2016
08.15

ホーム・スイート・ホーム。『ルドルフとイッパイアッテナ』感想。

rudolf_ippaiattena
2016年 日本 / 監督:湯山邦彦、榊原幹典

あらすじ
ノラ猫、始めました。



黒猫のルドルフは、大好きな飼い主のリエちゃんとひょんなことから離ればなれになってしまう。迷い込んだ街で、ルドルフは体の大きなボス猫であるイッパイアッテナと出会い、一緒にノラ猫として暮らすことになるが、イッパイアッテナとの生活にはルドルフの知らない世界が広がっていた……。斉藤洋の同名児童文学を、3DCGアニメで映画化。声の出演は井上真央、鈴木亮平など。

原作は児童文学ということですが、しっかり大人も楽しめるものになっています。外の世界を知らない家猫のルドルフが飼い主を追って家を飛び出したものの、予想外のことが起こって家から遥か遠くに来てしまい、戻りたくても戻れない。そんなときに出会ったノラ猫のイッパイアッテナ、ジャイアン的なのかと思いきや、意外にもイイ人、もといイイ猫で、やがてルドルフは彼から色んなことを学んでいきます。家猫からノラに身を落としても卑屈にならず、教養を忘れず、毅然とした生き方をするイッパイアッテナ、そして小さな体で男気を見せるようになるルドルフ。これは世間を知らない少年が、家を離れて一人立ちするまでの出会いや別れ、葛藤や友情を描く成長物語です。

「あ、あざとい!」と思いながらも、ルドルフが超可愛いんですよ。そしてイッパイアッテナが超ナイスガイ。ルドルフ役の井上真央、イッパイアッテナ役の鈴木亮平は共に良い仕事してます。特に鈴木亮平の声は深みがあってイイ。二匹の仲間となるブッチー役は八嶋智人、イッパイアッテナと因縁のある猛犬デビル役は古田新太ですが、エンドロール見るまで分からなかったくらいハマっています。ブッチーはキャラ的にちょっとウザいですが、子供にも親しめるお調子者ってことでまあいいでしょう。監督が『劇場版ポケットモンスター』の湯山邦彦と『パックワールド』の榊原幹典、脚本が『映画 妖怪ウォッチ』の加藤陽一ということで安定感もあるし、動物目線の低い視点や躍動的な動きを追う長回し、図鑑や地図といった書籍の見せ方などの工夫ある演出も愉快です。

絵柄が原作の挿絵とは全然違ってディズニーやピクサーに寄ってる感はありますが、そこは親しみやすさ重視ということでしょう。もうルドルフが超可愛くてですね(2回目)。そんな可愛らしさやほのぼのしたユーモアだけでなく、ときには哲学的な示唆、ときには思いがけない涙と、ファミリー向けの枠を越えた良さがあります。世知辛い人生を自分の足で歩き出す高潔さが気持ちいいです。

↓以下、ネタバレ含む。








ルドルフは世間知らずでありながら好奇心旺盛、つまりお子様で、僅かに空いている扉から外に出てしまいます。お魚くわえた黒猫と化してたまたま乗ったトラックが、高速を走っていることに気付いたときの絶望感がスゴい。家から見える景色しか知らず、家の住所も三丁目しかわからないわけです。原作未読なのでこれはもう家には帰れないと思ってしまうんですが、ここでイッパイアッテナが人間の文字が読めるという設定でひっくり返すんですね。そこはファンタジーではあるんですが、イッパイアッテナがたとえノラに身をやつしても教養を忘れず、キメ台詞を言うときは相応の覚悟もあるという意外と真面目な性格であることを描いているので受け入れやすいです。「ルドルフ」がハプスブルグ家の王の名前とか知りませんよスゲーな。人間の文字を読めるだけでなく書くこともできるというのはあまり必要性を感じませんでしたが(クマ先生に助けを呼ぶとき書いた文字も気のせい扱いされてたし)、「絶望は愚か者の答えだ」「どこにいても俺は俺」と賢者なセリフも言うほどなので、まあ字を書くくらいは許容範囲ということで。

飼い猫から一転ノラになってしまったルドルフは最初はイッパイアッテナに頼りっきりだったものの、やがてバディ感を増していきます。単なる友だち関係に終わらず、自分が家に帰るチャンスを棒に振ってまでイッパイアッテナを助けることで、互いに尊敬しあう関係になっていくのが良いですね。猛犬デビルに戦いを挑むルドルフには熱いものがあります。デビルについても、エサは贅沢なのに自由がないために歪んだ、という経緯を描き、改心した後は飼い主を探しに行くというイッパイアッテナとルドルフとの別れにオイオイ泣く姿が健気です。いつの間にか泳げるようになってるのがさらに健気。ブッチーの過剰な演出や雌猫ミーシャとのコイバナは少々余計な気もしますが、仲間が増えていく感じにはなってますかね。

序盤で桜の季節であることを示し、やがてまた桜の季節が来て一年以上経過したことが示された後、再度ルドルフが家に帰る機会が訪れますが、一年も経ったら他の猫がいるのではと思ったら案の定なわけです。しかもそこにいたのは自分とそっくりな弟猫。もし岐阜紅葉バスツアーのバスに乗っていれば新しい猫がくる前に家に帰れた、というのが世知辛い。自分の名前を「イッパイアッテナ」だと思ってしまう新猫の幼さにかつての自分を見て「お前のリエちゃんによろしくな」とキメて去るものの、走りながら「お前のリエちゃんじゃない」と自分の強がりを否定するルドルフにせつなさマックスです。それだけに、東京に戻ったルドルフの背後からゆっくり歩いてくるイッパイアッテナの姿、そして耐え切れず泣き出すルドルフにはもらい泣きですよ。自分は強くなったと思っていた、でももう泣くしかない、という挫折。そこでこれはルドルフの成長譚だったのだな、と思えて、必要以上にハッピーエンドなラストにも爽やかさを感じられる。良いと思います。

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