとよいと思います、YouTubeにこっそりアップされてるので……と思ったらこれ新海監督本人のアカウントっぽいですね。猫の顔が超シンプルで驚きます。
「彼女と彼女の猫」


■彼女と彼女の猫 Everything Flows(2016年)
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こちらはオリジナル版を元に2016年に制作された約7分×4話の別物。監督は坂本一也で、新海誠本人は原作のみ。あ、原作のみじゃないですね、何で参加しているかは観てのお楽しみ。オリジナル版に比べ、より新海誠版「吾輩は猫である」の趣が強く、「彼女」とその飼い猫との生活を、時間軸を行き来しながら現在やその出会いや行く末まで描きます。新海節は若干薄めに感じますが、別物とは言えオリジナル版との明確な繋がりがあるので、見比べてみるのも一興でしょう。最大の違いは猫の顔がリアルになっていることでしょうか(そこかよ)。こちらも30分ないので気軽に観れます。


■ほしのこえ The voices of a distant star(2002年)
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これが初の劇場公開作となります。異星人調査隊の一員として宇宙に旅立つ少女と、地球に残り少女からのメールを心待ちにする少年とを描くSFラブストーリー。25分という短尺ながら、監督・脚本から作画・美術・編集まで、新海監督がほとんど一人で作ったらしいです。変態ですね。

火星でNASAの調査隊が地球外知的生命体タルシアンに全滅させられたため、人類はタルシアンのテクノロジーを用いて反撃に転じようと調査隊を組織します。中学生の美加子は、友達以上・恋人未満の昇を残し、その調査隊に参加することに。これがなんとロボットアニメの体を取っており、美加子はそのロボットに乗って敵異星人と戦います。しかし主題となるのは、銀河の彼方と地球との気の遠くなるほどの距離と、ウラシマ効果による時間とで切り離された二人の思い。絶望的な隔たり、それでも抱く互いへの気持ちを、ケータイのメールという当たり前にあるツールで表すところに、身のよじれるようなせつなさがあります。

美しい風景や台詞の掛け合いといった新海作品の特徴はこの頃から顕著。中学の制服のまま戦う、ずっとロボットの中にいる、8年経っても同じケータイなど引っ掛かる点はあるし、作画はさすがに粗いところもありますが、これをほぼ一人で作り僅か30分でまとめ上げた手腕は素直に凄い。数々の賞にも輝き、新海監督、出だし絶好調といったところです。


■雲のむこう、約束の場所 The place promised in our early days(2004年)
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2作目にして初の長編作品。今度は一人ではないので『ほしのこえ』より格段にクオリティは上がっていますが、原作・脚本・監督・音響監督は務めてます。南北に分断された日本という架空の世界で、自作の飛行機でその国境を越えるという夢を持つ浩紀と拓也、そのクラスメイトの佐由理の三人が織り成す、歴史改変・空想科学SFラブストーリー。

共産国家群ユニオンと連合国との緊張をはらんだ世界情勢をバックに、三人の少年少女の青春時代、そしてその後が描かれます。連合国による宣戦布告、平行世界による位相転換など、地球規模の危機の話でありながら、それを一組の男女の話に収束させちゃうのが不自然極まりなかったりしますが、囚われた者と取り戻そうとする者という構図が中心にある以上、そこは舞台装置と割りきるしかないですね。そうすれば非日常による決定的な世界の断絶により引き裂かれた二人の、届かない距離の歯がゆさが活きてきます。

浩紀と友人の拓也との友情関係がちょっと描ききれてないし、物語の設定もあまり詳しくは語られないため所々突飛な印象も受けます。でも美しい美術とその見せ方はやはり上手い。浩紀がバイオリンを弾く幻想的なシーンなどは、かつてバイオリンを弾いた佐由理との対比もあって良いです。失ってしまった夢見るあの頃や仄かな思いを取り戻そうとする感覚がどこか懐かしい。

工場長が繰り返す「ロマンチック」という言葉に、恐らく本作がそう思われることは織り込み済なのでしょう。それでも描くんだという新海監督の思いを感じます。プロペラをゆっくり回しながら旋回する白い飛行機ヴェラシーラは、夢を繋ぐ象徴として実にシンボリック。あと舞台となる青森の風景がリアルすぎて、青森出身者としてはそこに一番泣けます。


■秒速5センチメートル a chain of short stories about their distance(2007年)
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3作目は63分の中編。『桜花抄』『コスモナウト』『秒速5センチメートル』という3つの短編による連作という構成を取っています。小学生の貴樹と明里の物語を皮切りに登場人物を一部重ねながら進んでいくのですが、前2作のようなSF設定は排除し、現実的(宇宙という要素はあるけど)な物語としたことで、ストレートに響く男女の物語に。

1話目の『桜花抄』は主人公が小学生なだけに、じれったくて甘ったるい話ではあるんですよ。しかしその心情を表す細かい描写がスゴくイイ。電車の席が空いてても座っていられない落ち着かなさとか、大事なものを風に飛ばしてしまったときの失望感、電車の扉が閉まる瞬間の取り返しのつかない感など、実にもどかしくやるせません。無為に過ぎていく時間というのがどれほど切実か、まだ二人にはわからないのです。

2話目の『コスモナウト』は女子高生の花苗を中心に展開します。1話目とは別の舞台、別の人物を配することで、物理的な距離と心の距離という両極を描いているんですね。「海」と「宇宙」という要素を使うことで、未来への拡がりあるイメージを想起させるのが上手く、三つのエピソードの中では最も前向きな一編となっています。

