2016
12.27

息もできない暗き魔窟。『ドント・ブリーズ』感想。

Dont_Breathe
Don't Breathe / 2016年 アメリカ / 監督:フェデ・アルバレス

あらすじ
「ドント・プリーズ」ではありません。



デトロイトの町に住む、金が必要なロッキーと恋人のマネー、友人のアレックスの三人の若者は、大金を隠し持っているらしき盲目の老人の家に強盗に入る。しかし簡単な仕事のはずが、そこで思いもよらない恐怖に直面する……というスリラー。監督はリメイク版『死霊のはらわた』のフェデ・アルバレス。

これは凄い!三人の若者が夜中強盗に入ったのは、元軍人とは言え盲目の老人宅。しかしこの老人が思いの外手強い、どころの話ではないのです。目が見えないから聴覚や嗅覚で対抗してくるのだろう、くらいは想像できますが、楽に一攫千金のつもりだった三人が踏み込んだのは、決して許しを与えられない地獄の家だったのです。音を関知して襲ってくるモンスターものを人間でやったような感じかと思いますが、それだけじゃないんですよ。それを越える人間特有のエグさも怖いのですよ。加えて、暗闇、閉鎖空間、助けのない状況、といった追い込まれ方が凄まじい。タイトルが「息をするな」ですが、言われなくても緊張感で息が止まります。予告の映像だけでヤベえ!とか思うんですが、あれでまだ序の口ですから。

ロッキー役は同監督の『死霊のはらわた』リメイク版にも出ているジェーン・レビ、アレックス役は『プリズナーズ』のディラン・ミネット、マネー役は『イット・フォローズ』のダニエル・ゾバットという面子。彼らの背景が最低限の描写で分かるのは上手いところ。盲目爺さん役は『アバター』で軍人役だったスティーブン・ラング。ランニング一枚で予想外の動きを見せるマッチョ、と言うと『ダイ・ハード』みたいですが、あながち間違ってもいないところが怖いです。

出し惜しみせず全てやりきった感が凄くて、なのに全くダレません。この濃厚さで88分しかないというのがにわかには信じがたいほど、まだ終わらない!という絶望感が凄いです。限定された空間、少ない登場人物で、ここまで圧倒的なスリルを描くとは。怨霊とか悪魔などを使わず、怪物的ながらあくまでも人間によるスリラーとして、脚本も演出も最高峰と言っていいでしょう。怖い、でも面白い。

↓以下、ネタバレ含む。








とにかく完成度が高いのです。まずは疑似長回しによる家の間取りが分かるようなカメラワークで、さりげなく後で凶器になりそうな道具も映したり、地下室のドアノブなど意味ありげなポイントも見せておく。これによって後から事が動いたとき自然と位置の把握ができて、暗い場所での攻防もすんなり頭に入ってきます。一転して地下室に入ってからは明かりが消されることもあって、まるで迷宮に迷い込んだかのような心許なさ。暗闇で虚ろに見えるロッキーたちの目がまた恐怖を助長します。ジジイとのニアミスも恐ろしくて、睡眠ガスをセットしようとしたマネーが顔を上げたらジジイが起きてこっち見てるとか、廊下でアレックスが咄嗟に避けてすれ違うところとか、見えない中もう少しでロッキーがジジイに触りそうになるところとか、もう「ヒー!」って声が出そうになります。でも声出したら見つかる!とか思って耐えるわけですよ、観てる方が。これこそ臨場感というものです。

