2016
09.26

夢と現、生と死。『レッドタートル ある島の物語』感想。

La_tortue_rouge
La tortue rouge / 2016年 フランス・日本 / 監督:マイケル・デュドク・ドゥ・ビット

あらすじ
カニも頑張ってます。



嵐のため荒れ狂う海に放り出された男が、命からがら辿り着いた無人島。何もない島から脱出すべく、男はイカダを作って海に乗り出そうとするのだが……。スタジオジブリが初の海外作家の監督作として製作に参加したアニメ作品。第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で特別賞を受賞。

『岸辺のふたり』でアカデミー短編アニメーション賞を受賞したオランダの監督、マイケル・デュドク・ドゥ・ビットが、8年の歳月をかけて完成させた初長編作品とのことです。高畑勲監督がアーティステックプロデューサーとしてクレジットされており、シナリオや絵コンテなどで関わっているとか。ジブリ映画というと巷では何かとイメージ先行してる気がしますが、本作は今までのジブリ作品にはないテイストだし絵柄も海外のものなので、切り離して観た方がよいと思います。というかジブリ製作の作品が公開されていることすら知らない人も多いみたい。

で、これがどうだったかというと、すんごく面白かったです。南の島の海を舞台に海亀と戯れるような何となくほんわかした感じを想像してたんですが、これをいい意味で裏切ってくれます。まさかの本格サバイバル話から始まり、予想外のことが次々起こって決して地味な話ではありません。むしろ様々な動きに満ちています。台詞が全くないというのも特徴的ですが、代わりに邪魔にならない幽玄な音楽と、自然が息づく波の音、風の音、木々の鳴る音などが物語への没入感を高めてくれます。

分厚い束になって襲いくる荒波やどこか浮世離れした島の様子、生命が見せる輝きなどアニメならではの表現も独特で、暖かいようなのにどこか突き放すような手触りに引き込まれます。何よりこれが美しい自然を背景に描く詩情豊かな人生の縮図だったことに驚き。絶望と希望、出会いと別れ、怖さと癒し、生と死。台詞なしで紡がれる何もない島での生活には、言葉はなくとも全てがある、と言えるでしょう。これは余計な情報は入れずまっさらな状態で観てほしいですね。少しのファンタジックさによりリアルは増幅し、紅き亀が見せる夢と現の境界の曖昧さに飲まれます。ずっとこの世界に浸っていたくなるほど。とても良かった。あと芸達者なカニに萌えます。

『岸辺のふたり(Father and Daughter)』もこの機会に観たのですが、8分ほどの長さに父と娘のせつなくも暖かい物語が紡がれていて実に良かったです。

↓以下、ネタバレ含む。








竹林や草原や池といった美しい風景は一歩間違えれば日本むかし話になりそうだし、男が夢の中で飛ぶシーンなどは『かぐや姫の物語』を思い出したりするんですが、基本的には無国籍感と言うか抽象的な描き方がなされていて、それが様々なノイズを排除しています。例えば男の過去や人物像はほとんど語られないため、そこから類推する背景が見えてこず、これが男を抽象化された人物としています。島にいるのが鳥や魚や蟹くらいで他の哺乳類がいないのは舞台の抽象化となってますね(オットセイ?は出てきますが海生なのでちょっと別)。多くの人が入り込みやすい作りになってるんですね。

最初こそ男のサバイバル能力の高さやずっと裸足でいることに意味を見出だそうとしちゃったんですが、スコールが近付く轟音、崖から落ちたときの絶望感、海底の隙間を抜けるスリルなどに飲み込まれ、何度もイカダがブチ壊される理由を知るに至って恐怖が沸き起こってきます(作るたびにイカダがデカくなるのは笑いましたが)。そして浜に来た亀に男が取る仕打ちの恐ろしさ。一昼夜以上放置していので亀はあの時点で死んだのでしょう。打ち上げられたオットセイの死骸と同様、蝿の羽音が死を示します。海に出れなかった小亀がカニの餌食となるように、本作には死が当たり前に存在するんですね。怒りに任せて海亀を死に追いやった男ですが、目に見える場所に留まる「死」に恐ろしくなったか、はたまた後悔したか、豪雨から亀を守ろうとさえします。

女が現れる奇跡は、そんな男の心中を反映したのか、あるいはそれが彼女の願いだったのか。男を島から逃さなかったのは一緒にいたかったからなのだと考えることもできますが、そこは定かではありません。ただ、女が甲羅を海に流し、男がイカダを海に流すという、それぞれが過去を捨てることで新たな人生が始まります。絶望は希望に変わり、恐怖は癒しへ変わり、死を覆した末に遂には子供を授かるという生の享受に至る。死にゆく者の場所にさえ思えた島が、生の喜びに満ちていくんですね。あの草原の草を円形に踏み潰したところを家として魚を捌いたり休んだり、ときには浜で夜空を見ながら眠りにつく。何もなかった島に人間らしい生活が色付いていきます。

そんな小さな世界でも悲劇は起こるわけです。破壊の限りを尽くす津波がまさにそれで、猛り狂った奔流は自然の恐ろしさを再認識させるに十分です。母が足から血を流す姿が、あの世界でも血は流れるということを示していて実に痛々しい。それでも亀使いとなった息子による父の救出で、世界はまた元の姿を取り戻します。でもそれは息子が新たな世界に旅立つ始まりでもある、というのがせつない。それでも子を送り出し、妻と齢を重ね、やがて静かに息を引き取る男の人生は十分豊かさを感じさせるものです。島では簡単に消えゆく命を、生み出し、育て上げ、未来へと送り出した男の出会いと別れ。その最期を看取った女は、泡沫の夢ででもあったかのように本来の姿に戻って海へと消えていく。実際男が見ていた長い夢だったのでは、とさえも思わせるほどですが、そこには儚くも力強く、寂しくも優しい人生が確かにあったのです。

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