2016
05.06

イメージを力と成せ。『ちはやふる -下の句-』感想。

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2016年 日本 / 監督:小泉徳宏

あらすじ
空気を揺らせ、鼓動を鳴らせ。



全国大会への出場を決めた瑞沢高校競技かるた部。一方で幼なじみの新を訪ねて福井へ向かった千早と太一だったが、新にすげなく追い返されてしまう。さらに全国への練習に励む部員たちのなか、同い年のクイーンが大会に出場するという話を聞いて千早の言動に変化が……。競技かるたに打ち込む高校生たちの青春を描く末次由紀のコミックを、広瀬すず主演で実写映画化した2部作の後編。

前編である『上の句』の感想はこちら。
歌の想いを取りに行け。『ちはやふる -上の句-』感想。

前編が素晴らしい青春映画だった『ちはやふる』の後編です。最初に言ってしまうと、高めた期待を軽々越えるとんでもない完成度!『上の句』では瑞沢高校かるた部がチームとなるまでをスポ根的な熱さで魅せてくれましたが、今作ではそこからさらに踏み込んで「個」の葛藤と戦いが描かれます。友を思うあまりにチームから浮いてしまう千早の焦り、そんな千早にあくまで部長として接する太一の思い。せっかくチームとしてまとまったかに見えたかるた部が、全国大会を前にバラバラになる危機を迎えます。しかし二人を決して見捨てない肉まんくん、かなちゃん、机くんが見せる優しさ、そしてかるたを諦めていた新が気付く認識。冒頭から涙腺緩みっ放しで、何度も嗚咽が漏れそうになりましたよ。最高なシーンばかりで語り尽くせる気がしません。

もう、主要人物みんな愛しい!広瀬すずは真っ直ぐすぎる千早役でありながら、今回は特に戸惑ったときの目線やまばたきといった表情の作り方がスゴく良いです。野村周平の太一は、取った札を掲げて背中で語るところが熱い。真剣佑の新はあまり派手な動きがないですがその分存在感で魅せてきてます。肉まんくんのムードメーカーぶりと鋭さ、かなちゃんの包み込むような温かさ、そして机くんの前作とはうって変わった超爽やかさと超優しさ!ドSの須藤さんがまさかのカッコよさを見せるし、ヒョロくんがまたヒョロくんっぽい。しかしそんな最高な面子を、初登場ながら一人で相手取ると言っても過言ではない「クイーン」若宮詩暢がもう凄まじいんですよ。演じる松岡茉優の、様々な感情を込めた壮絶なる微笑!「音」が見所の一つだった『上の句』に対しそれを否定するかのような取り方!ダサい服装!脇チラ!ああ……完全に虜だ……。魅力的なライバルというのがどれだけ重要かを再認識させてくれるという点でも素晴らしいキャラ、そして配役です。

何のために、誰のためにかるたをやるのか。自明に思えることも壁に当たらないと気付けない。そんな青春ならではの苦悩とそれを乗り越える経緯を真正面から描き、それが鼻につかないどころか感動の嵐に変えてくれます。『上の句』で描いたチーム感を下敷きにしてこその個人戦は、情感優先に思わなくもないですがそれ以上にやられてしまった感が強いです。ユーモアのシーンは本当に楽しいし、試合シーンは前作より若干少なめながらそれでも超絶かるたバトルは健在。何かもう色々好きすぎて、オープニングの曲を聴くだけで泣きそう。この物語には魂が震える熱量があります。

↓以下、ネタバレ含む。








■魅せる距離感

今作も凄く好きなシーンが山のようにあってたまらんです。序盤の太一が千早と手を繋ごうとしたところで新がすれ違う、というカットでは声が出そうになったし、直後千早と新が再会した場面を見る太一の表情は映さない、というのも唸ります。吹奏楽部がかるた部応援のために奏でた曲の最後に合わせて柏手2回、礼の流れは狙い過ぎとは思いつつ綺麗だなーと思っちゃいました。笑いどころとしては千早の白目スリーピング健在とか(寝相も酷い)、重機のような音を立てる扇風機の前で固まる二人の顔とか、詩暢にミンチにされてゆるキャラと寄り添う肉まんくんとか最高。

あと距離感の取り方が至るところで効果的です。新の部屋での、近付こうとする千早と壁のある新と離れて見る太一という三人の距離の取り方。墓に手を合わせる新の真後ろにいる詩暢や、食事の席で向かい合って座る二人など「一人」同士を強調する新と詩暢。部室にいる4人と一人電話する千早とを隔てる窓。太一と千早との距離が開いたままの階段上の会話。個人戦での太一と千早と肉まんくんの、離れているのに手前から奥に映すことで近付けて見せる配置。ガラス越しに新に向かって飛んでくる「いつのまにか皆の得意札になっていた」千早の得意札などなど。

千早が大会で倒れた原因がよく分からないとか(雨でずぶ濡れになったのは大会の何日も前だし)、マル秘データが雨のなかでビショ濡れになっちゃうんじゃないかと余計な気をもませたり、といった若干の不満もなくはないですけど、僕にとっては些末です。


