2016
10.16

愛というの名の感染。『高慢と偏見とゾンビ』感想。

Pride_and_Prejudice_and_Zombies
Pride and Prejudice and Zombies / 2016年 アメリカ / 監督:バー・スティアーズ

あらすじ
脳みそくれ~。



18世紀、イギリスの片田舎で暮らすベネット家の5人姉妹は裕福な男性との結婚を夢見ていた。ある日、屋敷の隣に越してきた資産家のビングリーとその友人ダーシー。舞踏会で彼らに会い色めきたつ姉妹のなか、次女のリズだけはダーシーの高慢な態度に嫌悪感を抱く。そこへゾンビが襲ってきた!というアクション・ホラーなラブストーリー。

原作はセス・グラハム=スミスの同名小説で、ジェーン・オースティンの古典的恋愛小説『高慢と偏見』にゾンビ要素を取り入れた、という大胆なもの。『高慢と偏見』は何度か映像化もされており、僕も事前にジョー・ライト監督、キーラ・ナイトレイ主演の『プライドと偏見』を観たんですが、社交界の面倒さや時代性を踏まえながら普遍的なラブストーリーで、本作の予習として観たのが申し訳ないくらい面白かったんですよ。そこにゾンビ要素を入れるという発想がまずクレイジーでたまりません。時は18世紀のイギリス、感染するとゾンビとなる謎のウィルスが蔓延し、人間の脳みそを食べたゾンビはさらに凶暴化していくという世界。そこで舞踏会に出るようなレディたちがガーターベルトから取り出した武器で、はたまたカンフーを駆使してドレスのままゾンビ退治!というのがまたエキサイティング。

これが思った以上に元ネタに忠実で、それでいて陳腐なパロディにはなっていないというのが素晴らしい。ちゃんと歴史的経緯があってのゾンビ登場なうえに、物語にきっちり絡んでいるのも上手いです。そして主役二人のゾンビ・キラーっぷりですよ。リズ役のリリー・ジェームズには『シンデレラ』で既に虜にされてまして、それが凛々しさ5割増のアクションヒロイン化されたらもう完全敗北するしかないです。剣をくるりと回すその仕草!ジャッキーばりの回転二段蹴り!淑女から一転怒りの前蹴り!そしておっぱい!もうメロメロです。ダーシー役は『マレフィセント』のサム・ライリー、声がちょっと特徴的ですね。こちらは気難しい紳士の雰囲気はそのままに、革のロングコートをなびかせながら日本刀でゾンビを斬り伏せるという侍っぷりがカッコいい。あとミスター・ベネットがチャールズ・ダンスというのもシブいです。

高慢さへの反発から始まるリズの、偏見に気付いてからの心の機微もきっちり活かされています。元ネタの良いところはそのまま受け継いだ上で、名シーンは大胆にアレンジ、結果キャラたちは新たな魅力を纏い、名作は極上の娯楽作へ。グロさや怖さはそれほどでもないのでホラー苦手でも比較的いけそうだし、元ネタを知らなくてもしっかり楽しめる作りなのも良いですね。ナタリー・ポートマンが原作好きでプロデューサーとして参加したというのも分かろうというもの。カンフー的体術と侍的剣術!ゾンビ退治も恋愛も力業!最高です。

↓以下、ネタバレ含む。








紙芝居的なオープニングがファンタジックで良いですが、ここで思いのほかしっかりとゾンビがはびこる背景が語られていて「これはマジだな」と思わせてくれます。同時に元ネタがどれだけ破壊されているのか、という不安も抱くわけですが、これが意外と崩れていない、どころか踏襲の仕方が見事です。名作とゾンビ映画の両立がここまで上手くハマるというのがとても面白い。ベネット家5姉妹のかしましさなんて元ネタそのままなのに、舞踏会に行くための着替えシーンでガーターベルトにナイフを仕込むとか、ゾンビが出たと聞いて逃げる人々とは反対にすぐさま屋敷に向かうとか、5人が並んでズバズバとゾンビを切り捨てていくシーンのカッコよさとか、序盤だけで完全にやられますよ。べネット姉妹はゾンビの気配があれば即座に剣を抜くし、姉妹で本気の組手をしながらガールズトークしちゃうし、むっちゃ強い、でもかしましい!というギャップが素敵すぎます。個々の戦い方にもう少し個性があるとなおよかったかな、とは思いますが、長女のジェインが棒使いというだけでそれも許せます。

やはりリズのキャラはとても良いんですよ(『プライドと偏見』では「リジー」表記だったのでちょっと違和感はありますが)。演じるリリー・ジェームズは凛々しさと可憐さの同居が実に良いですが、まさかあんなに暴れまわるとは嬉しい誤算。ホラー的なアイテム「死肉バエ」をセンサーとして使うというのも面白いですが、これを素手でプチプチ捕まえるリズが、ラバーズを捕まえるスタープラチナのようでさらに面白い(久々のジョジョ例え)。裕福な家の子は日本(しかも京都)に、そうでない者は中国で修行するという設定が愉快ですが、社交界の格差をバトルスタイルにも持たせるというのが何気にシニカルだったりもします。女性は裕福な男性と結婚することが幸福だと考えられている時代において、カンフースタイルの女性はそれだけで足元を見られるということなんですね。でもそれをゾンビをことごとく打ち倒すことで、身分を超えた強さとして表すのがリズなわけです。

リズは高慢な(だと思っている)ダーシーの求婚を(文字通り)力いっぱい拒否します。しかしそこには偏見というフィルターがかかっているということに、ダーシーの手紙で気付くリズ。ここに至る流れは元ネタとほとんど変わらないのに、そこにアクション映画的なケレンが入り込むというのが凄い。特にレナ・ヘディの演じるレディ・キャサリン(訳が「キャサリン夫人」じゃないのは上手い)、歴戦の勇者という設定なうえにアイパッチがシブすぎて最高すぎます。「あなたに剣を向けると英国を敵に回す」という台詞からのバトルも激アツ。あとダーシーとウィカムの確執をこう使うか、というのも良いですねえ。ウィカムが黒幕というのはちょっと予測できちゃうし、もっとリズがウィカムに惹かれるシーンがあってもよかったとは思いますが、ダーシーとウィカムが因縁の直接対決、そして決着をリズ自身が付けるというのはナイスな改変。豚の脳みそでゾンビを操るとか、それを人間の脳で暴れさせるとか、ウィカムと駆け落ちしたはずのリディアが囚われているとか、しっかりゾンビを絡めた作劇にしているのも良いです。

高慢と偏見とゾンビを乗り越えて遂に結ばれる二人には、素直に祝福を送りたくなります。そう思えるということは、つまり恋愛物語として成功しているということですよ。ジェインとピングリーとのダブル結婚式というのもこの際オッケーでしょう。結婚式での恨めしそうなミスター・コリンズには、ダンスはしゃぎすぎのステップ軽やかすぎで「うっうー」って超ウザかったのもあって笑います。ここではたと気付く重要なポイントがあって、それはメインキャラが誰もゾンビ化していないということです(元々ゾンビだったウィカム除く)。そして原作通りに結ばれるリズとダーシー。二人が感染したのはゾンビ・ウィルスではなく「愛」なのだ、という洒落た見方もできる辺り、粋であるとさえ言えますね。それでいてゾンビもののお約束、「ようやく終わったと思ったら終わっていなかった」までやってくれる。名作とゾンビ映画の見事な融合です。

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