2016
06.28

独裁者は微かに嗤う。『帰ってきたヒトラー』感想。

kaettekita_hitler
Er ist wieder da / 2015年 ドイツ / 監督:デビッド・ベンド

あらすじ
うわー似てるー!(注:本人です)



なぜか1945年から現代にタイムスリップしてきたアドルフ・ヒトラー。テレビ製作の男に見出だされた彼はヒトラーそっくりのものまね芸人としてテレビ出演することに。過激な演説を堂々と行いながら、やがてヒトラーは視聴者を惹き付けていく……。ドイツのベストセラー小説を映像化したブラック・コメディ。

本物のヒトラーが現代にやってきたら、というのを大真面目に描きます。明言はされませんが恐らく敗戦間際のヒトラーなのでしょう。目覚めたらそこは21世紀。第二次大戦はとっくに終わり、総統府も消え、目の前にはぽかんとした子供たちがいる平和な世界。ヒトラーはヒトラーそっくりの男として、ヒトラーそのままの前時代的なことを話すうちに、やがてテレビにも出て一躍話題の人に。スカウトしたテレビマンのザヴァツキもテレビを見てる人もレベルの高い芸人だと思うわけです。ヒトラーによる言動の現代とのギャップは笑えるし、体裁はコメディなんですが、観ていくうちにこれが実は笑えない話である、というのが分かってくるという不思議なシリアスさ。やる人は時代を問わずやはりやるということをまざまざと見せつけられる、そのじわりとくる恐怖。これは面白い。

ヒトラーは小柄という印象ですが、ヒトラー役を演じるオリバー・マスッチという人が結構デカいんですよ。190cm超えてるそうで、ガタイのよさで余計威圧感がある。でも決して高圧的に接するだけでなく、引くところは引いて上手く懐柔したりもする。何より現代の状況や技術などにいち早く順応してしまう柔軟性が凄いわけですね。中盤ではヒトラーをテレビに売り込むプレゼン用の動画という体で、ヒトラーに扮したマスッチが世間の人と会話するというドキュメンタリー映像もあって、この辺りは映画ならではの表現なんじゃないでしょうか。

歴史上の人物が現代にやってくるというのはネタとしては珍しいものではないですが、それが凄惨な過去を作った独裁者だったらどうなるか。笑えて、そしてヒヤリとします。この映画がドイツで作られたというのも意義深い。『ヒトラー最期の12日間』を観ておくと一部爆笑&より理解が深まります(観てなくても大丈夫)。

↓以下、ネタバレ含む。








なぜ、どうやって現代に来たのかは語られずいきなり現れるヒトラー。その理由については全く描かれませんが、描いても意味はないので問題なし。前半は本当に可笑しくて、クリーニング屋でパンツを拒否られるくだりとか、元画家であることを活かした似顔絵での資金稼ぎとか、大上段の演説会話も最後はオチを付けたりとか。テレビでウケてからは話題の的で、テレビ局のあらゆる番組に出演し、ユーチューバーにも大評判。本まで出版し(原作本もこのデザインですね、イカす)、それが映画化、本人が主演という大出世。真面目に言っていることをギャグに取られても気にせずそのまま貫き、難色を示す者もいるものの大勢は好意的なんですね。

言っていることは過激なのに受け入れられる、これは社会に対する人々の不満の表れでもあるでしょう。しかし気付いたときには取り込まれている、ということに世間は気付かないわけです。最初のテレビ出演で何も言わずたっぷり間を取ってから話し始めるというテクニックで気を引かれ、何よりハッキリともの申すところに魅せられてしまう。一見笑えるシーン、例えば人種差別をしてきたヒトラーが「ニガー」という差別用語を親愛の情代わりに使うというのが皮肉だったりするし、ネットの存在を知って思わず涙するのは即座にネットの持つ力を理解したからでしょう。

人は明確な道を示す人に惹かれてしまいます。かつても人々に選ばれてヒトラーは総統の座に就きました。そして現代で再び受け入れられようとしている。ヒトラーの人となりも、歴史的に何をしたかも、純血主義の独裁者であることも知っているのに、問題を的確に見抜く力と、耳に心地よく正統性を疑わせない演説で人々は魅了されていきます。現代でも通用してしまうアジテートの威力。これは「歴史は繰り返す」ということの視覚化とも言えるかもしれません。

しかしガス室で家族を殺された認知症の祖母が激怒するシーンで、『サウルの息子』でも描かれたアウシュビッツを思い出さずにいられません。そしてヒトラーが本物と知り、これを食い止めようとしたザヴァツキは逆に精神病棟に隔離されてしまう。さらにヒトラーの締めの言葉が「好機到来」ですよ。ここにおいて我々はとんでもない怪物と対峙していたことに気付き、ゾッとするのです。組み込まれたドキュメンタリー要素が、右傾化する現代への警鐘にもなっていて深いです。

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