2016
06.24

脱出は女の気概。『10 クローバーフィールド・レーン』感想。

10_cloverfield_lane
10 Cloverfield Lane / 2016年 アメリカ / 監督:ダン・トラクテンバーグ

あらすじ
鼻息ンフー。



恋人の元を飛び出し車を運転していた女性ミシェルは、その途中事故に遭い、気が付くと見知らぬシェルターの中にいた。そこにいたハワードは、彼女を救うためにここに連れてきた、外の世界は既に滅びたと言う。ミシェルは同じくハワードにかくまってもらったというエメットとの3人で、奇妙な共同生活を始めるが……。J・J・エイブラムス製作、『クローバーフィールド HAKAISHA』の続編。

まず言っておくと、前作との関連はほぼ無いです。特徴的だった主観映像も無く、ストーリーも繋がっておらず、続編らしさを期待すると「アレ?」ってなります。なのでまっさらな気持ちで観ましょう。逆に言えば前作を観てなくても大丈夫ということですね。前作監督のマット・リーヴス(『猿の惑星:新世紀』など)は製作にまわり、初長編作となるダン・トラクテンバーグがメガホンということですが、これがなかなかどうして良い感じ。脚本に『セッション』のデイミアン・チャゼルが参加しているというのも効いてそうです。

事故から目覚めたら見知らぬ部屋にいたミシェルは、自分が監禁されたと思います。しかしハワードという男にそこがシェルターであると聞かされ、しかも外界は何かの攻撃により滅ぼされたと告げられます。さらに自分からここに入れてもらったというエメットという男も何かを見たと言う。ここから何が本当か分からないまま翻弄され続ける、閉鎖空間でのサスペンスが始まります。

ミシェル役メアリー・エリザベス・ウィンステッドがとにかく魅力的。可愛いし、タンクトップだし、やたら行動派だし、ジョン・マクレーンみたいだし。と思ったら『ダイ・ハード4.0』で娘役でしたね。本当にこの子は良い眼力だなあ。ハワード役はジョン・グッドマンですが、彼が出てるだけで作品への安心感が増すというものですよ。これにエメット役のジョン・ギャラガーJr.を加えた3人の主要キャストだけでほぼ進みます。ちなみに声でのみ出演のミシェルの元カレ役がブラッドリー・クーパーだそうで、それって『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のロケットじゃないか!(気付けませんでしたが)

ちょっと『エクス・マキナ』『ルーム』を思わせる密室劇ですが、そこまで息苦しい感じは受けません。ただ、どこか感じる違和感に最後まで目が離せず。余計な情報はなるべく入れず、それこそ予告編やポスターも避けて観た方がよいですよ。最初こそ「これクローバーフィールド??」と思ってましたが、非常に楽しめました。

↓以下、ネタバレ含む。








鎖で繋ぐとか、トイレの間も見張るとか、ハワードには凄まじいヤバさを感じるんですが、その都度正当性を説いてくるので実態が分からないんですよね。いちゃつく二人にキレるのも、家主ならまあ分からないでもないし、ハワードの車に後ろから追突されて事故ったと思い出しても、それは焦っていたせいだと自分から謝る。ミシェルに襲い掛かってくるわけでもない。ただ、外には絶対出さない。しかしこれも一人の訪問者がガスが云々と異常な焦りを見せるために外の世界が危ないということに正当性を与えてしまいます。ちょっと変人だけどいい人なのか、実は何かを企んでいるのか。真相だけ見れば冗長とも取られかねないですが、この判断が定まらない不安定さの継続は上手いです。ジョン・グッドマンの鼻息が必要以上に音として入ってくるんだけど、これが近くで息づく不穏さと不快さ、という感じなんですよね。

三人が(少なくとも表面上は)リラックスして過ごす様子はまるで一つの家族のようです。皆でジグソーパズルをやるのも家族として組み合わされていく様を思わせるし、モノポリーや人生ゲームに興じるのもいかにもファミリーの余暇という感じ。その意味では決定権を持つハワードは家父長制を象徴する存在とも言えます。娘の写真を見せて思い出を語ったりもします。しかしその娘の話で真相に気付いてからの二幕目で恐ろしさが爆発。「許す」と言った直後のエメットへの銃撃や「溶かす」というのも凄いですが(さすがに見せないけど)、一番ゾッとするのはシェルター内にミシェルと二人きりになった途端に、キレイにヒゲを剃って現れたときですね。少しでも若く清潔に見せよう、とでもいうようなその行為は「父親」から「男」への変貌であり、逃げ場のないシェルター内での虐待や性的抑圧といった支配を予感させます。おお怖い。

冒頭ミシェルは恋人から逃げるように家を飛び出てくるわけですが、思えばそこにも男による支配の影が見え隠れしています。そしてせっかく脱出したのに、今度はとんだサイコ野郎に支配されかねない。もう逃げ出すしかない。序盤の方から機転の利かせ方や思い切りの良さは見せてましたが、お手製の防護服(ペットボトルでイケるというのはちょっと驚き)を着込み、殴って落として燃やして離脱というパワフルで容赦のない全力の脱出劇には、男の支配に屈しない女性の強さが見えてきます。ワケの分からないまま逃げようとしていた序盤に比べ、最後の脱出時のミシェルは倒すべき相手をしっかり見据えている感もあり、その表情は例えるなら『エイリアン』のリプリーのよう。そう考えると、脱出後に襲い掛かってくる「ヤツら」に立ち向かえるのも必定なんですよ。ラストで軍が取り返した安全な方の道ではなく、戦闘経験者と医療従事者を求める道を行くのなどは、まるで『ターミネーター』のサラ・コナー。つまりこれは、一人の女性が自身の力で、運命に立ち向かう戦士になるまでを描いた話なのです。

それにしてもここまで続編っぽさがないとは予想外でした。タイトルも最後の「クローバーフィールド10番地」という地名くらいしか繋がりはなく、別にこのタイトル付ける必要はないですね。ただまあ、そもそも「クローバーフィールド」というのはJ・Jの制作会社バッド・ロボット・プロダクションズの前にある通りの名前でしかないらしく、ひょっとしたらこの名称でSFスリラーのレーベル展開をするという考えかもしれないですね。それはそれで面白そう。「続編」に期待です。

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