2016
11.06

地獄の扉は何処にある。『インフェルノ』感想。

Inferno
Inferno / 2016年 アメリカ / 監督:ロン・ハワード

あらすじ
探して、見出せ。



病院で目を覚ましたハーバード大学の宗教象徴学者ラングドン教授は、何日間かの記憶を失っていた。そこに謎の襲撃者が現れてラングドンに襲い掛かる。担当女医のシエナと共に逃げ出したラングドンは、やがて詩人ダンテになぞらえた恐ろしい計画に巻き込まれることに……。『ダ・ヴィンチ・コード』『天使と悪魔』に続くダン・ブラウン原作のミステリー・シリーズ実写化、第3弾。監督は前2作同様ロン・ハワード。

ダン・ブラウンのラングドン教授シリーズももう3作目。小説では『ロスト・シンボル』というのがありますが、フリーメイソンが題材のせいか製作が難航、それをすっ飛ばして4作目が映画化。自分たちがなぜ追われるのか、それは生物学者のゾブリストが人類増加を止めるために作り出したウィルスに関係すると知ったラングドンとシエナは、ダンテの「神曲」の「地獄篇」になぞらえた計画を追って奔走することになります。このシリーズの原作は『ダ・ヴィンチ・コード』しか読んでないんですが、実在する美術や組織に架空の陰謀を絡ませ、その謎を解いていく知的サスペンスとしての立ち位置は嫌いじゃないですよ。

ただ、原作の長さもあってかこのシリーズの映画版はいつも詰め込みすぎ感があり、謎解きもとんとん進んでいって話が記憶に残りにくいです。でも印象に残るショットはあるんですよね。今作もそんな感じですが、それでもシリーズ中一番停滞が少なく話も分かりやすいので楽しかったです。あと全編で映されるイタリアやトルコの風景が美麗で、その辺りの観光地巡り的な描写も見所。ヴェネチアとかイイですねえ。ちなみに本作の終盤は原作と結構違うらしいです。

主人公ラングドンを演じるのは前2作同様トム・ハンクス。『ブリッジ・オブ・スパイ』『ハドソン川の奇跡』に続き今年3本目の主演作ですね。なんだか『ハドソン川の奇跡』より若返ってます。ラングドンを助ける女医のシエナ役は『博士と彼女のセオリー』のフェリシティ・ジョーンズ。彼女のクールな魅力にはやられます。他にもゾブリスト役にベン・フォスター、フランスWHOの捜査官ブシャール役にオマール・シー、謎の組織の責任者シムズ役に『ジュラシック・ワールド』社長のイルファン・カーンと存在感ある人が多いです。あとラングドンたちを執拗に追ってくる謎の女がちょっと吉田沙保里似なので「組み合ったら殺られる」という余計な恐怖が……。

話の構造は結構無茶なのでリアリティを求めるとツラいものがありますが、記憶がないというスリルと今まで以上に動きが鈍いラングドンにはハラハラします。特に前半はインフェルノ=地獄のような幻想シーンや音の使い方が面白い。ミステリーと言うよりサスペンス・アクションとして観た方がいいでしょうね。

↓以下、ネタバレ含む。








人類の半分が死滅するウィルスを僅か2年で作る、それをこさえたのが度を越したナチュラリストの大富豪、という時点でかなり無理があるので、そこをツッコんでもね、しょうがないですよ。そもそもトンデモな学説やら伝説やらを使ってミステリアスな雰囲気で引っ張るのが味のシリーズなので、ある程度の整合性が合っていれば多少の都合のいい展開はまあいいかなと。むしろノートPCに自分宛てのメール表示したまま閉じるとか、逃げる際に通ったドアを閉めないとか、そういう細かい点の方が気になりました。あとラングドンと一緒にダンテのマスクを盗った相棒はどうしたのか?とか。まあでもマスクを盗む自分の姿を呆然と見ているラングドン、という画ヅラにちょっと笑ってしまったので忘れてましたけど。

ただシムズの組織はちょっといい加減。謎をラングドンに解かせるためにシエラはシムズに仕事を依頼したはずなのに、途中からラングドンを殺そうとする理屈がよく分かりません。追っ手の女ヴァエンサも撃たれた医者も全て仕込みとか回りくどいし、まあ劇中色々説明はしてましたがいまいち釈然としなかったです。わざわざ最後にシムズを死なせなくても、とも思いますが、ラングドンを殺そうとしたから天罰的な結果なんでしょう。ラングドンと元カノのエリザベスとの関係も唐突ですが、これはゾブリストとシエナの関係との対比のためということでまあいいです。しかしWHOってあんな諜報員的な組織もあるんですかね。CIAとかじゃないのがちょっと新鮮。

演出的には面白くて、特に「地獄」がモチーフのためか印象的な「落ちる」シーンが多いところが良いです。冒頭でまさかの退場を見せるゾブリストの最期とか、追っ手の殺し屋ヴァエンサの末路とか(天井破れた宮殿は大丈夫なのか、という方が気になりましたが)、シエラに去られてブシャールに捕まるときのラングドン、終盤でも赤い光の水の中に落ちるシエラ、そしてラングドンとエリザベス、などなど。この「地獄に堕ちる」というイメージ、そして前半でラングドンの見る、死体が転がってたり人の首が前後逆だったりする地獄の幻想シーン、これらがウィルスによる世界の破滅を象徴しています。あとシエラが裏切るときの一気に表情に影が射すところなどはゾワリとします。シエラがすぐに色々分かるのが不自然ではあるけど、9歳からダンテを読んでたとか子供ながら大学に進んだ天才だったという伏線、一度「自分は弱い」と弱音を吐いてみせたりするミスリードなどもあって、そこまで気になりませんでした。他にも、何度も繰り返される「seek and find(探して見出せ)」のセリフが持つ追い立てられる感じとか、イスタンブールの宮殿での地下音楽会の幻想的な雰囲気なども楽しい。ヴァエンサに追われての屋根裏の攻防などは高さの見せ方が上手くてスリルだし、求めた場所の「国が違う」と言うシーンではなかなかの絶望感も味わえます。あとあれですね、古い宮殿の隠し通路とかは単純にワクワクします。

ゾブリストはウィルスを隠し、自分に何かあればシエラに地獄篇のポインタが届くようにしましたが、他の者には分からぬようなヒントだったため、ラングドンに白羽の矢が立てられます。冒頭でゾブリストの言う「君に託す」という言葉は、実はシエラに向けたものだったわけです。ゾブリストの思想に盲目的だった、かつ恋人関係にあったシエラはその計画を実行すべくラングドンを利用していたということですが、ウィルスが撒かれればシエラも無事ではすまないわけで、「愛があれば救おうとするはず」という言葉の通りシエラもまた利用されていたのかもしれません。思いを残しながら互いを尊重して別れたラングドンとエリザベスの関係とは対称的です。

最後は親の形見である大事な時計も戻ったし(ミッキーというのがあざといですが)、元カノとのせつないやり取りには大人の恋愛事情が滲んでるし、観ながら行方の気になってたダンテのマスクもちゃんと返すし(またカメラに撮られたんじゃないか?)、超ヤバいウィルス騒動だったわりにはわりと大団円。いいのか?という気がしなくもないですが、ラストのトム・ハンクスの軽いドヤ顔に、まあいいかと思ってしまいます。

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