2016
05.02

守るための勇気。『アイアムアヒーロー』感想。

I_am_a_hero
2016年 日本 / 監督:佐藤信介

あらすじ
はーい。(撃つ)



謎のウィルスによって「ZQN(ゾキュン)」と呼ばれるゾンビと化していく人々。冴えない漫画家アシスタントの鈴木英雄は、逃亡中に出会った女子高生の比呂美と共に安全な場所を探してさ迷うが……。花沢健吾のコミックを大泉洋主演で実写映画化したゾンビ・パニックホラー。

凄い!やってくれた!いわゆるゾンビものですが、これを(撮影は韓国らしいですが)日本を舞台にここまでのクオリティで実写で作ったというのがまず凄い。そしてゾンビものとしての蠢く死者の集団に襲われる恐怖がしっかりしている。原作に比べると人間のえげつなさやエロさはちょっと抑えめながら、原作が持つ漫画ならではの怖さを上手く映像に変えてます。R15+だけあってグロ描写には躊躇なし、グッチョグチョの血の海を映し出す。そして我々が普通に暮らす見慣れた現実がどんどん狂っていく恐さ、その中で冴えない男がタイトルを体現する姿を完璧に描いています。

主人公の鈴木英雄を演じる大泉洋の原作イメージぴったり度は『ゲゲゲの鬼太郎』のねずみ男に張るほど(例えが何ですが)。細かいけど「面白ぇなあぁぁ」って言っちゃうシーンとか抜群に良かったです。有村架純の比呂美ちゃんは「君を守る」と言わしめるに十分以上(これ重要)だし、長澤まさみの小田さんも期待通りですよ。意外と良かったのが伊浦役の吉沢悠のクズ野郎っぷりで、無表情でヌルッとした感じにやられます。塚地の最期なども最高だし、てっこ役の片瀬那奈も、あれ感染後も本人がやってるんですかね?凄まじかったです。

原作を知ってると食い足りなさがなくもないですが、凡百のゾンビ映画を凌駕するスリルです。ZQN化する過程の描き方とか、ZQNが個性豊かだというのも良いですね。あと何が凄いって、観終わった後の帰り道、そこらを歩く人がZQNに思えてきてビビるんですよ。この後を引く怖さは『イット・フォローズ』に匹敵すると言っていいでしょう。面白い!

↓以下、ネタバレ含む。








ウィルスの元凶とか感染経路などの余計な追求はせず、ひたすら英雄視点のサバイバルに徹しているのは良いところ。ZQN化するのはがっつり噛まれた場合のようで、英雄がてっこに噛まれた時のように歯が抜けてたらセーフ、赤ん坊のちょい噛みだと比呂美ちゃんのように半感染状態で止まるようです。オッドアイの有村架純というのもなかなか良いな……。ZQNが一人ひとり違った生前の言葉を繰り返し喋るというのが怖いですね。まさかラスボスまで用意してるとは思わなかったですが、むしろ娯楽作として存分にやろうという姿勢を感じます。人間の怖さと怖がり方というものも随所に出ていて、特に伊浦の物静かに鬼畜な感じ、小田さんを性的に支配していたことも匂わせててクズにもほどがあるし、ZQNに噛まれた人たちがギャーと叫ぶのではなく「痛い痛い」って言うのがリアルだし、岡田義徳が噛まれ過ぎて「楽しい」って言っちゃうのはちょっと笑いながらも怖いです。

序盤のてっこが発症する際のドアから覗く視点からもうやられますね。原作でも震えるシーンでしたがむっちゃ怖い。そして逃げる英雄を追うカメラの長回しですよ。何気ない日常で突如襲い来るZQNの脅威、道行く人々が対処どころか理解もしきれず次々と襲われてからの、角を曲がったら大量の人々が逃げてくるという盛り上げ方、交差点での大激突までワンカットで見せるというのがね、素晴らしいです。タクシーで真横にいる風間トオルとのバトルなどは狭い空間&高速でのアクションが手に汗だし、かと思えば山中で出くわしたZQNとの一対一の状況という静の緊張感、からの比呂美ちゃん覚醒などはドラマチック。高跳びZQN新記録達成から始まる絶望感はハンパじゃないし、ショッピングモールの一大決戦は原作以上のギリギリの攻防で魅せてくれます。あとまさかのロレックスの使い方や「テレ東でアニメをやってるうちは大丈夫」などの笑える上手さも良いです。

英雄は漫画が世界最高の文化であるみたいなことを言いながら、その実は芽の出ない35歳漫画家アシであるという理想主義者です。漫画家を諦めるという選択をするには決断力に欠け、漫画のキャラに「俺が君を守る」と言わせるような夢を描き、鏡の前で銃を構えてそれをぶっ放す自分を想像する。一言で言うと高潔な意志を持つヘタレなわけで、ZQN拡大後も彼の優位性は猟銃を持っているという一点のみです。伊浦に銃を奪われて後は「すいません」と言ってそれまで守って来た比呂美ちゃんを小田さんに託してしまう。冒頭でてっこが音量を上げたテレビから聞こえる「とりあえず謝るよねー」をそのままやっちゃってます。頭では正しい行動が分かっている、でも踏み出す勇気がない。人生に対してもZQNに対しても「怖い」という感情が勝っていることが分かるため、ロッカーのなか何度も飛び出しては食われる想像に囚われるという葛藤も凄く分かってしまう。ロッカー内の鏡に映る自分を見たときの心底の悔しさというのが伝わって来て、コミカルとも言えるシーンなのに泣きましたよ。英雄という人物にここまでの血肉を通わせた大泉洋は素晴らしい。

だから「比呂美ちゃんは誰が守るんだ」という小田さんの声により正しい一歩を踏み出すというのが「誰かを助けるために行動する」という、まさにヒーローとしての第一歩なわけです。伊浦に追われる小田さんと比呂美ちゃんの前に颯爽と現れ(クレー射撃のような「はーい」が気の抜けた感じながら)初めて銃を撃つ英雄には、「すいません」で失ったヒーローとしての資格を行動で取り戻すカタルシスがあります。そしてクライマックスのしつこいほどの銃撃シーンにあるのはスリルやアクションとしての凄さだけではなく、折れそうになる心を微妙に感じさせながら、それでもZQNから「守る」という決意の凄さでもあります。だから「生き延びること」以上に「戦うこと」自体に意味がある。笑いの要素だった防御のロレックスを外すことで背水の陣に見せるというのも上手い。

そして本当に全部倒してしまうという展開は、ゾンビものとしては珍しいパターンのような(『ゾンビランド』などコメディ系にはある気がしますが)。「英雄くんがいればきっと大丈夫」と言っていた比呂美ちゃんが思わずつぶやく「ヒーロー」、そして自身のコミックの台詞「俺が君を守る」という理想の台詞を半ば勢いで比呂美ちゃんに告げながら一度は挫けた英雄が、光の中に立つ姿のカッコよさに泣きます。本人はギリギリで凌いだ己をヒーローなどとは思っておらず、「えいゆうと書いて英雄」と説明していた名前を最後は「ただの英雄ですよ」と言いますが、その直後に静かにタイトルが出るのがシビれます。

スポンサーサイト
トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/1065-8f0fb680
トラックバック
back-to-top