2016
11.23

一匹狼は戸惑い、笑う。『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』感想。

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Jack Reacher: Never Go Back / 2016年 アメリカ / 監督:エドワード・ズウィック

あらすじ
電話が鳴ったら逮捕されます。



放浪の旅を続けている元陸軍エリートのジャック・リーチャー。ある日のケンカ騒ぎに陰謀を感じ取ったリーチャーは、元同僚のターナー少佐に会うため軍を訪れるが、ターナーはスパイ容疑で逮捕されていた。リーチャーは軍内部の不審な動きを調べ始めるが……。リー・チャイルドの小説『ジャック・リーチャー』シリーズをトム・クルーズ主演で実写化した『アウトロー』、その続編となるサスペンス・アクション。

放浪しながら仕事人まがいの探偵をする男、ジャック・リーチャー。シブい物語と映画的興奮が素晴らしかった前作『アウトロー』ですが、最初はあくまで外野だった前作と違い、今作ではリーチャー自身が渦中の人物となります。不当に逮捕されたターナー少佐を救い、軍部に追われながら真実を探るリーチャー。同時に一人の少女との関係もクローズアップされていきます。しかしこれが前作のようなハードボイルドなテイストを期待すると正直「あれっ?」となるんですね。単独でガシガシ突き進み邪魔者は容赦なく排除するリーチャー、というのは少々抑えめで、二人の女性に半ば振り回されるという予想しなかった姿を晒すことになり、これは好みの分かれるところでしょう。前作の監督クリストファー・マッカリーは製作に下がり、今回は『ラスト サムライ』のエドワード・ズウィックが監督を務めているのも影響してそうです。

ただ、一匹狼キャラを逆手に取った展開、さらにそれを捻った上でのアウトローとしての帰結というのには「ああ、こういうのもありのシリーズなんだ」と思えて面白い。主演はもちろんトム・クルーズですが、今作のジャック・リーチャーもタフではあるものの、何かちょっとキャラ変わってない?というくらい色々と大変そうです。その原因の一人であるターナー役には『アベンジャーズ』シリーズのマリア・ヒルでおなじみコビー・スマルダース。マリア・ヒル以上に凛とした強さと美しさ、そしてリーチャー以上にジャック・リーチャーっぽくて最高です。そしてもう一人のキーパーソン、サムことサマンサ役のダニカ・ヤロシュは最初は憎たらしさしかないんですが、意外と賢かったりそれでいて大ポカしたりと波があるのが若さという感じです。

これ、せめてシリーズの3、4作目くらいでやるべき話な気もするんですよね。実際、原作の『ジャック・リーチャー』シリーズは21作もあり、本作はその18作目が元になっていて、道理でなあ、と(『アウトロー』は9作目)。ただ、これによりシリーズの幅が一気に拡がったとも言えるんですよ。そこはさすがトム・クルーズだと思います。邦題に『ジャック・リーチャー』を付けるように変えたのは(なんで前作を『アウトロー』にしたんだという苦さはあるものの)英断。確かにこれは「ジャック・リーチャーの物語」です。

↓以下、ネタバレ含む。








アクション映画としては前作のような特筆すべきところは少なく、悪くはないが絶賛でもないという普通レベル。ストーリーも肝心の陰謀に関してはちょっと捻りが不足気味。それよりは男女愛と親子愛という予想してなかった要素が印象深いです。あと意外とブッ込んでくるユーモアですね。「MPの車の好みは?」で黒のセダンがズラリなんていきなり面白すぎて笑っていいのかちょっと戸惑います。スリのシーンでは「私がやる?」「いや私が」「いや俺が」「どうぞどうぞ」と某トリオのお約束芸かというね。と言うかこの三人、やたらとパクりますね。車盗んだり鞄盗ったり財布すったり。知恵と度胸と大胆さで切り開く逃亡劇が繰り広げられるところ、好きだなあ。

