2016
04.26

闇を照らす信念。『スポットライト 世紀のスクープ』感想。

Spotlight
Spotlight / 2015年 アメリカ / 監督:トム・マッカーシー

あらすじ
6%の衝撃。



アメリカの新聞「ボストン・グローブ」にある「SPOTLIGHT」という名の特集面。そのメンバーたちが新任の局長の指示を受けて調べ始めたのが、教会の神父による児童への性的虐待だった。しかし調べるほどにその陰にあるカトリック教会のスキャンダルが浮かび上がってくる……という実話を元にした社会派ドラマ。第88回アカデミー賞で作品賞と脚本賞を受賞。

新聞記者たちが聖職者による児童虐待、ひいてはその隠蔽までを調査して世に知らしめようとする話です。ただし虐待を直接描くことはありません。あくまで過去を調査する者たちの視点を崩さないんですね。それは一見地味かもしれないですが、観る者の視点と同期しているとも言えます。題材に比して過激さは抑えられ、ひたすら事実を追い求め地道な裏取りを続けるメンバーたち、そして過去に起こったことを語り涙する被害者たち。同期した視点により、観る側も徐々に過去を知っていくことになるのです。

めげることなくタフに真実を追い求めるスポットライトの面々、皆が持つ熱量にやられます。『アベンジャーズ』シリーズで怒れるヒーロー・ハルクを演じたマイク役のマーク・ラファロは表に出すぶん特に分かりやすいですが、『バードマン』では妄想ヒーローだったロビー役のマイケル・キートンの使える経路を駆使する手練れ感や、『誰よりも狙われた男』でもクール・ビューティーだったサーシャ役のレイチェル・マクアダムスが、冷静に取材をしながらも揺るぎない信念を感じさせるのもイイ。スポットライトメンバーもさることながら、『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』では文字通りワイルドだったリーヴ・シュレイバーが演じる、柔らかそうなのに決して引かない局長の渋さも凄く良かった。『君が生きた証』ビリー・クラダップの終始にこやかながら二面性を持たざるを得ない弁護士も良いです。

宗教絡みの話ということでピンとこないという意見もあるかもですが、問題の背景は宗教に限らないんですよ。巨大な権力を持つ組織、ここではキリスト教会ですが、そんな組織の隠蔽体質により個人の犯罪が隠され、そのために一生泣く者がいる。それが想像できるかどうかです。これは想像力を問う作りの作品と言えるでしょう。

↓以下、ネタバレ含む。








表立って激昂する人もほとんどいないため山場が薄いようにも感じますが、スポットライトのメンバーが取材を重ねるうちに明らかになる事実には戦慄するし、彼らの内面の驚きと怒りは随所に感じられます。特ダネを逃したくないから早く公表しようと迫るマイクが「今も虐待が行われているんだ」と本音を爆発させたり。「いつかまた教会に行くと思ってた」と漏らす台詞にはどこかで教会の良心を信じたいと思っていた心情が垣間見えます。ロビーは友人にさえ容赦しない鬼のチーフぶりで、枢機卿の差し金かという問いに「まさか」と答えるピートに対し最後に「枢機卿のコメントがほしい」と言うのが渋い。サーシャが被害者を真っ直ぐ見つめながら「私たちは決して諦めない」と言うのもシビれます。マットが気分転換に書く本がホラーだと言うのは気分転換になってねーよ!と思うんですが、それも皮肉を込めたジョークなのかも。

宗教ならではの神に対する思い、煩雑な手続きが壁となる裁判、地位と信用を守るための保身、権力を奮い横槍を入れる組織など、多くの厄介なものが取材を妨げます。9・11に重なるタイミングの悪さもある。それでもバロン局長は諦めません(深い声と落ち着いた態度のリーヴ・シュレイバーの演技は素晴らしい)。局長は着任当初から個人ではなく教会という組織の隠蔽するシステムそのものに迫る姿勢を崩しませんが、そこには目の前の犯罪を取り締まる警察では出来ないことをやろうとする新聞記者としての矜持を感じます。電話で情報提供する精神科の医者は神父全体の6%、実に90人が虐待をしていると言いますが、それが実際に判明した人数と大差がないことが衝撃。ラストに虐待があったという教区のリストが300近く連なる様は壮絶で、取材で聞いた会話や調査結果のデータといった本編での見せ方を最後まで貫きながら、その淡々と並ぶ事実に戦慄させられます。

ただ、新聞が正義だとヒーロー視しているわけではないんですね。ロビーは20人の神父告発を受け流したのは自分だった、という事実を告白します。個人や組織の裁量で報じられる範囲が決まるという危うさもジャーナリズムにはある、ということであり、下手をすれば事を公にしないよう休職させる教会の体質と同じに成りかねないわけです。神にノーとは言えない、だけではなく、報道されない事実は誰にも分からない。光が当たらなければ闇には気付かない。そこを描くのはフェアであると言えます。

クリスマスの讃美歌に重ねて締め切りが迫るなか、ついに掲載される世紀のスクープ。我慢できずに電話対応の現場に来てしまうロビーとマイク(奥の方にちゃんと局長もいる!)は、鳴り止まない電話にボストンの街そのものが抱えていた闇、引いては世界が抱える闇を明らかにしたことを知ります。一方でスタンリー・トゥッチの演じる弁護士が2週間前に虐待を受けたという子供たちを保護していることを知るマイク。もう少し早ければ救えたかもしれない犠牲者まで映し出し、ズシリとしたものを心に残します。

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