そして3話目の『秒速5センチメートル』。ここでは時間的な距離がもたらす関係を示します。電車が過ぎ去る踏切で振り返った瞬間から始まる怒涛のラッシュは「せつない」とか「悲しい」とかいうレベルを遥かに越えています。1話目、2話目にある、そして『雲のむこう、約束の場所』までにもあった「いつか、きっと」の思いを、変わりゆく現実によって真っ向から否定し、完全に不可逆なものにしてしまうんですね。この曲をこう使うか、というズルさはあるんですが、「時間の悪意」とも言うべき心を抉られるような喪失感に「もうやめてくれ」と泣き崩れそうになります。連作という構造だから許される反則ギリギリの演出。いや凄いですよ。悔しいけど凄い。しばらく鬱になるほどです。


■星を追う子ども Children who Chase Lost Voices from Deep Below(2011年)
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4作目は一転、ファンタジー要素全開。主人公の明日菜が謎の化け物に襲われたところでそれを救った少年シュン。彼の故郷である死後の世界「アガルタ」を目指し明日菜は広大な地下世界へと旅に出ることになります。

ファンタジー世界となっても美術は美麗。今度は「生と死」というまた違った隔たりを中核に据えて、思いがけない出会い、受け入れがたい別れを描いています。今までより予想外にアクションが多く、世界観もかなり作り込まれており、ケツアルクァトルや夷族といった人ならざる存在も出て来て非常に面白くなりそう……と思ってたんですが、これが予想以上にノれなかったです。

最も引っ掛かったのは、明日菜やもう一人の主要人物シンの行動原理がどうも曖昧で、それが思春期特有の「ここではないどこかへ」を求めるものだとしてもそれが伝わってこないんですよ。あとこれは誰もが思うでしょうが、宮崎駿作品を彷彿とさせる点が多すぎるのです。監督によれば「ある程度自覚的にやってた」そうですが、そのわりに冒険ものとしてのカタルシスもなく、おまけに本来の作家性も薄められた気さえして、二番煎じ感が拭えません。「さよなら」のシーンなど、すごく良いところもあるんですけどね。

実は僕が初めて観た新海誠作品が本作で、それ以降同監督作を長らく観ようと思わなかったほどです。つまらなくはないですが、少々退屈。


■言の葉の庭 (2013年)
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5作目は再び現実世界のラブストーリーに戻ります。『ほしのこえ』に次ぐ46分という短さや、なぜか本作だけ英語のサブタイトルがないというのは、前作でちょっと調子こいたことを反省したんでしょうか。物語は、靴職人を目指す高校生の孝雄が、ある雨の日に庭園のベンチで出会った女性ユキノに徐々に惹かれていく、というもの。

焦る日々から抜け出した少年が雨の日に出会う年上の女性。このシチュエーションが非常にたまりません。謎めいたあの人との他愛のない関係性、そしてそこに秘められた真実の判明と興味の持続が続き、並行して少年の将来への漠然とした不安、夢中になっていることへの熱意という青春が描かれます。今回男女の間を隔てるものは、年齢の距離と立場の距離。この距離にこだわる故のバリエーションには、今度はそう来たかと感動すら覚えます。

クラクラするほどリアルな新宿や御苑の美しさ、二人を囲った空間を作り出す雨の美しさと、美術のきめ細やかさは過去最高峰。そしてそんな写実的な背景に、それでも描くロマンチシズム、万葉集を絡めた知的さなどもある意味美しい。この帰結は倫理的にどうなんだろうと思わなくもないし、15歳が靴作りに夢中というのもしっかりした夢がある若者像というよりはちょっとメルヘンを感じなくもないですが、大人の世界をさりげなく分からせる演出とか、突然の雨の描写、短歌に込めた意味合いなどは嫌いじゃないです。

自分が高校生のときにこれを観たらどう感じただろうか、というのはちょっと知りたいなあ。ちなみに『君の名は。』とほんの少し繋がりがありますね。


■君の名は。 your name.(2016年)
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というわけでここまで挙げてきた作品群を経て『君の名は。』は作られているわけです。美しい背景、男女を隔てる距離感、せつない苦しさ、といった新海要素はそのままに、笑いと冒険と今までにない結末という受け入れやすい要素を大増量しているんですね。何より物語が良くできてます(整合性という意味ではなくて)。これにはプロデューサー始め他のスタッフによる助言や助力があっただろうし、新海監督も「演出の勉強をし直した」みたいなことを言っていたので、様々な能力や技術やケミストリーが新海誠という作家と上手く結び付いたということなんでしょうね。これもまた、結び(by 一葉)。

詳しい感想はこちらで。
積み重ね、結び、出会う。『君の名は。』感想。

そしてIMAX版がどうだったかと言えば、映像・音・臨場感といったものがとにかくパワーアップ。デカい画面の精細な映像により凄い細かいところまで描き込まれているのがわかるし、音圧には圧倒されるし、何より没入度が非常に高いです。久々にまた観たいなあという人で近場にIMAXの劇場があるなら、IMAX版は非常にオススメですよ。

改めて観ると気になるところも色々あるんですよ。巷で言われている「なぜ気付かないんだ」問題とかはもういいとして、なんで足場があるのに靴を履いたまま水に入るんだーとか、奥寺先輩がやめてた煙草を吹かしたのはなぜだーとか、奥寺先輩と司の間に何があったんだけしからん!とか(妄想過多)、ホント細かいところなんですけどね。でももはやそんな引っ掛かりもひっくるめて好きなので、他が何と言おうがもういいのです。個人的には何度観ても飽きない域に来てしまった感がありますよ。


 ※

いまだに新海誠が好きな映画作家なのか、自分でも判断できないでいるんですけど、今後も期待してしまうのは間違いないです。次作へのハードルは恐ろしく上がってしまいましたが、またグネグネ身をよじってしまう苦くせつない話も観てみたいところです。……と言ってる時点で「お前好きなんじゃねーか」って言われそうだな。

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