2016
07.23

カッコいいフラれかた。『拳銃と目玉焼』感想。

kenju_to_medamayaki
2014年 日本 / 監督:安田淳一

あらすじ
モーニングメニュー:目玉焼(トーストなし)



※レビュー・リクエストいただきました。ありがとうございます!

新聞配達員の中年男、志朗の楽しみは、喫茶店ノエルで密かに思いを寄せるユキが作る目玉焼きモーニングを食べること。ある日近所に出没した痴漢を怖がる彼女の言葉を聞き夜中の町に出た彼は、親父狩りにあう町工場経営者、阪本をたまたま救ってしまう。阪本に不良退治を持ち掛けられた志朗だったが……冴えない男がヒーローとなる姿を描くヒューマン・ドラマ。

大阪の街を舞台に、ひょんなことから一人の男がヒーローになる話です。と言っても、これがすこぶるカッコ悪い。主人公の志朗は新聞配達に勤める真面目な男ですが、別にケンカが強いわけでもなく、というかむしろヘタレで、口下手の引っ込み思案。いかにも大阪のオカンがやってる喫茶店の看板娘ユキちゃん(このコが超可愛い)に会うため、今日もモーニングの目玉焼きを食べに来るという純情一直線。でもユキちゃんとはまともに話すこともできない。そんな彼が、助けた工場の社長にそそのかされて自警団めいたことを始めるんですが、そのきっかけもまたカッコ悪い。しかしそのカッコ悪さが、やがて胸を打つ展開へと繋がっていきます。

段階を追ったコスチュームの作成があったり、オリジナルの武器を装備するようになったりと、ヒーローのオリジンがちゃんとあるのが良いです。志朗がよくプラモデルを作るほどのバイク好き(ただし乗ってるのは配達に使う原チャリ)なことから、バイク用のプロテクターで防御力を上げるのが上手い。もちろん『アイアンマン』とは大違いのDIYですが、『キック・アス』のウェットスーツよりは実用性が高いです。

パッとしないながらも愛しのあのコを守る存在になれるのか、というのを歯痒さを感じつつ見守っていると、中盤に予想外の展開で驚かされます。そのとき男はどうするか。それでも男は戦うのか。監督・脚本・照明・撮影・編集を一人で務めた安田淳一はビデオ撮影業者だそうで、実際ほぼ自主制作映画なんですが、そこに描かれるのはしっかりヒーロームービーであり、心揺さぶるラブスーリーです。

↓以下、ネタバレ含む。








志朗がヒーロー活動を始めるのには、生来の真面目さ、そして根底にある子供の頃に好きだったヒーローものの影響があるわけですが、大それた人物でもない志朗がその決意に至るのは、言うまでもなくユキちゃんを守りたいという思いからです。そこには「志朗さんなら守ってくれそう」という言葉を真に受けた志朗の、彼女にカッコいいところを見せたいという下心もあったでしょう。それでもヘタレな男が勇気を振り絞るには十分な動機であり、守るという観点において志朗はヒーローであると言えます。

しかし現実は、そんな志朗の浮わついた気分を粉々に打ち砕きます。好きな娘がホテトル嬢であったというのは純情中年には相当なショックです。志朗がこの事実を知るのは少し後なので、弱いなりに地味にトレーニングを続ける姿は観てるのがツラい。公園で会ったユキちゃんを元気付け、逆に「ありがとう」と言われて喜ぶけど、ユキちゃんはそのままご出勤なわけです。せつない!ホテルのベッドで並んで座る二人は、公園のベンチで並んで座ったときとはもう違う世界の人になってしまう。このシーンでの長回しに志朗の苦悩と葛藤が伺えます。

でもユキちゃんはとてもイイ子で、彼氏もワルではなく若さゆえの浅はかさで騙された借金のため、というどうしようもない事情が分かってくる。そして二人が愛し合っているということも。彼女が志朗に振り向いてくれることは決してないでしょう。それを知ってなお命懸けの殴り込みに、それもユキちゃんの恋人を救うために悪党どもの巣窟に一人乗り込んでいく志朗。敵を倒し、自分を殺して、ただ彼女の笑顔を取り戻すためだけに。ここにおいて、彼は自警団の枠を越えた「本当の」ヒーローになったと言えるでしょう。

でもやっぱりカッコ悪いんですよ。不意を突いたことと相手のマヌケさもあって、ビビりながらもガス銃や感電ギミックでガンガン倒していきますが、肝心なところでガスが切れたり、スマートさなどないなりふり構わぬ抵抗。それでも序盤で大失態を見せた飛び蹴りを決める攻め方のロジックはよく練られてました。意外とバイオレントなのも良いです。

最後に志朗がユキちゃんに「私は正義のために戦ったのではありません、あなたのために戦ったのです」と泣きながら告げる想い。一見説明的に思えますが、これは言葉にしなければならない台詞であり、志朗がその行動とは裏腹に自らヒーローであることを否定し、一人の男として明かす想いです。悪党を倒し、イカしたバイクに跨がり、しかしながら涙でグシャグシャになりながらの、それは恋の告白。やはり傍目にはカッコ悪いです。でもそのカッコ悪さのまま全力で戦い、全力で想いを伝えた志朗のカッコよさ。号泣です。

悪に立ち向かうための「拳銃」は志朗の勇気の象徴であり、母との思い出でもある「目玉焼」は志朗の愛情の象徴です。この二つを胸に、ユキちゃんが去った後も志朗はヒーローとして街の平和を守るのでしょう。今度はカッコよく登場し、カッコよく名乗る……と思ったら、それかい!パクりかい!最後までカッコ悪さを貫く中年ヒーローに幸あらんことを。

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