2016
08.05

海面は生死の境界。『ロスト・バケーション』感想。

the_shallows
The Shallows / 2016年 アメリカ / 監督:ジャウマ=コレット・セラ

あらすじ
おなかすいたー(by サメ)



医者の卵であるナンシーが休暇で訪れた美しいビーチ。日暮れまでサーフィンを楽しんでいたナンシーだったが、突然海中で何者かに襲われ負傷。辛うじて近くの岩場にたどり着いたものの、自分を襲ってきたのが大きなサメであることに気付く……。『ラン・オールナイト』のジャウマ=コレット・セラ監督によるサバイバル・スリラー。

人食いザメが襲ってくるいわゆるサメ映画は、超巨大とか空を飛ぶとか頭が複数など、あらゆるあさっての方向に進化を遂げてきました。それらは主にサメ自体が驚くべき特性を持ち、ときに失笑を誘いながら襲ってくる、というものでしたが、本作のサメは至ってシンプルに自然界にいる普通の(と言うと語弊がありますが)ホオジロザメです。舞台設定も「巨大人食いザメの回遊するなか岩礁に一人きり。どうしよう!」という、これまたシンプルなもの。シンプルすぎて話が成り立つか不安になるほどですが、これが実に面白い。美しい海と対極の恐怖。すぐそこに浜辺が見えるのに出来ることがあまりに少ない絶望感。海に入ったら食われる、という単純かつ逃れようのないスリルに震えます。

登場人物は数人しかおらず、しかもほぼ主人公のナンシーのみで描かれると言ってよいでしょう。この緊迫状況に主人公の背景まで織り込んで、かつそれを活かしている脚本も上手い。ナンシー役ブレイク・ライヴリーの凛とした美しさにはホレボレします。監督のジャウマ=コレット・セラは『フライト・ゲーム』や『エスター』でもサスペンス演出が見事でしたが、本作ではブレイク・ライヴリーの尻の角度にこだわった映像に並々ならぬ情熱が感じられるような……気のせいでしょうか。でもGJ。

サメ映画はそこまで熱心に追いかけているわけではないので観てないものも多いですが、それでもこれはサメ映画としては『ジョーズ』以来の出来と言って良いのではないでしょうか。リアリティ溢れる展開と絶望的な状況に、観てる方が諦めそうになるほど。ワン・シチュエーションのスリラーとしても秀逸です。

↓以下、ネタバレ含む。








海や砂浜の風景が実に美しく、穴場のビーチという雰囲気にはワクワクします。それだけに美しさと相反する海中の恐ろしさが余計強調されていきますね。楽しそうなサーフィンのシーンでも、波に乗る三人の映像ではノリのいい音楽がかかるのに、カメラが水面より下に行くと音楽が途切れたりして、水中の異世界感に不穏さを感じずにいられません。海面は生死の境界なんですね。

サメに襲われクジラの死骸や岩礁に逃げるものの、足に深い噛み傷を負っているという危機感に全く安心できず、さらに水着と上半身のウェットスーツ、あとはダイバーズウォッチと先の尖った首飾りくらいしか身に付けていない、という手立てのなさが絶望に拍車をかけます。ナンシーはビキニの水着姿が多いですが、照り付ける太陽や固い岩場に対するむき出しの肌の心許なさによって、やがてセクシーさより痛々しさを感じるようにさえなります。加えて、助けになりそうな人は次々と食われる、満潮による岩礁水没のタイムリミットまで迫ってくる、という畳み掛け。酔っ払いがポケットにしまったスマホが手に入るのか!と思わせてそれはないのももどかしい。クジラの死骸の生々しさや、その死骸の傷の部分に指を掛ける、というのがエグいです。原題『The Shallows』は「浅瀬」という意味ですが、陸までわずか200メートルの浅瀬が遥か彼方に思えます。

そしてもう一方の主役、サメです。前半は、チューブの向こうに映る影、岩礁を回る背ビレといった「見せない怖さ」で迫りつつ、後半は「見せる恐怖」にシフトするのが、セオリーながらもハラハラします。飛び上がってサーファーを一気に食らうという一瞬の衝撃もインパクトありますね。このサメに対して必死にサバイヴするナンシーですが、医者志望だからこそ傷を縫えるというのが嘘くさくないし、一人きりだと台詞がなくなるところをカモメを配することで会話を引き出すのも上手い。カモメの存在は『キャスト・アウェイ』のウィルソンを思い出します。このカモメがCGではなく実物だというのが驚き。なかなかの演技力です。人間は役に立ちませんが、その分他の生き物が活躍するのも面白い。カモメは寂しさを紛らわせるし、クラゲの群れにはゾワゾワするものの「味方」としてナンシーの役に立つし、クジラの死骸は浮島になったり、流れ出る鯨油が信号弾で炎となりサメに一矢報いたりもします。イルカは……なんだろうな……萌え?

ナンシーがこのビーチに来たのは、亡くなった母を偲ぶため。島の形を「妊婦のようだ」と例えて譲らないところにも母の面影を求める思いが感じられます。母を失った無力さはナンシーに付きまとい、彼女の生きる気力までを奪っていきます。しかし母が死ぬまで病気と戦った事実が、やがてナンシーの生き延びる意志へと繋がっていくんですね。クライマックスでのサメの倒し方は、今までのサメ映画には見られなかった現実的な対応ながら、スピード感と「この手があったか」と唸ってしまうアイデアが素晴らしい。生きる気力を取り戻して海の底から浮上するナンシーは、言い替えれば死から新たな生を得たとも言えるでしょう。思えばビーチの名前が最後まで明かされないのは、そこが再び生まれる場所であることを示すためかもしれません。名を付けるのは生まれた後なのです。そして最後に姿を見せるカモメには、娘を見守る母の姿が重なって見えます。

スポンサーサイト
トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/1110-2e014a24
トラックバック
back-to-top