2016
10.26

壊れかけた二人、超えて行った先。『オーバー・フェンス』感想。

over_fence
2016年 日本 / 監督:山下敦弘

あらすじ
おさかなー!



職業訓練校に通いながら失業保険で生計を立てる白岩は、訓練校とアパートを往復するだけの淡々とした毎日を送っていた。そんなある日、同じ訓練校に通う代島にキャバクラへ連れて行かれた白岩は、風変わりなホステスの聡と出会い惹かれていく……。佐藤泰志の芥川賞候補作を『もらとりあむタマ子』『美園ユニバース』などの山下敦弘監督により映画化。

原作は佐藤泰志の短編ということで、位置付け的には『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』に続く「函館3部作」の最終章に当たるとのこと。と言うことでちょっと重い話なのかなと多少構えて観たんですが、これがとても良かったです。妻と別れ、故郷の函館で職業訓練校に通う中年の白岩。何もない、テレビさえない部屋で、晩飯に買った弁当とビール2本を黙々と詰め込むだけの日常。そんな白岩が男のような名前の聡というホステスと出会い、その突飛な言動に面食らいながらも徐々に惹かれていくことで、越えるべきものが見えてきます。わりと底辺な男の話だし、『そこのみにて光輝く』から続く閉塞感も確かにあるんですが、思ったより湿っぽさは少なく、ユーモアさえも混ぜ込んで、孤独な男女がぶつかり合いながらも生きていく姿が描かれます。

白岩役のオダギリジョー、見た感じの「普通っぽさ」と、表にはあまり出さない闇が出たときの上手さが良いです。聡役の蒼井優はあまりにエキセントリックで最初は若干引くほどですが、その複雑さに戸惑いながらも惹かれてしまうオダジョーの気持ちもわかる魅力があります。訓練校の面々も個性的で、松田翔太の演じる代島のセカンドバッグ持っていっぱしな感じとか、同じくらいの若者である島田と森の違いすぎる人柄とか、あとすっとぼけた爺様という感じの勝間田さんが意外と美味しいとか、年齢もバックボーンも様々な人々が一つところで学んだりソフトボールしたりというのが面白い。

決して軽いわけではないのに、闇と同時に見せる光が効いていて、観た後は爽やか。優しさと激しさの共存に、どん底での生きる希望を映し出します。山下敦弘演出はツラさがあっても心地よく、終わり方も実に良いなあ。このテーマで最初から最後まで面白いと感じられるのがスゴいです。

↓以下、ネタバレ含む。








白岩は物腰は柔らかく、笑顔で、周囲からは一番まともだと思われており、自分でもごく普通の男だと思っています。しかしその笑顔は愛想笑いであり、誰かの側に立つわけでもなく、妹の旦那に何だかんだ言われても受け流し、ただ黙々と流されるままに生きているかのよう。白岩の抱えた闇が如実に表れるのが、島田の連れてきた女たちに「今のうちに笑っておけ、すぐに何も面白くなくなる」と言うシーンで、島田に「あんたの人生だろ」と言われて「お前の人生だ」と返す姿には、今の自分の人生だって予想さえしなかったのだ、という苛立ちを感じさせます。普通に家族のために頑張って仕事してたのに、妻がおかしくなったのは自分のせいなのか。妻の父(声は塚本晋也だ)が手紙に書いた「あれしきのことで」は本当に「あれしき」なのか。面白くもないのに笑う若者を人生ナメてるといきり立つ白岩は、その人生という道に迷って壊れかけていると言えるでしょう。あるいは自分が壊してしまった、と感じているのかもしれません。

一方の聡も自分を「ブッ壊れてる」と言います。周りを気にせず鳥の真似をしたり、確かに滅茶苦茶に見えるんですが、そこには現状からの解放を望む思いが透けて見えます。体を拭かないと「腐るような気がする」のは今の自分への嫌悪からであろうし、奥さんのことになると白岩にキレるのは彼が現状を引きずっていることにイラつくからでしょう。動物園の動物を放してしまうのは文字通り解放です。しかしそこで逃げないハクトウワシに絶望的な自分の現状を重ねてしまい泣き喚く。こうして見ると、聡もまた「壊れてる」というよりは「壊れかけている」の方が近いようです。その後そのハクトウワシが白岩の部屋の窓辺にやってきますが、これは共に飛び立ちたいという聡の思いの表れでしょうか。くっついたり喧嘩したりを繰り返しながらも、自転車での二人乗り、舞い散る羽の幻想的な美しさなど、積み重なる二人のシーンにより距離が縮まっていくのが伝わります。

職業訓練校の生徒たちは千差万別。島田は調子こいた若造だし、森はこれキレるだろうと思ったら案の定。教官がまたデリカシーのない男で、勝間田さんが「外には色んな人間がいる」と言ってもサラリと流す。それを「聞いちゃいねえ」と笑う勝間田さんは何気に男前です。元ヤクザ者である原の、背中の彫り物とアットホームさのアンバランスさも良いですね。代島はなかなか計算高く、白岩を副店長に誘うのも結局扱いやすそうだからなのでしょう。その胡散臭さは聡と「ヤッた」と言うことで白岩への優位性を保とうとするところにも伺えます。でもその時の白岩はもう代島の言うことなど聞かず、聡とハクトウワシの求愛のポーズを取ってどうでもいいと示し、代島はつまらなそうに杯をあおる、というのが愉快。そんな面々が様々な人間関係を見せつつ、ソフトボール大会に向けた練習で一堂に会する画が何だか面白いです。気だるそうに練習する裏で色んな思惑があったり、何気ない会話にふとその人の人生が垣間見えたりする。軽くはないけど緩い、という独特の雰囲気に引き付けられます。あと「お魚見る?」と「おじさん助けて」には笑います。

奥さんの優香が随分と清々しい表情をしているのとは対称的に、自分が外そうとしなかった指輪をあっけなく返されて号泣する白岩。ずっと振り切れなかった「家族」が終わった瞬間。と言うより、既に終わっていたことを受け入れたくなかったのでしょう。しかしこれは白岩にとって前へ進むために必要なステップだったわけです。白岩は自転車で坂を上るシーンが多いですが、最初は途中で降りて自転車を押していたものの、終盤はそのままこぎ続けます。坂道で諦めていた人生を自分の力でようやく上りきることができたわけです。ラストのソフトボール大会で打席に立ち、聡が応援に来たのを見ての快音、それは越えるべき柵への一打。打球の行方は映されませんが、タイトルに示したごとく青空に吸い込まれていくボールが見えるようです。

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