2016
06.22

旅立ちは意外性と共に。『素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店』感想。

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De Surprise / 2015年 オランダ / 監督:マイケ・ファン・ディム

あらすじ
サプラ~イズ!



大富豪の一人息子ヤーコブは何不自由ない日々を送っていたが、人生を楽しめない自分に嫌気がさして自殺を試みる。しかしなかなか上手くいかないでいる時に、たまたま拾ったマッチ箱で謎の代理店の存在を知る。そこは希望する死に方を提供する旅行代理店だった……というちょっとブラックなコメディ。

高級車がずらりと並ぶ城みたいな家に住み、多くの使用人を抱える大金持ち、端から見れば何不自由なく暮らしているように見えるヤーコブ。しかし幼い頃のある事情により感情をなくした彼は、母の死をきっかけに生きることを諦めてしまいます。喜びもない、悲しみさえ感じられないというのは、冷静に考えれば結構な精神疾患で重い設定ですが、その辺りはわりとライトなテイスト。そうして偶然知った旅行代理店「エリュシオン」で彼が申し込む「死への旅」は、どのように死ぬかは分からないサプライズ・コースです。喜怒哀楽の感情に欠けた主人公、同じく死を望む女性アンネとの出会い、そしてどのように襲い来るか分からない死。これらの要素が絡み合うことによる先の読めなさ、そしてヤーコブが果たしてどうなるのかという結末が気になります。

オランダ貴族であるヤーコブの、大富豪ながら嫌みに感じない紳士っぷり、演じるイェルーン・ファン・コーニングスブリュッヘの超然とした雰囲気が良いです。ヤーコブが出会う女性アンネを演じるジョルジナ・フェルバーンの、いい具合に取っつきやすい美人、という感じも好ましい。エリュシオンの代表であるMr.ジョーンズがいい声してますねえ。この代理店、何となく神の奇跡的な力みたいなのが働くのかな?と、同じくベルギーはブリュッセルが舞台の『神様メール』に引きずられて思ってたんですが、こちらは普通に人為的なものでした。そして話的にもファンタジーではなく、意外なリアリティを持っています。

オランダ語や英語やヒンドゥー語など様々な言語が飛び交う国際色の豊かさに万国共通の死に対する思いを感じます(一部字幕が言語別に色分けされてたりも)。死というものの不穏さを孕み、意外にもアクションなシーンまであり、それでいて上品であったりする。本当にサプライズな展開にはやられます。

↓以下、ネタバレ含む。








死を扱いながらも最初はわりと柔らかい感じで話が進みますが、ヤーコブが旅の延期を申し入れに旅行社に乗り込んでからが面白い。突然のカーチェイス、ギャングのボスのように豹変する店長、そしてそれこそサプライズなアンネの正体。彼女が死ぬ理由がないなあとは思ってはいたんですが、「私がサプライズだったらどうする?」という分かりやすい伏線もあったのに不覚にも気付けず。いや、むしろ驚けてラッキーでした。自然と怒りの感情が沸いたヤーコブとそれにぶつかるアンネとのキスシーンにはちょっと感動までしちゃいましたよ(その直前に一緒に寝たときに何もしてないというのも驚きですが)。契約履行を約束した家族にすんなり気持ちを明かしたり、海辺でステップを踏んだりするアンネが可愛らしいです。

そんな経緯もあって、始まりこそ「死」が蔓延しているものの後味は意外と爽やか。基本コメディだというのはあるものの、死を望む気持ちから生への執着を見せ始める流れを描くことで逆説的に「生」を描く、というのが大きいです。幼い頃の父の死を受け入れきれず感情を失ったまま成長した男が、笑いも怒りも寂しさも取り戻す、そういった感情が生きることには欠かせないという着地点は、妥当ではあるものの納得できるものと言えるでしょう。それだけに屋敷売却の破棄はスリリングだったし間に合った方が痛快だったな、とも思うんですが、さすがにそれではハッピーすぎか。損した分で幸せを買ったということでしょうね。

サプライズはもうひとつ、アンネに殺せと言われた相手が執事のムラーだということです。愛する人を得て生を取り戻した者がいれば、愛する者を失って死へと旅立つ者もいる。しかし死に方を選べるのなら、愛する人に看取られて死にたい。せつなさに泣けます。この物語は言ってしまえば自殺幇助の話ですが、残された者の悲しみを描くことで自殺の肯定を避け、それでいて今後そういったニーズが増える可能性も示唆しているという、意外と深いところを突いてきます。このビジネスをやっているのが独自の死生観を持つインド人であるというのも、倫理というよりむしろ宗教的な死の考え方を含んでいるのかもしれません。

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