2016
11.04

過去を越え、悲しみを越えて。『スター・トレック BEYOND』感想。

StarTrek_Beyond
Star Trek Beyond / 2016年 アメリカ / 監督:ジャスティン・リン

あらすじ
Let's make some noise.



深宇宙探索の旅ももうすぐ3年となるUSSエンタープライズは、宇宙ステーションのヨークタウンに寄港する。そこに謎の船団に襲われたという一人の異星人が救助される。不時着したという船を探すため船長のカークたちはエンタープライズで探索に出発するが、そこには想像もしなかった危機が待ち受けていた……。リブートされた『スター・トレック』のシリーズ3作目。

過去2作を監督したJ・J・エイブラムスは製作に回り、『ワイルド・スピード EURO MISSION』のジャスティン・リンが監督。『スター・トレック イントゥ・ダークネス』に比べてもレンズフレアはかなり減りましたね。まあそれはいいとして、これすげー面白いぞ!USSエンタープライズでの5年の深宇宙探索も半ばを過ぎ、漠然と倦怠感を感じ始めたカークたちに急遽舞い込んだ遭難船を探すミッション。しかしそこでとんでもないピンチを迎えます。美麗で精緻な映像、ワンダーなセンスに満ちた美術、大胆なカメラワークと、とにかく観ててワクワクするんですよ。今作は宇宙船同士のガチバトルみたいなのはないですが、代わりに「こんなのどうやって倒すんだ」という敵に襲われるエンタープライズがかなりショッキング。また銃撃戦や肉弾戦からバイクアクションまで網羅した個人の見せ場も多く、それでいてチーム感も欠かさない。さらには予想外のコンビプレイまで魅せてくるという、さすが『ワイルド・スピード』シリーズを育てたジャスティン・リンという感じの仕上がり。

3作目ともなれば個々の掘り下げが描かれてきますね。クリス・パインの演じるカークは誕生日で亡き父(クリヘムだ)より年上になることを憂い、カール・アーバンの演じるボーンズことマッコイと杯を交わします。ザッカリー・クイントのスポックは相変わらずめんどくさい奴ですが、ゾーイ・サルダナのウフーラとの関係にも何やら暗雲が。ジョン・チョウのスールーは何であんなに自信に溢れているのか、とにかくカッコいい。サイモン・ペッグのスコッティはいつも通りですが、相棒のキーンザーが風邪を引いて大変というのが笑います。ペッグは今回脚本も担当してて、スター・トレック好きらしいネタがあちこちに。そのスコッティが出会う異星の女性ジェイラは今作の鍵となる人物で、演じるは『キングスマン』のガゼル役が鮮烈だったソフィア・ブテラですよ。特殊メイクで素顔は出ませんが、キレのあるアクションを見せてくれるし、あと声が可愛い。惚れる。敵役のクラールが意外にもあの人、というのも驚き。

大冒険サバイバル活劇の様相が強く、その分知的さや哲学的要素は若干ダウン気味ではありますが、キャラ萌えを増加することでチーム感を強め、よりアグレッシブな方向に振った作劇は、これはこれで『スター・トレック』の一側面かもなあと思うのですよ。「信じられるのは自分と船とクルー」というのを文字通り体現してみせ、最大のピンチを兵器ではなくある意味文化で打開する。全員愛しいし、見所しかないですよ。大好きです。予告でも流れていた主題歌もカッコいい。

そして昨年病死した初代スポックであるレナード・ニモイ、本作公開前に事故で亡くなりこれが遺作となったチェコフ役のアントン・イェルチン。スポックの死は本作に大きく取り入れられており、チェコフも今回は大活躍なだけに一層寂しさが募ります。

↓以下、ネタバレ含む。








■映像で拡がる世界

とにかく感動したのがヨークタウンの映像です。ガラス張りの星のような外観、重力制御により縦横無尽に伸びた街並み、様々な人種が行きかう明るい通りに公衆転送装置(!)。ディストピアもので描かれる近未来とは異なる、今この時代で夢に描く未来都市が細部まで作り込まれ、凝った映像を随所まで見せようとするカメラワークと相まって実に素晴らしい。これは衝撃と言えます。運河の底には宇宙船の通路があり、終盤にはその通路を逆手に取って川から飛び出したUSSフランクリンが、壁となってクラールたちを止めるという使われ方もニクいです。またクラールの拠点である惑星アルタミッドも、採石場をベースに切り立った崖や周囲の自然、外観と内部に統一感のある基地や戦闘機たちが羽を休める文字通り止まり木のような発着場など、とても印象的な場所となっています。これらの舞台となる場所の映像がとにかく観てて心地イイ。

