2016
05.08

幻想を希望に変えて。『ズートピア』感想。

zootopia
Zootopia / 2016年 アメリカ / 監督:バイロン・ハワード、リッチ・ムーア

あらすじ
にんじん娘はZPD。



小さい頃からの夢であるウサギ初の警察官となって大都会ズートピアに赴任してきたジュディ。しかしそんな彼女にスイギュウのボゴ署長はまともな捜査をさせてくれない。奮闘するジュディは、ひょんなことから知り合ったキツネの詐欺師ニックに協力させ、カワウソ行方不明事件を追うことにしたが……。動物たちが文明社会を築いた世界で繰り広げられるディズニーのポリス・アドベンチャー。

近年のディズニーアニメにはかつてのピクサーのようなクオリティがありますが、その点で本作もスゴく良くできてます。喋る動物たちがドラマを展開するという、言わばディズニーのお家芸の一つながら、動物たちだけの文明社会というファンタジーを徹底した世界観を持って構築しています。動物ごとの体の大小や特徴を活かした動き、建物や小物の使い分けなどの細かいネタはもちろん、舞台であるズートピアに設けられた様々なエリアによる背景の多彩さ、それぞれの動物が持つイメージの活用やキャラの当てはめ方といった物語の推進を担う点、さらには異なる種族が一緒に暮らす街だからこその事件にまで繋げる全体の構成と、とにかく細部まで練りに練って作ったことが伺えます。監督が『塔の上のラプンツェル』バイロン・ハワードに『シュガー・ラッシュ』リッチ・ムーアという二人体制(さらに共同監督もいるらしい)なうえ、脚本が7人くらいいるという手厚すぎる制作体制なんですね。

ストーリーとしては「なりたいものになれる」と言われるズートピアの街で新米警官が奮闘するというもの。言うまでもなくアメリカンドリームを叶えようとする成長物語なわけですが、前述の作り込みによりそうしたテンプレートをあまり感じさせずに物語に没頭させてくれます。何より各動物の特性を反映させたキャラの魅力には文句の付けようがないです。ぴょんぴょん飛び跳ねるウサギのジュディが見せる真っ直ぐさ、ずる賢いイメージを持つキツネのニックが見せるニヒルさ、このコンビは出会いからラストに至るまで最高。超イラつかせるナマケモノには爆笑だし、ガゼルのバックダンサーのマッチョタイガーがウィングしながらむっちゃアピールしてくるのも笑います。ちなみに原語版では、スイギュウのボゴ署長がイドリス・エルバ、ライオンハート市長がJ・K・シモンズという渋いキャストでシビれます。

やむを得ずジュディに従うニックがやがて見せる本心、そんなつもりはないのにジュディが晒してしまう差別意識、といった実は重いテーマを含みつつ、ポップで華やかなビジュアル、活劇としてのスリル、さらにはミステリーとしての面白さとバディものの熱さまで組み込んだ贅沢な作り。シャキーラの歌う主題歌『Try Everything』も耳に残ります。計算し尽くされた面白さが実際に面白くて、本当にもう「良くできてる!」と唸ります。

↓以下、ネタバレ含む。








この世界では人間はもちろん、一見いそうな鳥類、さらには人間の生活に深く関わる犬や猫、家畜である牛や馬などは排除し、基本的に野生にいる動物、それも哺乳類のみが出演しています。これは人間の関わりを連想させないことで逆に動物たちの姿に人間社会を反映させやすいということでしょう。加えて肉食動物と草食動物の対立という構造に当て込みやすいというのもあって、雑食である猿関係が出ないのもそのためでしょうね。世界観としてノイズになるもの、例えばペットの概念や異種間の婚姻なども排除されています。ちなみに動物たちの縮尺は実物に近いそうで、ジュディがカバに踏み潰されそうになるシーンや、ネズミたちの街の可愛らしさ(このシーンは超好き)などもリアルなサイズ比なんですね。

キャラの魅力については細かい点を語っていくとキリがないですが、少しだけ挙げると、ジュディが鼻をヒクヒクさせたり足をタンタンタンと踏み鳴らす仕草が「ウサギだ!」とか、ニックのミラーサングラス姿が似合いすぎててツラいとか、ナマケモノのフラッシュが異名通りのスピードを見せるラストは最高とか、レミングはやっぱりレミングだなとか、水から出たカバがいちいち服を乾かすの大変そうだなとか、怖そうなオオカミが遠吠えに反応してしまうときの表情とか、あーやっぱりキリがないですね。一番気になるのは、ネズミのゴッドファーザーがどうやってあそこまで上り詰めたのか、なぜ白熊を従えているのかですよ。気になる!一方で俊足の代名詞チーターであるクロウハウザーがどんくさかったり、キツネの赤ん坊のようなフィニックがハードコアなおっさんだったりと、イメージを逆手に取ったキャラがいるのも上手い。あとキリンの車は背が高すぎるので普通の車で首だけ出して走ればいいのでは……と思いましたが、『ハング・オーバー3』を思い出したので却下です。あ、ハエのたかるヤクのいるヌーディストクラブは、あれ皆全裸ですよね?全裸であのポーズは18禁じゃないですかね?

肉食動物と草食動物の違いから発展する偏見が、そのまんま人種差別の話なのは明確です。しかも最初に被差別者として描かれ、それを乗り越えるべく努力していたはずのジュディ当人が無意識での差別発言をしてしまう、つまり差別されていた側が差別する側になってしまうこともある、という反転まで描くことで潜在的な差別の危険性まで示します。そもそものニックとの出会いも、キツネというだけで後を追ってきたからなわけです。しかし付き合っていくうちに打ち解けていくことで、大切なのは種ではなく個であるということを主役の二人に投影していきます。無意識の残酷さに気付き泣きながらニックに謝るジュディにはこちらも泣けてしまうし、それを粋なやり方で許すニックにはさらに泣かされますよ。それでいてひつじの頭フワフワとかナマケモノのトロさといった差別に通じかねない表現を笑いに転化してたりするし、差別を扇動して権力を握ろうとする黒幕のサスペンスにまで繋げて、テーマごと引っくるめて娯楽作に昇華しているのが凄い。

難を言えば、世界のなかでテーマを語るのではなく、テーマを語るために世界を作った、というのをほんの少し感じてしまったことでしょうか。でもそれは悪いことではないし、それ以上に徹底して作り込んだ世界の楽しさにやられてしまうので気にするほどではないんですけどね。そして主題歌『Try Everything』を、ジュディが上京(ちょっと違うが)するときには「希望と不安でドキドキ」というニュアンスで使いながら、ラストの大団円では「まだ道は途中だけど乗り越えよう」みたいな意味で聴かせ、その曲であらゆる動物たちが踊ることで種を越えて問題を共有するところまで示す。「なんにでもなれる」という幻想を希望に変えて終わるんですね。実に良くできてます。

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