2016
06.08

下衆で自由でヒーローで。『デッドプール』感想。

Deadpool
Deadpool / 2016年 アメリカ / 監督:ティム・ミラー

あらすじ
チミ・ファッキン・チャンガ!



恋人ヴァネッサとの結婚を決意した矢先にガンを宣告された元傭兵のウェイド・ウイルソン。謎の組織からガンを治せるとそそのかされたウェイドは、人体実験を受けて不死の肉体を得る代わりに、ただれた身体に変わってしまう。ウェイドは赤いコスチュームを身を包み「デッドプール」となって首謀者のエイジャックスを追う。マーベルコミックの人気者、デッドプールをライアン・レイノルズ主演で映画化したヒーロー・アクション。

デッドプールはX-MENやスパイダーマンにも登場するマーベルコミックのヒーローの一人。驚異的な治癒能力、ヒーリング・ファクターを持ち、軽口を叩きながらも背負った刀で並みいる敵をブッ倒す。しかし最大の特徴は自分がコミックのキャラだと知っているということで、読者に向かって語りかけてきたりする、いわゆる「第四の壁」を破壊するということです。このメタな特性を活かしながら、邦訳では自分を「俺ちゃん」と呼び、徹底してふざけたキャラを貫きます。日本で作ったマーベルアニメ『ディスク・ウォーズ:アベンジャーズ』に登場したときも視聴者に話しかけてきたりアイキャッチを勝手に自分のものに変えたりと凄かったです。

で、そんな特異なキャラの実写化がどうなったかというと、これがもうたーのしー!物語としてはウェイド・ウィルソンがいかにしてデッドプールになったかというオリジンを描くもので、その背景は悲壮的なものであるんですが、原作を忠実に実写化したようなふざけっぷりがキャラとしても演出としても徹底しており、とにかく楽しい。その楽しさに大いに乗せられ、直球すぎる下ネタの応酬もむしろ心地よく、何よりデップーの愛すべきキャラと文字通り観客と一体となる語りかけで、最初から最後まで終始たーのしー!なわけです。

デッドプールことウェイド役のライアン・レイノルズはかつて『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』でもデッドプールを演じているのですが、その時は口を縫い付けられて喋れないというコミックとは全く違うキャラ。その後DCコミックスの実写版『グリーンランタン』に主演するも評価は今一つ、それから苦節10年、デッドプールの正しい映画化に尽力してようやく悲願の成就となりました。エラい。よくやった。ヒロインのヴァネッサ役モリーナ・バッカリンによる強いハートのセクシー美女もエロっ……色っぽい。敵役のエイジャックスは『トランスポーター イグニション』主演のエド・スクレインだし、その相棒の怪力女エンジェルは『ワイルド・スピード EURO MISSION』などのジーナ・カラーノというのもあって、アクションもかなりしっかりしてます。

ヒーロー映画の形をブチ壊し、笑い飛ばす、エロもグロもウェルカムなR15+のアンチ・ヒーロー。かと言ってふざけて終わりではなく、ちゃんとラブストーリーにもなっている(デップー談)。さらに音楽は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のジャンキーXLだ!全く新たなヒーロー映画の誕生です。

↓以下、ネタバレ含む。








あらゆるギャグや下ネタで笑わせてきますが、かと言って作りが粗いわけではないんですね。そのバカさ加減は堅実な物語構成とテンポの良さの上に緻密に組み上げられたものです。だから意外と適当くささを感じない。真面目にふざけてる。真面目に作らないと面白くなんかならないわけですよ。オープニングからふざけまくってますが、あの3Dの回転は見せ方が凝ってるし、そこで流れる「夜明けの天使」が回想が終わって元に戻ったときにデップーのぶつかる車にちゃんと流れてたりします。ミュータント血清を打たれてから蘇るまでは結構シビアだし、それでいて歯に挟まってるネタ(最高)を入れてくる。ラストの巨大空母が傾いて落ちてくるところなどは結構なスペクタクルですが、ちょっとだけ『アベンジャーズ』のヘリキャリアに見えるというのも狙いなんでしょう。こだわってるな、と分かるのが良いですよね。