衝撃と言えば、おそらく過去最高にボロボロになるUSSエンタープライズです。クラールの戦闘機の群れに千切れるワープ・ナセルやもがれる円盤部、そしてアルタミッドに引かれて落ちていく姿には、序盤だというのに絶望感満載ですよ。いやエンタープライズってデザイン的には凄い好きなんですけど、パーツの繋ぎ部分が細くて折れそうだなあなどと思ってたんですが、実際そこを攻められてしまうんですね。これはクラール軍の、母船という概念を取り払った群生戦闘機だからできたとも言えます。最初は巨大な船かと思ったらそれが崩れて襲ってくるときのヤバさ。フェイザー砲は役に立たずシールドも効かず、成す術なく落ちていくエンタープライズにはちょっと泣きそうにさえなりましたよ。何と言ってもホームだし。でもさすがクルーたちに匹敵する主役、最後までカークたちの役に立ってくれるのが泣けます。

代わりにカークたちが乗ることになる、ジェイラのおうちことUSSフランクリン。100年前の老朽機ながら、ここで惑星連邦の船に乗って、しかも元の持ち主を追いかけるというのが上手いですね。散り散りになったメンバーが再び揃って発進するときには興奮です。姿を隠すステルス装置も何気にイイ。しかしそれでもあんな敵機にどうやって立ち向かうのかと思いきや、対抗策がまさかの「ビートとシャウト」なのには激アガり。ビースティ・ボーイズの「サボタージュ」と共に花火のように弾けていく敵機は痛快の極みです。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『キングスマン』を彷彿とさせますが、より直接的に音楽が力となるところはむしろ『超時空要塞マクロス』ですかね。曲を流す理由も「偽の電波を流せ」「いやそれより異なる周波数を通信に割り込ませての妨害がいい」「それには高い周波数だ」「超短波だ」「ラジオだ」「ならいいものがある」というこの流れ!勢い重視のようでありながらしっかり論理的なのが『スター・トレック』っぽくて最高です。


■バディで深まる世界

今作がやけにキャラ萌えが激しいのは、ホームであるエンタープライズから放り出され個々でサバイヴしていく点にありますが、カークとボーンズ、スポックとウフーラのような馴染みではなくシャッフルされた意外なコンビの組合せも効いています。特にスポックとボーンズの、普段は何かと衝突しがちな二人が一緒に行動することによるバディ感が可笑しい。ボーンズの医者らしからぬ応急処置とか(そう言えば医者だった)、急に狂ったように笑い出すスポックにビビるボーンズとか。でも実は互いに敬意を持っているというのが分かるのが上手い。ボーンズはスポックを「俺が守る」とまで言いますからね。事前にウフーラとの関係にアドバイス入れたりという前段も抜かりないです。スポックはボーンズの軽口に「冗談を言ってる場合ではない」と返すなど相変わらずめんどくさいですが、今回はそれが良い具合に効いていて、ウフーラに送った宝石の放射線で居所を突き止めるもストーカー扱いされるという笑い所となったり、ウフーラの「なぜここに」という問いに「明白に(clearly)君を助けに来た」という、固いながらも(スポックにしては)気持ちの入った台詞ではにかんじゃうウフーラもちょっと可愛い。

そのウフーラは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のガモーラばりに敵兵をなぎ倒したりと勇ましいですが(おかげでキャラが若干かぶる)、スールーとのコンビというのは珍しい。リブート1作目でもカークと共にアクションかましてたスールーはもちろん頼もしいですが、今回はさらにカッコ良くて、カークの代わりに艦長席に座るのもすっかり慣れたものだし、USSフランクリンでのカークの「発進できるか?」に「もちろんです」と返す謎の自信にはシビれますよ(自信の根拠が分からないんですが)。今回はヨークタウンでスールーの家族が出てきますが、兄弟か誰かかと思ったらどうやら「夫」のようです。一緒にいた女の子は養子ってことでしょうか。するとスールーが自席に置いていた写真に写る女性は誰なのか?など、語られないバックストーリーも気になるところ。

謎の自信に溢れたスールーと異なり、チェコフは実に素直で微笑ましい。彼はカークと共に行動することになり、経験豊かなベテランとまだ若いメンバーという取り合わせが面白いです。特に落ちたエンタープライズで二人して飛んだり跳ねたりするのが何だか可愛らしい。年を重ねて憂うカーク(でも意外とやんちゃ)と、そんな境地は予想さえしてないチェコフ(でも意外と老成)のコンビは結構しっくりきます。ついでにカークの着るジャケットがカッコいい。カークは誕生日を迎えて父の亡くなったときの年齢を越えてしまうことに漠然と違和感を覚えて艦を去ることを決意しますが、その話をボーンズにする際に飲むのがチェコフの持っていた酒だったりするのはちょっとした伏線ですかね。さらにこのシーンで出てくる三つめのグラスは話の流れ的にはカークの父への献杯ですが、亡くなったアントンへの冥福とも取れるのが泣かせます。

