2016
12.07

彷徨う獣たちと儚き思い出。『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』感想。

Fantastic_Beasts_1
Fantastic Beasts and Where to Find Them / 2016年 アメリカ / 監督:デヴィッド・イェーツ

あらすじ
忘却せよ、オブリビオーン(それは違う)。



未知の幻獣を求めて世界中を周る魔法動物学者のニュート・スキャマンダーは、ニューヨークで魔法のトランクに入れていた魔法生物たちを逃がしてしまい、魔法生物を禁じているアメリカ合衆国魔法議会に連行されてしまう。そこに魔法の根絶を目論む秘密結社・新セーレム救世軍が絡み、事態は思わぬ方向へ……。『ハリー・ポッター』シリーズのスピンオフとなる新シリーズ第一弾。監督は『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』以降から続投のデヴィッド・イェーツ。

シリーズ完結から5年、新たなハリポタシリーズが登場。と言ってもハリーが生まれる以前の話で、ホグワーツ魔法魔術学校の指定教科書「幻の動物とその生息地」の編纂者であるニュート・スキャマンダーが主人公。この本は実際発売もされましたが、これ自体が原作というわけではなく、物語としては映画オリジナルということなんですね。とは言え原作者J・K・ローリングが自ら脚本を手がけているだけあって世界観の共有は完璧。ハリポタと大きく異なるのは、舞台が1920年代のアメリカの人間界であること、そしてメインキャラが成人だということです。

ニューヨークにやってきた魔法使いのニュート・スキャマンダーは世界中を飛び回って魔法生物を収集している魔法動物学者。しかし魔法生物が逃げ出してしまい、彼はニューヨーク中を探し回ることに。そこに魔法絡みの陰謀まで出てきてさあ大変、と端的に言えばそういうお話。ただ、時代性のある雰囲気、社会的な目線といった大人向けの要素を取り揃えることでハリポタシリーズとは異なるテイストを打ち出し、それでいてバラエティ豊かな魔法生物や魔法を駆使したワクワクなど、年齢問わず楽しめる部分もふんだんに取り入れています。登場人物たちも好感度が高く観てて気持ちよいし、ハリポタ関連も小ネタから人物名まであって楽しいです。むしろハリポタ本編より合うという人も多いかもしれません。

主人公ニュートに『博士と彼女のセオリー』などのエディ・レッドメインをキャスティングした時点で、本作の半分は成功してると言っていいでしょう。ちょっと対人能力に欠けながら不思議な魅力を持つニュート役は、それくらいハマってます。シートン動物記のような学者肌かと思ったらほぼムツゴロウさんでした。そしてニュートに巻き込まれるノー・マジ(非魔法族)、ダン・フォグラーの演じるジェイコブ・コワルスキーさんがナイスガイすぎて凄く良いです。ティナ・ゴールドスタイン役のキャサリン・ウォーターストンは『インヒアレント・ヴァイス』の色気ムンムンな感じとは異なり、地味めでお堅いけどカワイイというヒロインに。他にも『ロブスター』とは別人のように凛々しい感じに戻ったコリン・ファレルや、『バットマンvsスーパーマン』のDCEUでフラッシュを演じるエズラ・ミラーなども魅せてくれます。おう、ジョン・ヴォイトまで出てる。

監督がデヴィッド・イェーツということで、『ターザン:REBORN』でも感じた画作りの暗さというのはあるんですが、ハリポタ後半とトーンが同じというのはまあ統一感があると言えなくもないです。スピンオフと言いながら全5作のシリーズとなることを早くも謳っているせいか、ちょっと歯切れの悪さもなくはないんですが、そこはシリーズ1作目ということで今後の布石もあるのでしょう。多少の引っ掛かりもあるものの面白いです。ハリポタを観てなくても楽しめますよ。