細かいネタを挙げていくときりがないですが、折れた手がカナダ!と言うのはライアン・レイノルズがカナダ出身だけに可笑しいとか、インド人運転手の斜め上の奮起とそれを煽るデップーとか、三人並んで歩く決めシーンで銃を詰めたキティちゃんリュック忘れるとか、人文字でフランシスとか最高。「俺の名を言ってみろ」と迫るエイジャックスなんてね、もう『北斗の拳』のジャギかと。音楽ネタではやはりWHAM!ですね。ワム!「!」が大事。まさかエンド曲が「ケアレス・ウィスパー」とは予想外でしたが、ちょっとグッときましたよ。「おまえが歌うんかい!」とは思ったけど。映画ネタもアホみたいにブチ込まれてて、ヒーロー映画自体をネタにしたスーパーヒーロー着地、ガンダルフ、マトリックス、スタローン、エイリアン3、帝国の逆襲、127時間、ブレイド2、と拾いきれません。特に『96時間』と『グリーンランタン』には爆笑。これらの小ネタを並べ立てるだけでもブログ1記事分は書けそうです。あ、スタン・リー爺ちゃんがストリップバーのDJだったのはかなりのハマり役です。

あとこれまた予想以上に絡めてくる『X-MEN』ですね。最初にエイジャックスのことを「ミュータント」と呼ぶ時点でX-MENの世界線だと分かるんですが(『アベンジャーズ』などのMCUでは「ミュータント」という言葉は権利上使えない)、いきなり当たり前のように「恵まれし子らの学園」が出てくるというのにはX-MEN知ってる人なら「うおぉぉ!」ですよ。今まであまり陽の目を見なかったコロッサスがクソ真面目なチタンの紳士として大フィーチャー、デップーを感動的にX-MENに誘ったり、ヒーローの素晴らしさを説いたりして音楽が盛り上がったところで落とす、という完全ないじられキャラで好感度高いです。ジーナ・カラーノのポロリに慌て、彼女のキュートな笑顔からの股間パンチに悶絶、という流れが哀れすぎて笑います。もう一人、名前が超クールなネガソニック・ティーンエイジ・ウォーヘッドの何かエネルギーバーン!みたいなのもイイ。修羅場でもツイートを忘れないふてぶてしさと、一瞬見せる笑顔がこれまたキュート。ヴァネッサもそうですが、女性陣はみんな素敵な笑顔を見せてくれるのが非常にポイント高いです。元々デップーはX-MEN世界の人だからいじり放題ですね。しつこいほどのヒュー・ジャックマン推しとか「マカヴォイかスチュワートか」とか「予算ないの?」とか。確かにX-MENは二人しか出ませんが、それがちょうどいいバランスでもあるので結果オーライです。

ウェイドは一見ヒーロー的ではないし、最初にストーカー退治したときから自分でもヒーローであることは否定しています。X-MENの活動を小馬鹿にするし、切った敵の首を蹴り飛ばしたり果ては自分の手首まで切っちゃう残虐性、「ジャイナ」を連呼する下品さなど、アンチ・ヒーローと言われればまあそうなんですよ。しかし実は言葉の端々にウェイドのヒーロー性は滲み出ています。デップーになる前の金の稼ぎ方は「自分より悪いやつを懲らしめる」であるし、ヴァネッサを救おうとするときも「彼女を助け、奴の悪事を止める」と言っているし、ラストには「悪いやつを許してヒーローになるなんてできない」と言う。「悪党は許せない」という思いが根底にあるわけです。加えて実験施設で炎の中、てぃんこ丸出しで串刺しになってるときに、焼かれていく他の被験者に向ける悲しげな瞳には優しさも伺えます。何より愛する者を救うために敵地に乗り込むこと、これは彼女にとってはヒーローそのもの。適当なのにそれだけに見えず、下ネタばかり言うのに爽やかにさえ思えるのは、そうしたヒーロー性がしっかり描かれているからでしょう。そして愛情が真剣だからこそ、ラブストーリーとしても軽くない。見た目を気にする男が内面で受け入れられる話でもある。真面目な点も真面目に作った結果の、優れたバランスです。

原作では素顔はもっとグチャドロなんですが、やり過ぎるとライアン・レイノルズだって分かんなくなっちゃいますからね、本作は彼が頑張ったからこそのアメコミ映画の新たな歴史なので、まあ許しましょう。既に続編制作も決定し、エンドロール後のおまけ(これも最高)で言ってたように、次作では本当にケーブル(X-MENのヒーロー)が出るようです。果たして誰が演じるのかも楽しみですねえ……本当にキーラ・ナイトレイだったらどうしよう。

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