2016
10.18

過去を追い、自分を成せ。『ジェイソン・ボーン』感想。

Jason_Bourne
Jason Bourne / 2016年 アメリカ / 監督:ポール・グリーングラス

あらすじ
CEOって大変。



世間から姿を消して暮らしていた元CIAの工作員ジェイソン・ボーンのもとに、かつて共に行動した元同僚のニッキーが現れる。彼女にCIAが始動させた極秘プログラムと自分の過去に関する情報を告げられたボーンは、真実を求めて再び動き始める。一方でCIAもボーンの追跡を始めるが……。9年ぶりにマット・デイモンが主演したアクション・サスペンス・シリーズ、第5弾。

失われた記憶を求めて戦う最強の暗殺者、ジェイソン・ボーンが帰って来た!ボーン不在で作られた前作『ボーン・レガシー』のことはさりげなくスルーされ(せつない)、『ボーン・スプレマシー』『ボーン・アルティメイタム』の続きという感じですね。監督もポール・グリーングラスが再登板。物語はなぜかストリートファイトで日銭を稼ぐボーンの元にニッキーが現れて始まります。新たな陰謀と己の謎にまたもや立ち向かうことになる最強の男。ボーンの動きを察知したCIAは、長官デューイの指揮の元、その部下である野心家のリーがボーンを追います。街角のカメラからSNSまで恐ろしいほどの情報を管理し、プライバシーどこ吹く風とそれを駆使するCIAのヤバさ、しかしそれでも捕まらずに裏をかくボーンのクレバーさが面白い。

何より見せ場の多いアクションには大興奮……うーん、そのはずだったんですが、今までも顕著だった臨場感やスピード感をもたらす全編手ブレの映像と細かいカット割りが、今作ではいまいち上手く機能しておらず非常に見にくいです。『96時間:レクイエム』よりはマシですが、好みの分かれるところでしょう。やってるアクションは色々と面白いんだけどなあ。もちろんボーンを演じるマット・デイモンはさすがの動きを見せてくれるし、ちょっと疲弊した感じを漂わせながらもやはり最強というのが良いので全否定はしにくいんですが。ニッキー役のジュリア・スタイルズの再登場も嬉しいところだし、『メカニック:ワールド・ミッション』では怪しげだったトミー・リー・ジョーンズがいつもの重鎮な感じに戻ってのCIA長官デューイ役、『エクス・マキナ』のアリシア・ヴィキャンデルがその部下のリー役、ヴァンサン・カッセルがボーンを追う作戦員役と豪華な面子が揃ったのも見所ですかね。ちなみにディープ・ドリーム社CEOのアーロン役であるリズ・アーメッドは『ナイトクローラー』で主人公にいびられてた若者ですね。

予告で最もシビれたフック一閃のシーンがない、というかアングルが違うというのには拍子抜け。あれ凄く好きなカットだったのに何で変えちゃったんだろう……それはいいとしても、演出も物語もどうもいまひとつノリきれず。いや良いカットもあるし、全部が悪いとは言い難いんだけど、何か色々勿体ない。でもいつもの主題歌が流れるとやはりアガります。

↓以下、ネタバレ含む。








止まってるシーンがほぼない常に揺れ動くカメラ、動体視力に喧嘩を売る細かいカット割り、カメラがクッと寄ったりアップを多用したりというドキュメンタリータッチの演出。これらは『ボーン・アルティメイタム』までは停滞しない語りと途切れない緊迫感を持っていて、何をしてるかがむしろスッと頭に入ってきて非常に良かったのですが、今作ではそのバランスが崩れて何をしてるかが入ってこないんですよ。監督も撮影も編集も同じなのになぜこうなったんだろう。だからせっかく凄いことやってるシーンもよくわからない。特に終盤のカーチェイス、SWATの走行車が他の車をガンガン撥ね飛ばすところなんてカット割らずに見せてくれた方が「すげー!」ってなると思うんですけど。と言うか何だあの車の頑丈さスゲーな。とは言えそのカーチェイスも、序盤のデモで溢れる人ごみの中での逃亡劇なども、長い尺を取ってグイグイ引っ張る見せ方は良いですけどね。屋上からのダイブとかね。ああ、もう少し見やすければ凄いシーンになったのに……。

ストーリー的なことを言えば、話の軸にボーンはいるのに、そのボーンがあまり目立たない印象。もちろんバレないように行動したり台詞自体が少ないというのもあるんですが、周囲が騒いで勝手に被害を拡げている気も。話の構造としては過去作のテンプレが踏襲されており、それ自体は悪くはないです。ボーンは帽子くらいは被るけど相変わらず変装とか全くしないですね。名前が不明のまま終わるヴァンサン・カッセルの作戦員(「作戦員」という訳はどうなんだ……)との戦いは、今までのクライヴ・オーウェン、カール・アーバン、エドガー・ラミレスよりさらに粘着質で容赦ないのも面白い。

ただボーンと直接絡まないアイアンハンド作戦の比率が多めで、ボーンの過去とCIA内のきな臭さが微妙にリンクせず散漫になっている感じがなくもないです。あとリーがボーンを庇おうとするのが唐突なのも引っ掛かるんですが、情報長官へのアピールから野心家であるのが知れたり、専門家の「ボーンは戻りたがっている」という見解を利用しようとしたのがラストで分かるので、これは遡って良かったですよ。CIA長官を殺したのが問題にならないのは無理がありますが。それにしてもせっかく再登場したニッキーが死んじゃったのは残念。ボーンはやはり孤独、ということでしょうか。

これまではボーンがなぜ暗殺者となったのか、本当の名は何なのかという謎が明かされてきたわけですが、そう言えば組織に入る以前の記憶が描かれてなかったな、というのが今作のポイントの一つ。父の死にトレッドストーン作戦が絡んでいたという真実、自分がその被験者であるという皮肉、それでいて「お前は組織に戻りたがっている」と言われて躊躇してしまうボーン。せっかく姿を消したのに戦いでしか生きられない空しさを序盤でも漂わせていたボーンは、もはや元の人生には戻れないのかもしれません。だからラストでリーに誘われるシーンでは、ひょっとして次回作は『エージェント・ボーン』とかになっちゃうのでは!と思うのですが、そうはしない。デヴィッド・ウェッブには戻れないかもしれないが、自分を利用する組織に属することは拒み、ただ「ジェイソン・ボーン」として生きることを選択する。タイトルがフルネームまんまなのは、彼の立ち位置の明確化でもあるのでしょう。

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