↓以下、ネタバレ含む。








■ニュート様御一行

ニュートさんはちょっとシャイでピュアな感じで心くすぐってきたり、かと思えば真っ先に危機に立ち向かうなかなかのヒーローっぷりを見せたりと、台詞は少なめながら揺るがない主人公っぽさがあって良いです。実際は周囲の人たちのほうがやいのやいの騒いでるんですが、不思議と常に中心にいる印象があって、でしゃばらないけどいざというときにはキメてくれる、そしてジェイコブへの気遣いやティナに巻き込まれちゃう辺りのいい人な感じが好感度高いです。加えてダンブルドアに目をかけられていたとか、過去に関係があったらしいリタ・レストレンジへの想いなど、まだ語られてない秘密もあったりするのも気になるところ。そして何といってもそのビーストテイマーっぷりですよ。袖から飛び出る仕込みビースト!『タクシードライバー』か!発情サイへの渾身の舞!でもジェイコブに負ける!……凄いようなショボいような微妙さも良い味ですね。あとトランクをずっとマグル用にしてたら逃げられることもなかったような気も……いや何でもないです。「探索者(シーカー)か」と聞かれて「追跡者(チェイサー)だ」と答えるクィディッチネタには、シリーズ知ってる人ならニヤリとしますね。

そんなニュートと行動することになるティナは、過去のミスにより闇払いの職を追われた身ですが、その頃の習慣なのか間違ったことを見過ごせないようです。でも頭でっかちではなく、その人となりを見てちゃんと態度を改めるし、クリーデンスについては以前の関わりもあって彼を救おうと奔走します。ティナは闇払いを辞めて道を見失っているのでしょう。どんな状況でもブレないニュートに惹かれるのもそんな心境が影響してそうです。そして柔和な笑顔が可愛らしい。

またティナの妹クイニーは人の心を読むことができます。それって魔法?特殊能力?というのがよく分かりませんが、心を読めることはいいことばかりでなく、知りたくないことも知ってしまうリスクがあるわけで、「男の人はよく私をそう思う」と言うのもそんな経験から来てるのでしょう。明るい笑顔の裏にはツラい思い出も多いのかも。それでもめげずに笑う彼女には癒されます。

カバンを間違うというベタな展開のせいで巻き込まれるジェイコブさん。魔法に素直に驚いたり魔法生物に酷い目に逢わされたりする姿はごく普通の人間の代表と言えます。この役割はハリポタ本編ではダーズリー家が担ってましたが、関係のない一般人となることでより共感を得やすくなっていますね。加えて親しみやすい体型や笑顔がこれまた好感度。いつ尻から火が出るのかとヒヤヒヤしましたが耐えきったようです。コメディリリーフでありながら最後に泣かせてくれるのや、パン屋を開きたいという夢も良いですよ。


■シビアな作劇

という具合に主要の4人は好感度の上がる要素が入念に織り込まれているんですね。一方で悪役となるグレイブスはキッパリとした容赦のなさ、クリーデンスへの飴と鞭の使い方、魔法力の強さと、ラスボスとして十分な存在感。コリン・ファレルの持つスタイリッシュさと色気もいい具合に作用して魅力的。それだけに、最後に正体を現してグリンデルバルトとなるのには「え、コリン・ファレルはもう出ないってこと!?」という点でかなりショック。存在そのものが虚構だったというのはコリン・ファレルがあまりに気の毒……確かにジョニデが出るというのは聞いてて、そのわりにすっかり忘れてたので驚きはしましたが。作劇上しょうがないとは言え少々不満。

他にも不満点を挙げるなら、思ったより魔法界vs人間界という構図が抑えめだったことです。いや何となくそんな展開を期待しちゃったんですよ。そこはおそらくこれから焦点が当たっていくんでしょうが、人間界を舞台にしたことで「魔法使いは影に潜む存在」という設定が閉塞感として残るため、今一つ突き抜けた感じが足りない気もします。展開的には新聞社の長男が殺されたりと結構シビアな面も多く、まあそれは全然いいんですが、魔法生物がメインの話かと思いきやそこからどんどんズレていくのはちょっと不安を感じました。でも最後にサンダーバードが活躍を見せることで上手く着地はできていますけどね。

