2016
07.07

欠けた体と得られぬ夢。『機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY』感想。

gundam_thunderbolt
2016年 日本 / 監督:松尾衡

あらすじ
雷鳴は宇宙に轟く。



宇宙世紀0079年、地球連邦とジオン公国が戦った一年戦争の末期。サンダーボルト宙域と呼ばれる場所では、地球連邦のムーア同胞団とジオン軍のリビング・デッド師団の戦いが続いていた。そんな折り、連邦に配備される新たなガンダム。そしてジオンも驚異的なモビルスーツを繰り出す……。太田垣康男のコミック『機動戦士ガンダム サンダーボルト』を全4話でアニメ化したものに、新作カットを加えたデレクターズカット版。

原作を知らずに「ガンダムの新作だー」とお気軽に観ると、そのヘヴィさに魂を削られることになります。まあ僕がそうだったんですが……。これは予想を遥かに越えて戦争映画です。サンダーボルト宙域はデブリとして漂うコロニーや戦艦の残骸が帯電し稲妻が発生することからその名が付いた過酷な戦場。そこでスナイパーとして連邦のモビルスーツを次々葬るジオンのダリル・ローレンツ曹長と、流れるジャズをバックに衝動のまま敵機を撃破していく連邦のイオ・フレミング少尉が対峙します。この二人を主軸に展開する物語は、夢見る甘さを砕き、正気をも失わせる壮絶さで観る者に侵食してきます。

フリージャズを流しながら自由を得られない男と、マイルドなポップスを聴きながら平穏を得られない男、という音楽を使った対比が効いています。音楽担当は『セッション』で論争を巻き起こした菊地成孔ですね。一年戦争が舞台なので、見慣れたモビルスーツも多く出てきます。リック・ドムやガンキャノンなどが洗練されたデザインで登場するのは嬉しいところ。ただ、主役機であるフルアーマー・ガンダムやサイコフレーム・ザクは早すぎて動体視力が追い付かないんですが!戦争映画としての側面が強いので、MS戦も容赦ない殺し合いという感じですね。特にガンダムが本当に「連邦の悪魔」、つまり殺戮兵器にしか見えないのが凄い。

そもそもガンダムでは「戦争」というものが描かれてきたわけですが、本作はさらにそれを深堀りしたかのよう。原作との違いは分かりませんが、少なくとも本作で描かれるのは思想も駆け引きもない、殺るか殺られるかの最前線。満たされない思いと欲求とで戦場を駆ける、肉体的にも精神的にも「欠損」の物語です。


↓以下、ネタバレ含む。








生きるか死ぬかの最前線では、戦えば無事では済まされない。そんな戦争の残酷さが最も表れるのは人体破壊だと思うんですよ。死体はもはや肉塊でしかなく、生きていても体の一部を失ったりする。殺し合いの記憶は、失った手足を見るたびに思い出す。本作がエグいのは、手足を失ったとしても戦わなければならない、という状況です。そもそもリビング・デッド師団は誰もが肉体の欠損を抱えていますが、これは義肢兵の戦闘データ採取が目的の部隊だから、のようです。その研究成果がサイコ・ザクであり、ダリルはその研究者カーラのことを思い、表向きは「名誉なこと」としてそのパイロットとなることを受け入れます。しかしそれは戦場に立たない科学者でさえも人の心を捨てなければならないという地獄でもありました。手を失った男と腕を切った女が共に父と手を繋ぐ夢を見るのはせつない。神経系を直接機器に繋いで反応速度を上げるというのは『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』でも描かれていましたが、こちらはより生々しさがあります。

もう一つ戦争の残酷さを象徴するのは、未来を担うべき子供たちが死んでいくという描写です。連邦がムーア同胞団に送った増援は、年端もいかぬ少年兵たち。盾とされるために前線に送られてきた子供たちへ「死ね」と命令する重圧に耐えきれず、クスリに逃げる艦長代理のクローディアが悲しいです。また、それまで戦闘狂のクズ野郎という描き方だったイオが、子供たちへの演説で自らを「消耗品」と呼ぶところで、彼が背負った出自の重さと、戦争によって狂わされ戦争によって生かされているということが分かります。イオは心が「欠損」しているんですね。この理不尽な戦いは少年兵たちをあっけなく散らせ、ついにはモビルスーツを降りての人間同士での殺し合いにまで発展します。

イオとダリル、ひいては連邦とジオンの対比は、音楽に限らずあらゆる面で出てきます。実績のないガンダムに人柱として乗せられるイオ。しかし4枚の盾が悪魔の翼のように開き、悪役にしか見えないガンダムも、連邦の少年兵たちにしてみれば敬礼をするほどの憧れの機体です。一方、両手足を失いながらサイコ・ザクに乗るダリル。宇宙を駆けるサイコ・ザクは部隊の士気を上げ、劣勢を覆していきます。宇宙に轟く雷鳴は、イオをスナイプから救い、ダリルを昏睡から目覚めさせます。子供たちへ「生き残ったら一杯やろう」と激励するイオ、カーラのシュシュを義手に巻いて「生き残るんだ」と出陣するダリル。また、クローディアは助けようとした部下に殺され、カーラは目の前で仲間をビームサーベルで蒸発させられて発狂します(エグすぎる)。どちらの部隊も故郷は同じムーアであり、「平和な故郷を取り戻したい」という思いを共通して持っているのに、その故郷であるコロニーが結局は戦場となるという皮肉。

義手では上手くMS操作できないダリルと、捕虜となりながらも敵を殺して脱出しそうなイオ、というところで本作は終わります。折りしも舞台は一年戦争も大詰めのア・バオア・クー。そしてエンドロール後に映るジオング2の不穏な姿。アムロとシャアが最後の戦いを繰り広げる裏で、イオとダリルもまた決着を着けることになるのでしょうか。これは原作も読まねば……。

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