2016
04.06

歌の想いを取りに行け。『ちはやふる -上の句-』感想。

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2016年 日本 / 監督:小泉徳宏

あらすじ
心(と壁)に刺さります。



高校に入り「競技かるた部」を作ろうとする綾瀬千早は、再会した幼なじみの真島太一も巻き込み部員集めに奔走する。かつて千早、太一と共にかるたに打ち込んだ綿谷新との再会も経て、全国大会を目指していく。競技かるたに打ち込む高校生たちの青春を描く末次由紀のコミックを、広瀬すず主演で実写映画化した2部作の前編。

原作未読で臨みましたが、すんごい良かった!男2女1の幼なじみの関係、試合を勝ち上がっていくチーム戦、ユニークなキャラなどコミック的なベタ要素は多いのに、役者陣の魅力と映画的に盛ったドラマチックさがストレートに響いて実にフレッシュ。間の取り方で笑わせたり、わりとあるスロー描写が意外と使いどころの的を得ていたり、非常によく出来てます。

加えて競技かるたという独自の世界の新鮮味もあります。テレビのニュースで見た知識くらいしかないですが、体育会系に匹敵する運動量と迫力には驚き。走り込みとか素振りとかするんだなあ……といった知らない人には意外な世界ながら、特に難しくもないので入りやすいです。個人的に小学校の頃少々百人一首を嗜んだこともあるので、ちょっと懐かしさもあります(あんな激いのはやったことないですが)。意外にもスポ根であったりするんですが、しっかりかるたの内容も絡めてくるのが良いです。

メンバーが個性的と言うか、原作を反映してるのであろう大げさなキャラ付けなんですが、これが意外と浮いてない。ひとえに演者たちの表現力と、それを上手く引き出す演出手腕が冴え渡ってるからですね。広瀬すずは『海街diary』とはまた違って元気で直情的なヒロインですが、まあ上手い。白目をむいた寝顔の可愛くなさは絶品です。また太一役に野村周平、新(あらた)役に真剣佑(千葉真一の息子!)とイケメンを揃えていながら、嫌みのないキャラなのですんなり受け入れてしまいます。『舞妓はレディ』の上白石萌音は奏役の雰囲気ぴったりだし、机君役の森永悠希、肉まん役の西田優征もイイ。あと『ソロモンの偽証』のヤンキー清水尋也が須藤役で出てましたね。

5人の団体競技で、うち二人が弱いというギリギリ勝てるメンバー構成というのはドラマを作りやすいというのはありますが、そこに後悔や弱気といった各人の心情、過去の影響、仲間の絆などを盛り込み、かつ根底にある恋愛模様をあまり煩く感じさせないというバランスの良さが実に素晴らしく、極上の青春ドラマに仕上がっています。もう終盤はボロ泣きですよ。あと音ですね、畳を叩く音、かるたの滑る音などのダイナミズムが気持ちいい。音楽も良いです。エンド曲はPerfumeだしな!前編だけでこの完成度、後編への期待も膨らみまくりです。

↓以下、ネタバレ含む。








間の取り方やシーンの繋ぎが凄く良いんですよ。太一が千早をおぶって歩くシーンの太一の独り言で時の経過を匂わせたり(あれアドリブらしいですね、素晴らしい)、須藤の「え、寝てるの?」みたいに画の切り替えでこそっと入れる台詞で笑わせたり。端的な台詞で背景を分からせるのも上手くて、全く描かれない中学時代も太一はサッカー、千早は陸上をやっていて、中学にはかるた部がなかったのだというのも分かります。そういった繋ぎ方、台詞の選択のバランスがとても上手いため、わりと多用されているスロー映像なども却ってしっくりきており、静のシーンでの緊張感、動へ移るときの速さの切り替えに効果的に働いています。最後に千早が太一に飛び付いてくるスローシーンには思わず笑いますが、それも泣き笑いになっちゃうので爽快。

視点を太一中心にしてるのも統一感があって良いです。千早が奏ちゃんに語る以外は過去シーンも太一の回想。新の眼鏡を隠したときに地蔵が見ていたというカットでその後の運に見放されたことまで表すのには唸ります。太一は最も心情を語るのに最も想いを秘めているという点が、リア充イケメンなのに嫌みを感じないところですね。千早の初顔見せ、屋上に飛び込んできた千早の足元で桜の花びらが舞うシーンの美しさは、千早がヒロインであることを決定付けると同時に、太一視点の千早というものも感じられます。太一絡みでは「青春全部賭けても敵わない」と言う太一に國村隼の先生が「全部賭けてから言いなさい」と言うのがちゃんとした大人の返しとして印象深いです。

一方で千早は大事なことは全部言葉にしてしまうタイプですが、恋愛関係については全く心情が語られず、全て行動のみの描写にとどまっています。駅のホームで新に電話するときは緊張のあまり直後に白目爆睡したり、かるた部を作る、試合に勝つなど要所で新に連絡しようとする姿が新に対する無自覚な恋心に見えてしまうため、太一の想いに当てられると非常にやきもきします。「ちはやぶる」に太一がこだわる理由はすぐ察しがつきますが、それを「千早の歌だ」と言ったのが新であるというのがね、「やだ!三角関係!?(きゅん)」みたいなね!

これは原作由来でしょうが、物語にかるたの意味をきっちり取り入れているのが深みがあってスゴく良いです。太一に再会した千早が言う「せをはやみ」が、別れてもまた戻るという意味だと後で分かったり、運命を語る太一に先生が持ち出す歌が「このたびは」だったり、「うっかりはげ」の意味を説明した奏ちゃんが、後で千早の話を聞いたときに「うっかりはげ」だと見抜いたり。特に机くんの「もろともに」ですよ。机くんが孤独を好むのは他者との関わりで自分が傷付くことを恐れるためで、そこに事前に千早が述べたこの歌への思いを文字通り「ぶつける」わけです。そして机くんの肩を叩くメンバーたち。もうね、机くん絡みは全編泣けますね。もちろん和服大好き奏ちゃんの百人一首フェチっぷりの面白さ、コメディ担当の肉まんくんが抜群にムードメーカーかつ実は強いというのも最高。

クライマックスの北央学園戦は、そんな机くんの復活、自由を取り戻した千早の本気、運命に翻弄される太一の決意、そして名実ともにチームとなる瑞沢かるた部、ととんでもない熱量。運命戦はブラフで引っかけたように見えかねないところを、それまでやらなかった素振りや、狙う札が「ちはやぶる」であるというこれ以上ない盛り上げ方があるので気になりません。千早の目のアップだけでなく、太一の目のアップも映すのが熱いです。

序盤に千早が動くときシュバッ!って立てる音や、「どこの業者かと思った」という見事な作業姿や、合宿や大会ででボロ負けした三人の落ち込み方など、大げさなギャグも上手くハマっています。それでいて静の文化に動の競技性を持たせたかるたの両極をきっちり描く。かるた自体も、壁に刺さったり(凶器か)、サーッと滑ってちょうど段差でカタリと落ちたり(どうやって撮ったんだろう)、表情を見せていてニクい。そして越えるべき壁であるかつての友、その友が言う「もうかるたはできん」という引き。このメンバーたちが全国大会でどんな活躍を見せるのか、冒頭に出る三年後の千早にどう繋がるのか。早く「下の句」が観たいぞ。

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