リーチャーがターナーに粉かけるという初っ端からの違和感に、まさかそんな甘い展開?と思ったらそんなこともないですね。それどころか、ターナーはリーチャーそこのけで自ら動き、襲われてもすぐに連携とって対抗する男前。「優秀なかたです」という部下の言葉が誇張でも何でもないというのに驚きます。厨房での攻防などはリーチャーより行動が早いし、二人並んで全速力で走る姿とか良い、良いなあ。リーチャーの前でも平気で下着姿になって、むしろリーチャーの方がドギマギするというのも笑えます。でもいい雰囲気になりかけたと思ったら女性扱いに怒ったりする辺り、ターナーは少佐になるまでに性差に苦しんできたのかもしれません。そんなギリギリでくっつかない関係性が面白く、二人が結局何もないまま戦友として終わるのは清々しくもありちょっと寂しくもあります。

リーチャー自身が渦中の者となる最大の要因がサマンサ。まさかと思いつつその姿を見に行ってしまうのはリーチャーにもそれなりに思い当たる節があるのでしょう。娘かもしれないという可能性に思わず説教じみたことを言ってしまったり、それでいて面と向かうと視線を泳がせたり顔がひきつったりするリーチャーはすっかり「年頃の娘の扱いに戸惑う父親」です。サマンサの小生意気で微妙な可愛さというのが、父的に困る距離感としても絶妙。自分が出来ることを見せようと一人ヤク中の巣を探しに行ったり、でもはしゃぐ姿は子供だったり、お嬢様校でちょっと馴染めないところで境遇的に苦労してきたことも伺えたりして、徐々に好感度が上がっていくのは作劇としても上手いです。ハロウィンの晩にホラー映画観て怖がってるのとか微笑ましいですね。あのニューオーリンズのハロウィーン・パレードが『007 スペクター』みたいで既視感なのはさておき。

そんな二人の女性に振り回されるリーチャーですが、魅せるところはちゃんと魅せてくれます。アクションが普通レベルに思えるのはターナーの活躍が目立つというのもあるんですよね。カーチェイスはターナーが運転する前半の方がカッコいいし。あと敵のリーダーが実はかなり強いので、リーチャーが苦戦するというのもあるかもです。でも車のガラスをブチ破ってのパンチなどターミネーターかって感じだし、何と言ってもラストの飛び降りからの一騎討ち、宣言通り腕を折って足を折って「俺を見ろ」で首折ってトドメというのはシビれますよ。ただちょっと編集がいまひとつですかね。黒いセダンを奪うところはどうやって別の車に乗り込んだのかさっぱりわからないし、サムがターナーに教えてもらった護身術を最後にちゃんと使うのはいいんですが、せっかくの見せ場をあんな粗いスローでやられたら「オイーッ!」ってなります。

終盤のカフェでリーチャーとサマンサの母親がお互い気付かない、という真相判明シーンはとてもスマート。今作はヒッチハイクのカットがあったりして前作よりやけに流れ者感が強調されるリーチャーですが、それだけにサマンサの「寂しくないの?」で「時々は」と答えるのが本心に感じられ、そんな二人をじっくり映すのが心に沁みます。サマンサの振り返りからのダッシュハグも、予期は出来てもじんわり。アウトローとして生きてきたリーチャーがひょっとしたら持ち得たかもしれない「家族」というものをターナーとサマンサで擬似的に実現させながら、再び放浪の旅に出るリーチャー、というのが何ともせつない。トム・クルーズの少々シワが増えた顔を躊躇なくアップで映すのも、少し疲れたリーチャーの現実というのを補強しているのが凄いです。そんな寂しさの漂うなか、一人ハイウェイを歩くリーチャーがサマンサから受け取るメール。一時は娘かもしれないと思った少女からのいたずらっぽい仕打ちに、炸裂するトムクル・スマイル。家族のいるような普通の人生には決して戻ることはない、それでも何かを得たかのようなその笑顔に、このシリーズの継続を期待してしまいます。

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