スコッティとジャイラの技術者コンビも意外と息が合っててUSSフランクリンを復活させたりしますが、ジャイラはアクションの方が印象的ですね。マナスとの一騎討ちではソフィア・ブテラの美しい体術もさることながら、マナスがジャイラを組み敷いてからぐるりと回ってマウント取るとか熱すぎです。分身装置を使ってのトリッキーな攻撃も面白く(目がついていけないけど)、これはカークのバイクアクションにも影分身として活かされます。ジャンピング転送はさすがに無茶じゃね?合体しちゃうんじゃね?と思わなくもないですが、まあ結果オーライ。スコッティは「一緒に来い」とか「ベルトを締めよう」とかいちいちジャイラに優しいし、しかもラストでさりげなくジャイラの肩に手を回してたりしてて、これからのエンタープライズで新たな男女間トラブルに発展しそうな感じが……ないか?宇宙船を家と呼ぶジャイラはなんか可愛いし、晴れてエンタープライズという新たな家のファミリーとなったのでめでたし。しかし前作でファミリーになったはずのキャロル・マーカスはどこへ行ったんだ!というのは不満。

ちなみにエンドロールをぼーっと見てたら、スタッフにJames Kirkって名前の人がいました。カーク船長と同じ名前の人が製作に関わってるとは!現場では「キャプテン」と呼ばれたりしてたんでしょうかね。


■過去の世界と現在の世界

『スター・トレック』が50周年とのことで50種類以上の様々な異星人がデザインされたようです。最初のちっちゃい毛玉たちとか威嚇しながらもちょっと涙目で可愛い。頭の後ろがプレデターの女性は衝撃でしたね。しかもガラクタかと思ったら古代バイオ兵器だったブツでクラールに消されちゃうという……。そんな非情な敵ボス、クラールを演じるのがイドリス・エルバというのはエディソンの顔が出るまで全く気付きませんでした。いや気付いたらスゴいけどな。

クラールの正体は元軍人であり、多くの犠牲を払って率いてきた軍を解体されて惑星艦隊の艦長となった人物であることが明かされます。惑星連邦の教えに詳しいのも、なぜ艦隊を恨むのかも、USSフランクリンを見て言う「懐かしき友よ」の台詞も元エディソン艦長だからです。ただ、クラールたちの背景は分かりにくいですね。アルタミッドの先住民は他人のエネルギーを吸収することで寿命を延ばすというテクノロジーを有しており、その謎を解き明かしたから百年後も生きてるわけです。その際取り込んだ者の姿や言葉も吸収するため、ラストのクラールはトカゲヘッドみたいな姿から地球人に似た容姿になっていたと。ここら辺は台詞でサラッと流してたり、ちょっとしたカットで終わってしまったりするので、気を付けないと混乱しますね。

クラールは「昔の自分に戻りたい」と言います。カークは「あなたは戦いに勝った、それが大事なのだ」と訴えるも、戦うことが生きることだったクラールにはその言葉は届きません。一方のカークは「殺すより死ぬ方がましだ」と言い放ちます。「そういう時代に生まれた」のだと。そこには今の平和が戦いで犠牲となった人々の上に築かれたものであり、それを守ることが使命だという思いが漲っています。だからたとえそれが取り残された者の悲しみであり引いては戦いの犠牲者の苦悩であったとしても、カークは受け継いだ者の責任においてこれを退けなければならない。最後にクラールが姿を消した後に漂う惑星連邦艦隊のバッジがせつないです。


■超えて行く世界

ラストではカークとスポックとボーンズが立ち並び、そこに他の面々が集まって、見上げた先に再建されるエンタープライズ、とすべてのファミリーが揃います。こういうショットが実にニクいですねジャスティン・リン!それに「宇宙、それは最後のフロンティア」という馴染みのナレーションを、クルー皆で言うのもチーム感ダメ押し。さらに初代スポックへのリスペクトは随所に見られますが、あの初代エンタープライズのクルーたちが勢揃いする写真には泣きますよ。そのシーンで初代テーマ曲のメロディが少しだけ流れるのがまたグッときます。

タイトルの『BEYOND』は「彼方」とか「果て」という意味。エンドロール前の「In loving memory with Leonard Nimoy」、「for Anton」の悲しみを乗り越え、シリーズは今作をも越えようとしていくのでしょう。さらなる物語が紡がれることを期待して、長寿と繁栄を。

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