2016
05.25

情熱が支える美徳。『殿、利息でござる!』感想。

tono_risokudegozaru
2016年 日本 / 監督:中村義洋

あらすじ
殿!そこはキスアンドクライではござらぬ!



江戸中期の仙台藩、重税で夜逃げが相次ぐ寂れた宿場町の吉岡宿。造り酒屋を営む穀田屋十三郎は、町の知恵者である茶師の菅原屋篤平治から藩に大金を貸し付けて利息をもらうという秘策を聞き、これを実行しようとする。磯田道史の評伝「無私の日本人」の一編「穀田屋十三郎」を映画化。監督は『残穢 住んではいけない部屋』の中村義洋。

財政難からの重税がのしかかり、おまけにお上の物資を全て自己負担で運ぶ伝馬役という役割が輪をかけて、寂れる一方の宿場町が舞台です。『超高速!参勤交代』に通じる日常時代劇ですね。藩に対して千両=約3億円の金を貸すことでその利息で出費を賄おうとする町民たちの奮闘のお話、と書くと喜劇っぽい印象ですが(予告もそんな感じだった)、これが思いの外コメディ色は薄めの人情劇。メインとなる穀田屋十三郎は登場時からして切り捨て覚悟でお上に上申しようとするし、そもそも千両の大金をどうやって工面するのかが壁となるという、わりとシビアな話。そんな困窮した民がいかにして町を守ろうとするか、その工夫と情熱と人情を描きます。

主演は阿部サダヲですが、単独で活躍するというよりはむしろ群像劇に近いです。そのなかでも瑛太は力の抜き具合・入れ具合が非常に上手い。『64 ロクヨン 前編』とはエラい違うキャラだけどすごく良かった。ミスリードを促す絶妙さの妻夫木聡、現実的な判断を下す松田龍平もとてもイイ。あと意外と熱い堀部圭亮と、いかにもケチくさい感じの西村雅彦も面白いです。飯屋のおかみさん竹内結子が『残穢』に続いてちょっとけだるげだけど芯がある、みたいな役で素敵。

「慎み」という日本人的な美学に焦点を当てており、それがもたらす力というものを描いている、と言えるでしょう。話の構成は良くできてるし、痛快さの代わりにじんわりとした暖かさのあるイイ話です。ただ、ちょっと度を越した感じがしなくもない、と思ってしまうのは僕の心が汚れてるせいでしょうか?「実話を元にした」という但し書きがあるからこそ成り立つ話だと思います。

↓以下、ネタバレ含む。








賛同者が次々現れてくる前半はパーティメンバーを募るRPGのような雰囲気もあってワクワクします。特に地位の高い立場の人が同じ憂いをもって加わったり、お上側の役人がこれは捨て置けんと尽力してくれるのが熱い。ただ、どうやって元金千両を集めるかといえば、賛同者が私財を投げうつ、なんですね。それでも足りない。だから集めるのに時間がかかる。ついには飯屋のおかみさんがツケを回収という奥の手まで出してもまだ足りない。なんと足かけ8年かけて貯めるわけです。微妙に作品のテンポが遅いのも、それだけの年月の経過を実感させることに一役買ってます。

基本的に悪人は一人も出てきません。松田龍平の萱場様もさらに搾り取るという鬼畜な面はあるものの(銭と金貨のレートという盲点!)、最終的には約束を守ります。まさかの役者デビューとなったフィギュアスケーター、羽生結弦の殿様は、官位が欲しいからと増税してた諸悪の根元のはずですが、最後は自ら町民たちの元に出向いて礼を言います。歪んだ精神は是正されて穀田屋たちの美徳に呼応するようになっており、全ては高尚な自己犠牲の精神を称えるために演出されます。これはもうこういう構造の話ということですね。正直に言えば、金を出したことを名乗らないのはともかく上座に座ることまで禁ずるという「慎みの掟」はやりすぎに思えるし、浅野屋が店を潰してでも金を渡すと言ったり、その金を「受ける」と言ったときの店の者の安堵の笑顔には少しうすら寒さを感じてしまうし、穀田屋の息子が奉公に出て最後の金を用意するなんて出来すぎだと思います。ただ、人々がそこに至るまでの過程が丁寧なのでそんなに不自然には感じない、というのが上手い。

「皆のため、町のため」と言う美徳は、これがフィクションだったら「そんな馬鹿な」となるところですが、「実話である」と断ることで、穿った目で観ることをあらかじめ抑えておくんですね。実話ベースの映画は特に昨今は多いですが、美談をここまで徹底して美談として語るというのはちょっと珍しい。でもそのやりすぎ感も現代的な感覚で見ればそうなのであって、別に現代でも同じ事をしようと言ってるわけではないと思うんですよ。本気でやるということ、何のためにそれをするのかということ、捨てて得るものもあるということ。そういった今でも通じるような、情熱を持って美徳を成すことのパワーを説いてるんでしょうね。ただし、温泉好きの旦那に「お前もっと出せるだろう」と皆で迫るのはさすがに同調圧力が過ぎるなあと。あれはやめてほしかった。

ラストには現代に残る穀田屋と平和な町の様子が映され、それを見て微笑む先代の山崎努で幕を閉じます。そしてエンド曲がRCサクセションの「上を向いて歩こう」ですよ。この徹底してイイ話とする構造はむしろ潔い。尽力者は称えられるべきだと思うので、慎みをもって伏せられてきた事実が映画となったことは喜ばしいことだと思います。

スポンサーサイト
トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/1074-c953e011
トラックバック
back-to-top