2017
01.15

事情と思惑と銃弾。『ホワイト・バレット』感想。

white_bullet
三人行 Three / 2016年 香港・中国 / 監督:ジョニー・トー

あらすじ
メリークリスマス!



救急病院に、銃撃戦で頭に銃弾を受けた強盗犯のチョンが搬送されてきた。女医のトンが手術をしようとするもチョンはこれを拒否。一方チャン警部ら警察はチョンから強盗団の情報を聞き出そうと躍起になるが一筋縄ではいかず……。『エグザイル 絆』などのジョニー・トー監督によるサスペンス・アクション。

ジョニー・トー作品なら観ないわけには!というわけで、今作は舞台がほぼ病院内のみという限定シチュエーションでのサスペンス。頭に銃弾を受けた強盗犯チョン、それをとっ捕まえたチャン警部、手術を主張する脳外科医のトンらが、それぞれの思惑で絡み合います。医者と刑事と犯罪者の、意地とプライド、理想と現実がぶつかり合う緊張感ある会話劇。三人とも信念みたいなものを持って動くんですが、それがどんどん裏目に出ていくという転がり方がスリリングで面白い。そして「今回は派手なアクションはないのかな?」と思っていたところで、スローを駆使した超絶長回しのワンカット銃撃戦に度肝を抜かれまくります。

チャン警部役は『ドラッグ・ウォー 毒戦』ルイス・クー。冷静で威厳あるベテランという表面とは裏腹に、徐々に焦りを隠せなくなる感じが上手い。女医師トン役のヴィッキー・チャオが『少林サッカー』の頃と変わらぬ美貌に、ちょっと人生くたびれた感じも加わって味があります。ウォレス・チョン演じるチョンの法律・文化・芸術に通じたインテリ感ある余裕顔がまた憎たらしくてイイ。ジョニー・トー作品常連のラム・シューはケツにナイフで奮闘。何だかまた一段と太ったような……。

「病院で銃弾」ということでこの邦題なんでしょうが、原題の『三人行』の方がまさに、という感じ。限定空間でのサスペンス、見たことのない銃撃戦、生々しい手術シーンや医療ドラマまで加えてごった煮のはずなのに、意外とすっきりした印象。キレがいいと言うべきかな。脇役の描写にもう一捻りあってもよかったけど、それでも凄いです。

↓以下、ネタバレ含む。








受付と同じフロアの奥に、壁による仕切りもなく入院患者のベッドがある、という病院の構造が何だかとても不自然。香港ではあれが普通、というのでなければこれは狙いなのでしょう。トンからベッドで何かしているチャン警部やチョンの様子が見える、その近くにはチョンに仕込もうとした薬の台も見える、というようにワンカット内で複数人の挙動を映したり、「見渡せる」という状況により落ち着かなさを煽ったりします。そしてこの「平坦さ」は、クライマックスで受付から入院患者から周囲全てを巻き込むという銃撃戦にも活きてきます。

それにしてもその銃撃戦ですよ。強盗団、警察、一般人が入り乱れる現場をカメラがグルリと横方向に旋回しながら、放たれる銃弾や撃たれて吹っ飛ぶ人々がスローであちこちに動く様は、壮絶な混乱を情報量の多さによりこれでもかと叩きつけ、かつ息詰まる映像が途切れない緊張感が凄まじい。人力でゆっくり動いたりCGを混ぜたりもしてるらしいですが、スローの速度が一定じゃない箇所もあるような気がして、どうやって撮ったのかとても気になります。主要人物に次々フォーカスしながらきっちり状況も進んでいくのが非常にドラマチック。そして横方向の動きの後に、落下危機シーケンスで縦方向の見せ場を持ってくるのには唸ります。

チャン警部の当初の落ち着き方がやがて崩れて焦りが噴出していくのは、チョンを撃つように仕向けたのがチャン警部だからです。最初こそそれは正義感の暴走なのかと思いますが、どうやら功を焦った結果なのが徐々にわかってきます。それでも自分の行動は正しいと信じているんですね。印象的なのは、チャン警部が上司に電話でずっと「すみません(Sorry, sir)」と繰り返すシーン。上からの相当なプレッシャーに苛まれての行動だったのでしょう。銃にチョンの指紋を付けさせるという小細工で致命的なミスをして、もはや事故に見せかけて殺すしかないところまで行ってしまいます。哀しき中間管理職という感じです。

チョンが頭に銃弾を撃ち込まれながら普通に話したり動いたりできるというのは驚きですが、その状態で仲間の助けを目論んでいたというのがもっと驚き。余裕をかます態度からも己の能力に絶対の自信を持っていることがわかります。そしてひたすらチャンスを待っていたのでしょう。鼻血を流したり痙攣したりと命のカウントダウンが続く中で不敵に笑うチョンの大物感は、チャン警部やトン医師を上回ります。逃走への執念も凄まじい。最後に落下しそうなチャン警部を助けた(ように見える)のがちょっと不思議ですが、あれは観念した結果なのかな?そこがちょっと引っかかりました。

優秀だと言われながら手術ミスを重ねるトン医師は、手術の結果手足がマヒした男に罵倒され、プライドや自信というものが揺らぎつつあるのでしょう。手術に失敗した男性の奥さんが、悲しみをこらえてトンに礼を言うシーンもかなりこたえます。恐らく今まで順風満帆に成果を出してきたから「全力を尽くすの意味がわからない」という言葉が出てくるし、「患者の命は私たちが握っている」という不遜さがあるのでしょう。そんなトンが、マヒした男が自殺しようとするまで追い込まれていたことを知り、銃撃戦で人の死を大量に目の当たりにして、医師としての使命感に再び目覚めたとしても不思議ではありません。マヒした男が階段から落ちた衝撃のせいか復活した奇跡もあるでしょう。今までの自分を否定するかのように「全力を尽くします」と言い、止めさせていた音楽までかけてチョンの手術に臨むのです。

しかし希望に満ちた結末になるのかと思いきや、トン医師はまたも手術に失敗し、チョンは植物状態となり、チャン警部は「すみません」と言って刑事を辞める。人生思うようにはいかないという世知辛さを示して物語はスッパリ終わってしまいます。現場の病院同様にフラットな結末には「放漫な者の末路」「己の過大評価へのしっぺ返し」とでもいうような冷徹な視点が見られて、何とも薄ら寒いものがあります。チョンの隣にいた何も考えていない爺さんだけが、最初の「メリークリスマス」から最後に至るまで一人ハッピー気分というのがまた皮肉。爺さんが歌いながらエンドロールが始まったときには、まさかこのまま爺さんの歌が延々続くのかとビビりましたよ。ジョニー・トー、怖い人だ……

スポンサーサイト
トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/1170-1efc5602
トラックバック
back-to-top