2016
11.15

与えて奪う贈り物。『ザ・ギフト』感想。

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The Gift / 2015年 アメリカ / 監督:ジョエル・エドガートン

あらすじ
池があるなら鯉を贈ろう。



新たな転居先に越してきたサイモンとロビンの夫婦の前に、夫の元同級生と名乗るゴードが現れた。再会を喜んだゴードは二人にワインを贈る。しかしゴードからのギフトは徐々にエスカレートしていき……。俳優ジョエル・エドガートンが監督、脚本、製作、出演を務めるサスペンス。

ジョエル・エドガートンと言えば『ウォーリアー』の格闘家から『ブラック・スキャンダル』のクズFBIまで幅広い役柄で、『スター・ウォーズ』新三部作ではルークの叔父も演じてました。そのエドガートンが初の長編映画監督としてデビュー。これがやってくれた!監督もする俳優は結構いますが、初監督でこのクオリティと面白さというのは近年観たなかではウィリアム・H・メイシーの『君が生きた証』以来。不気味な元同級生が段々エスカレートしていき主人公夫婦を襲い始めるのかな、という序盤の予測を、良い意味で裏切る見事な展開。人の内面を徐々に抉り出していく脚本、スリラーとしても見応えのある演出、才能が迸ってて素晴らしいです。

得体の知れない怖さとどこか哀愁漂う佇まいというゴード役のジョエル・エドガートン、良いですねえ。そんなゴードと関わることになる夫婦、ジェイソン・ベイトマンの演じるサイモンはちょっと強引な感じ、レベッカ・ホールの演じるロビンは少し神経質そうな雰囲気があったりするものの、仲の良さそうな二人なんですよ。しかしゴードの行動によってこの二人の意外な面も見えてきます。

ホラーにありがちな筋立てを覆す物語は実に新鮮です。1本のワインに始まるギフトが行き着く先はどこか。あとから思い返して各シーンの意味に気付いたとき、そこに「彼」の心情が痛いほど表れていて震えます。

↓以下、ネタバレ含む。








ゴードの行動はギリギリで犯罪にはなってないんですね。人の家を勝手に使ったのは邸の主が訴えるかどうかだし、ロビンのいる家に不法侵入したのも鯉を殺したのも愛犬ボージャングルをさらったのも証拠はありません。思えば豪邸に招くのもワインや鯉を送るのも、過去は水に流したい、というゴードの思いからと考えられます。最初から復讐のためではなかったことは「チャンスは与えた」という台詞からも伝わり、人生を無茶苦茶にした元凶と向き合うことで前に進みたいと思っていたのではないでしょうか。サイモンは仕事も順調、妻とも仲良し、豪邸暮らしとゴードにないものを全て持っており、それでもゴードは対等に付き合おうとして色々と見栄を張っていたわけです。バーでのスタンダップ・コメディアン的な姿の侘しさを思うとなんとも悲しい。ゴードが序盤サイモンに「幸せでよかった(I'm very happy for you)」を何度も繰り返すのは、彼にとっては隠しきれない羨望の表れでもあったでしょう。サイモンが一言過去への謝罪をしていればそれは本心へと変わったかもしれない。そう思わせるだけの含みがある、というのが上手いです。

ゴードの話を聞きながらサイモンは徐々に顔を強ばらせていくので、過去自分が何をしたかを思い出したことは明らかです。しかし彼がゴードを小バカにする態度はそのまま。ゴードに対しもう家に来るなと言う場面はロビン視点の窓越しのため何と言ってるかまでは聞こえませんが、これが却って必要以上の罵倒を感じさせます。さらにサイモンはロビンに言われて謝罪に行っておきながらゴードに逆ギレ。仕事のライバルを蹴落とすときも手段を選ばないことからも、サイモンは人を自分のコントロール下におこうとする、そして「話を遮らずに聞け」と言いながら自分は人の話を聞かないタイプであることが分かってきます。ロビンはサイモンに虐げられてるわけではないものの、おそらく流産したときのことでサイモンに「追い詰められた」と言うし、ゴードのことを「人付き合いが苦手なのよ」「私もそうだった」と言うのも会食の浮かない顔を見ると現在形だとわかります。一見問題ないように見えた夫婦仲にある、潜在的な亀裂が深まっていく、この辺りの流れも実に自然。

ロビンが倒れたあとに普通にベッドで目覚める描写に「おや?」とは思うものの、それをさりげなく流してラストに「Watch me」と書いたディスクと共に突き付けてくるのも鮮やか。しかもそこで予期する光景を最後までは見せず、ゴードは「手は付けてない、どうかな、顔を見ればわかる」とどちらとも取れる濁し方をし、あえて真相を明かしません。これでサイモンは仕事を失い、妻を失い、子供も愛することが出来ない。仮にDNA検査をするとしても、それにはロビンに理由を言わなければならない。子供がゴードの「ギフト」なのかどうかを一生疑って生きていかなければならないのです。人の人生を弄んだ報いを、「君は過去を忘れても、過去は君を忘れない」という恨みを、これ以上ないほどの手段でやり遂げる復讐譚。しかし去り行くゴードの背中に喜びは微塵も感じられない、というのが悲しいです。

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