2016
06.23

忘れ得ぬ、人の思い。『64 ロクヨン 後編』感想。

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2016年 日本 / 監督:瀬々敬久

あらすじ
昭和64年に引きずり戻す。



七日間で終わった昭和64年に発生し、犯人が捕まらないまとなった少女誘拐殺人事件、通称「ロクヨン」。事件から14年が過ぎた平成14年、新たな誘拐事件が発生した。犯人は身代金2000万円を要求。しかし用意するスーツケースや、身代金受け渡しの手段など、多くが「ロクヨン」をなぞったものだった……。横山秀夫の警察ミステリー『64(ロクヨン)』を映画化した二部作の後編。

前編の感想はこちら。
うつろわぬ、人の思い。『64 ロクヨン 前編』感想。

重厚で激烈な人間ドラマを綴り、そのラストに新たな事件が発覚して終わった前編。後編では、時効まで一年と迫った「ロクヨン」をなぞるような誘拐事件に、広報官の三上を始め警察やマスコミが翻弄されていきます。後編ということで、迷宮入りしていた「ロクヨン」の真実、というミステリーとしての解決ももたらされるわけですが、その間も人々は対立し怒鳴りあい争うという、相変わらずの修羅場展開。そこに透けて見えてくる保身や計算といった黒い思惑。でもそれだけではなく、前編の対立をしっかり活かした関係性を描き、そこからまた別のイニシアティブの取り合いがあったりもして緊張感があるし、執念の結実である事件の顛末には悲しさと空しさで涙します。

前編に引き続き、三上役の佐藤浩市はフルボッコ。これだけ問題を抱えてなおかつ事件解決にも関わらざるを得ないという、『ダイ・ハード』のジョン・マクレーンとは違う意味でツイてない刑事です。そのせいもあって三上を取り巻く広報部の綾野剛や榮倉奈々らが今回も癒しですねえ。キャスティングは前編に引き続き基本的に濃いですが、今回初登場となる誘拐された娘の父親・目崎役の緒方直人が良いです。久々に見たけどやっぱこの人凄いな。女性陣がなかなか目立たない男くさいドラマのなか、三上の妻役である夏川結衣が物語に絡んでくるところは個人的に嬉しいところです。ただ、永瀬正敏の鼻水とか、吉岡秀隆の苦しそうに喋る顔とか、ところどころ少し過剰な演技が気になりました。あと仲村トオルはやはり浮いてる感じ。

あっと驚く、という類のミステリーではないですが、骨太な社会派ドラマとしての見応えがあることは間違いないです。もう少し真相の見せ方にキレ味が欲しかった気もしますが、でもバランスとしては妥当なところかな。ちなみに冒頭に前作のダイジェストがあって、別になくてもいいけどまあそれくらいなら気分も盛り上がるし許せます。しかし「映画史に残る傑作の誕生」と自分らで言っちゃう広告屋のセンスは本当に酷い。作品を信じてないのだろうか。

↓以下、ネタバレ含む。








前編は「組織の枠のために個人が見えなくなる」ということを描いていたわけですが、後編ではそれが逆転していきます。報道として広報部とぶつかって来た瑛太たち、被害者の実名を明かさないという本部の方針に「またそれやるの?」と一瞬構えますが、三上もトイレ張り込みを敢行してこれに応えるなど、意外にも信頼関係が出来ていて一安心。今度は東京の本社がギャーギャー騒ぐというマスコミ内での対立が出てきますが、その中で瑛太の過去が少し見えたりします。上に言われるがまま会見に来たのであろう、まだ新人っぽい二課長、組織のスケープゴートにされて会見中に気絶までした彼が、自分に向けられた罵詈雑言に負けじと徐々に気合いを見せていく姿もイイ。他にも、一課長としての進退を賭けてでも事件に向かおうとする三浦友和のロクヨンへの思い、東京に負けじと本部長の椅子にこだわる奥田瑛二が最後に見せる諦めの表情、警視総監視察の中止に抜け殻となる滝藤賢一の無様さなどもそうですね。何より当の刑事である三上が「刑事はそんなことも分からないのか」と叫ぶところにも、一人の父親としての顔が明確に表れています。

模倣誘拐の犯人は案外サラッと明かされるので「あっ、アレ?」みたいになりますが、その動機こそがキモです。事件に囚われたままの14年間を払拭するため、電話の声だけで突き止める真実。正直「分かるものなのか?」という疑問はあるし、模倣事件の犯人が掠れ声で話しているのにも関わらず三上がすぐ声の主に思い当たるのもさすがに無理がある気はしますが、分厚い電話帳を一軒ずつ当たるというその執念が凄まじい。そこにある、忘れ得ぬ思いの強さに震えます。一方でロクヨンの犯人は「小さな棺」のメモを飲み込むときの鬼気迫る表情に、別の意味で震えます。殺した理由を「そんなこと俺が知るか」で終わるのは物足りない気もしますが、本当に自分でも分からないのかもしれません。ついうっかり、という自分でも理解不能な殺意なき殺人。その動機を説明しろと言われても無理なわけです。狂気宿る目付きの裏に潜むのは、きっと怯えと後悔なのでしょう。

ただ、色々引っかかるところはあります。犯人があの表情で飲み込んだメモがごっそり半分残ってるのはどういうこと?とか。吐き出させたんだろうか?永瀬正敏が子供の前で鼻水垂らしたまんま大泣きするのもちょっと不自然だし、三浦友和の「昭和64年、そこに犯人を引きずり戻す」というカッコいい台詞を佐藤浩市が「雨宮はまだ昭和64年にいる」とあっけなく覆しちゃうのもちょっと勿体ない。とは言え伏線は一通り回収するし(たぶん)、引きこもっていた窪田正孝が出てきたのにはちょっと泣けるし、濃い面子による濃い警察ミステリーとして堪能しましたよ。ラストは原作(未読)とは異なるようなので、その違いも気になるところ。そのうち読むぞ。

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