■個人と団体

個人技でありながら団体戦という要素は『上の句』にもありましたが、今作ではそれがより鮮明な対立構造として描かれます。個人戦にこだわる千早と団体戦を見据えるメンバー、仲間とのかるたを夢見てきた千早とこれまで一人でやってきた詩暢。これは「何のためにかるたをやるのか」というルーツの話にもなってきます。心を閉ざす新に対し「一人になっちゃいけない」と思うあまりクイーンに勝とうとする千早は却ってチームの和を乱してしまい、かるたを取るのは「自分のため」と即答する詩暢との違いとなります。

一人で抱えてしまうのは千早だけでなく太一も同じで、そんな太一を救うのが他の部員たち。かなちゃんの「部長も一人になっちゃうんですか?」には泣けます。千早のためにかるたをやっていた太一がいつしかそれだけではなくなっていることを見抜く肉まんくんも頼もしい。千早や太一に比べ「千早がいたからかるたをやった」と言うメンバーたちは既にルーツが明確だし、前作でチームとして成り立っています。だから団体戦は千早の欠場であっさり終わってしまい、結果だけが残る。物足りなさがなくもないですが、団体戦は前編で描いているし、個人戦にテーマがあることを考えると後編としては英断でしょう。それにそこには机くんの二連勝という成長を喜び合うメンバーたちの明るい顔があり、千早が「新が教えてくれたかるたの輪が広がるよ」と言うのを明快に伝えています。「瑞沢一勝って言いたかったんだ」と満面の笑顔の机くんを見てるとそれだけで満足ですよ。

一方で周りの見えなくなった千早にチームの大切さを思い出させるのがチームメンバーではなくかつて戦った北央であり、東京代表という責任と共に、個人では成し得なかった長年の積み重ねを受け継ぐという姿勢が「一人じゃない」ということを千早に思い出させる視点として説得力があります。この時だけは須藤さんが超カッコよくてヒョロくんが心酔するのもわかるというもの。マル秘データを借り受けた千早が答えを見つけたかのように走るスピードを上げていくシーンは胸熱。

また個人戦で団体戦のような繋がりを見せる瑞沢の姿を「個人戦こそ団体戦」の真髄として新に見せることで、新は寄り添うのではなく支え合うことの力を、かつて3人でやっていた頃のことを思い出すのです。


■クイーン

新のことを「あのにこにこメガネ」「ぐうたらメガネ」と毒付いたり、レアタオルに目を輝かせたり、タオルの持ち主を知ったときに背筋の凍るような笑顔を見せたり、最高です詩暢様(ついに「様」が付きました)。一人でやることにこだわる若きクイーンを千早はライバル視しますが、勝つイメージが浮かばないほどの実力差があるわけで、肉まんくんが少しでも削ろうとするのさえ何の援護射撃にもならないほど。そんな圧倒的な実力差にはロジカルに攻めても敵うはずがなく、それに対する千早が取った行動が「かるたが楽しかった頃」をイメージするというもの。一見精神論に思えますが、これは緊張を解くという大きな効果となり、取られても引きずらずに次へ集中することができ、一方的な流れを断ち切ることにも繋がっています。しかも最初に取るのが詩暢様が取らせないと豪語していた「しのぶれど」の札というのが熱い。

もう一つ、このイメージの根底にあるのは「かるたをやることの楽しさ」であり、一人であることもチームであることも包み込むものです。これは一人で高めることを具現化したクイーンを貶めるものではなく、原田先生の言う「かるたをやる理由は一つじゃなくてもいい」の根拠にもなります。「またかるたやろう」と言う千早に詩暢様がかすれた声で「いつ?」と聞いてしまうのは楽しかったという返答と同義ですよ。しかもこれに対して千早は「クイーン戦で」と図らずも宣戦布告してしまう。無言で去る詩暢様は新たな「かるたの楽しみ」を手に入れたことを新に漏らす。糸のように繋がるのは札や仲間だけじゃない、これもまた繋がりです。


■ちはやぶる

宣戦布告と言えば、新もまた太一に恋の宣戦布告というね!今作でも三角関係の行方ははっきりしないです。太一に再会したときは喜んで抱きつき、新との再会では泣き出すという違いに「太一……」とちょっとせつなくなりますが、どうなるんでしょうね……(原作はまだ3巻までしか読んでない)

それはともかく、結局瑞沢は団体戦も個人戦も負けたわけですが、それは物語がまだ続くということ。「あらぶる」ではなく「ちはやぶる」姿が光のなかに溶けていく千早の成長を見せ、三年後に迎えるはずのクイーン名人戦へと続いていくのです。いつかまた瑞沢かるた部の面子に会えることを、エンド曲のPerfume『FLASH』を聴きながら夢見ようじゃないですか。

……と思ったらまさかの続編の製作が決定!おおぅ……(感涙)

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