オブスキュラスに相当破壊された町を魔法で全て直せるというのはちょっと都合いいなとも思うし、アメリカの魔法使いたちがいまいち役に立たないとかありますが、そこはまあいいでしょう。ドアを抜けると本来の建物ではなく魔法議会の吹き抜けが広がっているシーンなどはワクワクするし、ニュートのトランクの中に拡がる世界が予想を超えて広大なのも気持ち良いし。非魔法族を「マグル」ではなく「ノー・マジ」と直接的に呼ぶのもアメリカっぽいですね。また、差別や偏見といった虐げられる者の悲しみが描かれるのもハリポタから続くテーマとして一貫しています。クリーデンスが救われないまま退場するのも意外と言えば意外ですが、J・K・ローリングは死なせるときはわりと死なせますからね、その点はキャラに甘えてないとも言えるでしょう。脚本はよく出来てると思います。

ちなみに一番アガったのは情報屋が登場したときで、あれこの人?似てる!まさか!とワクワクしながらエンドロール見たら、やっぱり『ヘル・ボーイ』『パシフィック・リム』のロン・パールマンでした。ずいぶん縮んだな!そういえばロン・パールマンは『ムーン・ウォーカーズ』で本家シリーズのロン役、ルパート・グリントとも共演してます。


■忘却の雨に打たれて

第一次世界大戦終結後の1920年代のアメリカは、経済の発展、家電の普及といった興隆の一方で、悪名高き禁酒法が施行されたりと、華やかさと不穏さが同居したようなイメージ。そんな時代性がニュート組の「陽」とグレイブスや新セーレムの「陰」として上手くマッチしてます。殺伐とした戦闘シーンなどもありつつ、あくまで正しき行いを描くシリーズであるんですよね。ニュートが直接関係のないクリーデンスを救おうとするのも、スーダンで同じ状況の少女を助けられなかった過去があるからでしょう。孤独なクリーデンスを利用し、絶望させ、暴走するに至らせたグレイブス=グリンデルバルトは、そんなニュートたちに破れます。人間界と魔法界を争わせようとするグリンデルバルトは今後も何かやらかすのでしょうね。

劇中何度も言葉として出る「オブリビエイトする(忘却術をかける)」。ジェイコブも例外は許されず、記憶を消すことを命じられます。ここでのニュートとジェイコブの奇妙な友情にはじんわり。そして思い出を消す雨の中、魔法の傘の下で別れを惜しむジェイコブとクイニー。このシーンが今までのシリーズにはない大人のラブストーリーの1シーンとして実に良いです。忘れてしまうというせつなさ、というのが魔法というものと上手く絡んだ見事なシーン。ラストのニュートとティナもね、「本を書いたら送る」「やはり直接渡しに来るよ」というやり取りにはね、「あーもーチューしちゃえよ!」くらい思いましたよ。この二組に対してそう思えるのは、彼らの惹かれ合う経緯が丁寧だったということでもあるでしょう。

そして念願のパン屋を開き、しかもバカ売れのジェイコブさん。そこには記憶から消されたはずの魔法生物を型どったパンの数々。そこに現れるクイニー。ここでジェイコブさんの記憶が蘇ったかどうかは定かではありません。ただ記憶が戻らなかったとしても、彼が再び恋に落ちることは最後の表情からも明らか。「忘れたくない人!忘れちゃいけない人!」というどこかで聞いたセリフが浮かんできちゃいます。この二人にかかった魔法こそが、一番の奇跡であり祝福なのかもしれません……(言っててちょっと恥ずかしい)。魔法生物をメインにしながら人間ドラマに落とし込む物語は見事だったので、次作以降も期待しますよー。

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