2016
09.13

自分を捨てて得た自分。『セルフレス 覚醒した記憶』感想。

Self_Less
Self/Less / 2015年 アメリカ / 監督:ターセム・シン

あらすじ
キングズレー in レイノルズ。



余命半年と宣告された大富豪の建築家ダミアン・ヘイル。彼が訪ねたのは遺伝子操作で作った肉体に頭脳を転送することで延命する、という極秘裏の研究所だった。莫大な料金と引き換えに新しい肉体を手に入れたダミアンだったが、その体にはある秘密が隠されていたことを知り……。『ザ・フォール 落下の王国』『インモータルズ 神々の戦い』のターセム・シン監督、ライアン・レイノルズ主演によるSFアクション。

老人が若く頑丈な肉体に意識を移して第二の人生を送ろうとする、『君の名は。』とは似て非なる入れ替わりもの。建築家のダミアンは汚いことも平気でやる、ライバルなら若い芽も潰す、という栄光と名誉に囚われた老害クソ野郎(68歳)。ガンに侵された肉体を捨て、科学者オルブライトが作った肉体でセカンドライフを満喫だぜ!と思いきや、なぜか命を狙われるはめに。SF的な設定としては大味ですが、そこはあえてこだわってないんでしょうね。むしろサスペンスとアクションとして魅せる方に振ることでまとまりがあります。いつも独自の映像美を見せてくれるターセム・シンらしさは本作はちょっと薄めではありますが、ゴージャスなダミアンの家、無機質なラボ、停めた車と馬の乗り物、プールの美しさ、どこか異世界感のある子供部屋など所々にその色を滲ませているのが心地よいです。

ダミアン役をベン・キングズレー、新たな肉体役がライアン・レイノルズです。特にライアン・レイノルズが良くて、最初の戸惑う様子やどこか居心地の悪そうな言動に中身は別人という感じが出てるし、あの何かを訴えるような目が実に効果的。『デッドプール』で魅せてくれただけあってアクションもナイス。そしてオルブライト役であるマシュー・グードの余裕ぶっこいた感ね。上から目線で「質問が間違ってる」と言うのとか最高ですね。あと幼い娘ちゃんがすごい可愛い。

ミステリーとしては思ったほどの意外性ではないかもしれないですが、アクションは堅実だし、ニューオーリンズらしい音楽に合わせた劇伴も良いです。何より他人の体で生きることの重さというのをここまで感じさせてくれるのは予想外でした。『X-MEN:アポカリプス』のアポカリプスさんも見習いましょう。家族愛と自己犠牲、そして贖罪の物語にじんわりします。

↓以下、ネタバレ含む。








リアルさという点では穴だらけです。乗り移りの理論とかは全く説明されないし、顔にネットかぶせてCTスキャンでグルグルするだけで移れるのにはあっけにとられます。オルブライトのいる組織がどうやって成り立ってるのかもよくわからない。でもこの辺りを突き詰めるつもりはそもそもないのでしょう。あくまでダミアンとその肉体の本来の持ち主マークの物語であり、ダミアンが己を見つめ直し、マークという男に自分が得られなかったもの、失ったものを見るという構図なんですね。

わりと予想通りに話は展開します。娘のクレアとのままならない関係性も絡んでくるだろうと想像できるし、若くてマッチョな体を得てバスケやったりセックスしたり飲み行ったりセックスしたりしてても(ヤリすぎ)どうも人生を謳歌しているように感じられないところからも先は伺えます。でもダミアンの友人マーティンの息子がいきなりいることの違和感、「そう言えば死んだはずでは?」という見せ方などは良かったです。オルブライトの正体は直前まで気付かなくて「お前か!」ってなったし、ラストで鏡に写る自分の顔が歪み、幻覚かと思って薬飲んだら炎で溶けてたからだったというのも、他人の体をいいように扱ってきたオルブライトの最期として似つかわしい。薬をやめればマークに戻る、というのはそんな簡単に戻れるんかい!とは思ったものの、しつこくダミアンを追っていたアントンの意識をダミアン=マークに移そうとしたときに生きたまま上書きしていたからだというのがわかるから、まあ納得。金属を置いて失敗させるというのも伏線が効いてます。ただ、アントンの子供の写真はネットで拾った、って言うのはなぜ知ってたんだろう?

「人を操る最低の男」と娘のクレアに言われるダミアン。マークの妻マデリンにも同じ事を言われて、転生前の己を嫌でも思い出したことでしょう。そしてマークが娘の手術代のために体を手放したという理由を知り、ビデオ映像のなか「病気が治ったら泳ぎを教える」と言いながら「後は頼む」と言わんばかりにこちらを見るマークの目に激しく動揺します。マークの娘アナちゃんに真実を告げられず、自分の娘クレアを立派だと評する顔には後悔が滲み、嫌でも自分が他人の体に入っていることを突き付けられる。だからラストにダミアンがそうするだろうということも予想できますが、彼の心情の推移が丁寧に描かれてきたためすんなり受け入れられます。

ダミアンが本当に望んでいたのは新たな人生を得ることではなく、人生の失敗を取り戻すことだったのでしょう。娘のクレアへ小切手ではなく手紙を渡し、外から娘の姿を見上げるのがせつないです。目覚めたマークに「マデリンとアナを幸せに」と言って止まった画面からこちらを見るダミアンは、あのときのマークと同じ「後は頼む」という目をしています。死を迎える恐怖を贖罪の思いで覆し、家族を失った男は娘に報い、家族の元へ帰った男は幸せを噛み締める。予想通りの展開から予想外の感動を与えてくれます。

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