最初こそ死んだ娘の幼い頃のビデオを流して寝るジジイにほんの少し同情的になるんですよ。三人がブチのめされたとしてもそれは自業自得だよねーくらいに思って観るわけです。でもマネーを捕らえた後のジジイが、許しを乞うマネーをあっさり撃ち殺し、しかも焦りもせずに死体を引きずっていくあたりで、潮が引くように同情の気持ちが引いていくんですよ。それは「見つかったら犯罪者だ」という焦りが「見つかったら殺される」という別次元の恐怖に変わるからです。一応退役軍人だからと用心で持ってきた銃が完全に仇となり、ここからはスリルの連続。鳴ったケータイを正確に射貫くジジイ!距離を取ろうとして下がったところでちょうど鳴っちゃう床板!アレックスが「彼に明かりは必要ない」と言った通りに襲い来る暗闇の恐怖!落ちた先のガラスがピキピキ割れそうになってヤバい!と思いきやジジイがそこに!さすがにアレックスが刺されたときは死んだかと思いましたが、マネーの死体を引きずって行った先があの方向だというのがちゃんと伏線になっているんですね。

そして忘れた頃に大活躍する、犬という名の伏兵!この犬が通気孔の中まで追ってくるのには絶望しかないし、外に逃れたロッキーが柵を超えて車に着いたのにまさかの追撃とか、車中での犬との一大攻防とか、犬だけで十分ビビりまくり。そしてようやく犬を閉じ込めたと思った瞬間、絶妙な角度から姿を現すジジイ!ここでジジイが血の跡を残しながら娘を死なせた女性シンディを引きずっていく、という不穏さ漲るオープニングが、ロッキーで再び繰り返されるというのがまたたまりません。なぜならそうやって捕まったシンディがどうなったか、我々は既に知っているからです。(冒頭もシンディじゃなくロッキーだったかも。要確認)

退役軍人だから特殊技能を持っていてもおかしくはないのでしょうが、予想を超えた無双っぷりには逃げるしかありません。変に言葉を発しないのがさらに不気味で良いんですよ。銃を右手左手どちらでも構えるというのも隙がない感じです。そして明らかになるジジイのヒミツ。シンディを地下に幽閉しているのはてっきり娘の代替として可愛がるためかと思いきや、「死んだ娘の代わりを産ませる」という狂った理屈。マネーが「盲目でも聖人とは限らない」と言いますが、聖人どころか狂人です。深読みすれば戦場でのPTSDがジジイの精神を狂わせたのかもしれませんが、吊られたロッキーにしてみればそんな分析をしてる場合ではないわけです。思えばシンディを撃ち殺してしまったときジジイが「ベイビー……」と嘆くのも、彼女のことではなくお腹の子のことを悲しんでいたのだと分かり、遡って背筋が震えるのが凄い。退役軍人は体液軍人だったのです!(上手いこと言った)

ガスで眠らせたはずの老人がなぜ起きてきたのか?地下室の手錠からどうやって逃れたのか?というのはちょっと疑問ではありますが(何か見逃したかな?)、普通なら地下室に繋いだ時点で終わりかと思うのにまだまだ続くという絶望感には、観てるこちらも疲弊してくるほど。クリームスープ(婉曲表現)を爺さんの口に突っ込むというリベンジを見せたロッキーも、再び家に連れて来られた時にはもうボロボロ。このまま監禁されて子供を産むという後味最悪のラストを予想するところまで観る者を追い詰めてきますが、「西海岸に行ったら色を入れる」と言っていた「希望の象徴」である手のタトゥー、その向こうに見える本物のてんとう虫、そしてその先のリモコンに気付く、という流れがこれまた上手い。

ロッキーが犯行におよぶ理由として幼い妹のことが描かれているのは効果的です。これにより、ロッキーがかろうじて因果応報の輪から逃れるというのが絶妙のバランスになっています。アレックスはその輪から逃れられなかった、という世知辛さが、罪と罰としてはギリギリのラインなのでしょう。階段から落ちたジジイの、闇の中で光を失った目だけが鈍く光るというのが最後まで不気味です。その光のない瞳が、ラストにテレビ画面からロッキーを覗いてくる。「二人の強盗に襲われ」とテレビが言うのは、アレックスが言ってたように「沈黙を金で買った」ということ。しかしもう追われることはないとは言え、その暗き双眸から放たれた見えない視線は、この先もロッキーを苛むのでしょう。それはロッキーの罪に対する罰なのかもしれません。

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