2016
06.06

限りある人生に優しさを。『神様メール』感想。

kamisama_mail
Le tout nouveau testament / 2015年 ベルギー、フランス、ルクセンブルク / 監督:ジャコ・バン・ドルマル

あらすじ
余命を知ったら、どうしますか?



神様の娘である10歳のエアは、乱暴な父に反抗して世界中の人々に死期を知らせるメールを送信し、人間たちを救済するため今まで出たことがない家から街へと繰り出す。そして新たな聖書を作るため、適当に選んだ6人の使徒に会いに行く……という、ファンタジック・コメディ。

神様はブリュッセルの街に家族と一緒に暮らし、世界の管理は自室のパソコンで行っている、という世界観です。聖書になぞらえた章立てで宗教をネタにしているわけですが、説教臭さはありません。キリスト教における神の教え、使徒、聖書などが今の時代に構築されたとしたら、というのをファンタジックに描いています。神の娘エアによって突然余命を知ってしまった人々の反応は千差万別。そんななか人類が生きていくために必用な何かを探す物語は、甘くない現実を映しながらもほんわかしてて、ちょっとした出会いが奇跡なのかもなあと思わせてくれます。

深みがあるのかないのかよく分からない言葉の数々や、あるあるすぎる不幸の法則、どう見てもハンドくん(from『アダムス・ファミリー』)や、どう見てもゴリラ(そのまんま)など、ポップな映像のなかに紛れるオフビートな笑いが心地よいです。エア役のピリ・グロワーヌちゃんが可愛らしくも超然とした感じで良いですね。神の子ということで兄貴のイエス・キリストも出てきますが、これが結構ノリがいい。名前を「JC」と略して呼んでて思わず「ジャッキー・チェンかい!」と思いましたが、そっちくるかー!さすがベルギー映画!

あと本作に出てくる神というのがクズのDV野郎なんですが、人生ままならないな、というのもこんな神のせいだと思えばなるほどと思えるし、その神が創造物である人類にある意味裁かれる、というシニカルな視点もあったりするのが面白い。信仰に値する奇跡とは何だろう、ということを改めて定義しているとも言えそうで、そういう意味でもこれは「見つける話」ですね。

↓以下、ネタバレ含む。








神が人類の管理をパソコンで行い、面白半分で事故や災害を引き起こしているというのは、手軽に人類に影響を及ぼせるという神の全知全能の表れでもあり、かつ世界観ともマッチしていて面白いです(パソコンは誰が作ったんだろう、と思わなくもないですが)。バスタブ浸かったら電話が鳴るとか、パンが落ちたらジャム塗った方とか、そんな不幸の法則を考え付くのもねじくれた性格ってことなんですよね。で、戦争や不幸を与える神なんていかん、ということで、奇跡を起こす力を持つエアちゃんが立ち上がるわけですが、子供なので色々と分からないことも多い、というのがバランスいいです。その人の中にある音楽を聞いてちょっとだけ導く、というのがまた良いですね。

創世記で人類の始まりを、出エジプト記でエアちゃんの脱出、そして6人の使徒による福音書で新・新約聖書が作られるわけですが、この6人が個性的。特に善人というわけでもないですが、共通して言えるのは日々悶々として生きているということであり、彼らは余命を知ることで人生を見直すことになります。色眼鏡で見られる義手の女性は、夢の中で華麗なスケートをする左手に会います。クソみたいな仕事に時間を費やしてきた男は鳥に導かれて「ここ」から出ていき、北極という文字通り行けるところまで行きます。夫にも若い男にも軽く扱われる熟女は、種が違っても愛情を持ってくれるゴリラの方に運命を感じます。性的妄想者は新たな仕事を始めることで青いビキニのドイツ美女と再会するし、人を殺してないのに殺し屋を名乗る男は最初に殺そうとした女にホレることで殺し屋にならずに済みます(妻子はどうするんだというのは引っかかりますが……)。そして余命僅かな少年は今までとまるで違う人生として女の子になることを選び、歌う魚の骨を海に帰す旅に出ます。

それぞれが人生を変えるのが人との出会い(ゴリラ含む)による、と言うのはちょっと綺麗すぎな気もしなくもないです。ただ、余命を知るということは「死」に向かって生きていくということであり、それはとても寂しいことだと思うのですよ。残された時間から逆算して人生設計できるならまだしも、残り二か月とかだと絶望しかないし、逆に数十年あったとしても「死」の影は常に付きまとう。だから人は人と寄り添うことで「死」に対しても絶望せずにいられる、というのが一つの答えとして示されるのでしょう。

死生観が根底にあるにもかかわらず、重さを感じさせない作りになっているのが心地よいところ。誰もが己と向き合い悲壮感漂うなか、ケータイがなくて余命を知りえなかったホームレスが奇跡を書き記す役を担うのは上手いし、彼もまた人生を大きく変えることになるというのが微笑ましい。新・新約聖書がイラストと余白だらけなところに、ゆったり人生楽しもうという思いも伺えます。女神によるお花畑の空を見れば悩むことすらアホらしくなるし、そもそもエアが家を出ることも開けた未来を感じさせます。一方で、人類には不幸を、家族には威圧を与えてきた神は無力化されてウズベキスタンへ送られたり、寿命まで死なないと知って命を粗末に扱うユーチューバーは最後に爆散したりというブラックさも見せてくれる。人は誰しも楽しい人生を送れる可能性はある、しかしそれには相手を思う優しさが必要であり、それを知ることこそが奇跡なのだ、ということかもしれません。

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