2016
04.04

知識で得られぬ実感。『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』感想。

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Mr_Holmes
Mr. Holmes / 2015年 イギリス、アメリカ / 監督:ビル・コンドン

あらすじ
山椒はボケに効くの?(未確認)



かの名探偵シャーロック・ホームズはかつて不可解な行動を取る妻の素行調査を依頼されたが、その事件を機に探偵業を引退することになる。あれから35年、93歳となったホームズは家政婦の息子ロジャーを助手に最後の推理を始める。老いたホームズ役をイアン・マッケランが演じるミステリー・ドラマ。

あのシャーロック・ホームズが年老いたら、というパスティーシュが原作です。『SHERLOCK』とは違い原典に基づいた話ですね。英国の朴訥な田舎風景のなか、時折鋭い眼差しを投げる男として登場する老ホームズ。しかしこれが思った以上によれよれのおじいちゃんです。ミツバチの世話をしながら家政婦に皮肉を聞かせる、めんどくさい頑固ジジイにしか見えません。そんな老ホームズが探偵を引退したきっかけとなった事件について手記をまとめようとするんですが、なにぶんお年なのでなかなか昔のことも思い出せません。これは過去と現在を行き来し「思い出す」ことで事件が解決していくという一風変わったミステリーなんですね。

そんなホームズを演じるのがサー・イアン・マッケラン。『ロード・オブ・ザ・リング』『ホビット』のガンダルフや『X-MEN』シリーズのマグニートーでもお馴染みですが、とにかく「イアン・マッケランはやはり凄い」というのを目の当たりにします。93歳の現在のホームズ、58歳の過去のホームズの演じ分けは、メイクの効果を抜きにしても素晴らしい。家族を持たず孤独な余生を送るホームズ、それでいて時折見せる眼貌の鋭さにゾクゾクします。そんなホームズと親しくなっていく少年ロジャーがまたいい子なんですよ。ちょっと『メイズ・ランナー』のニュートにも似てるマイロ・パーカー君が利発で可愛らしい。真田広之も出てますよ(アクションはナシ)。

『ヴィンセントが教えてくれたこと』なんかもそうでしたが、過去を悔いる孤独な老人と未来を担う聡明な少年、という組合せは擬似的な爺さんと孫の話として泣けます。それでいてホームズものとしても成立しているし、やけに日本が関わるのも面白い。素晴らしく良かったです。原作は内容が随分違うという噂も聞くので、読んでみたいところです。

↓以下、ネタバレ含む。








本作では3つの事件が描かれます。探偵引退のきっかけとなったアンの事件、父と別れたウメザキとの話、蜂の死の謎。1つ目に関しては既に決着が付いているわけですが、ホームズおじいちゃんがなかな思い出せないんですね。そのため記憶を取り戻すことで(観る側に)事実が明らかになっていき、その思い出した記憶のなかで推理を披露していくという二重の構造。さらに並行してウメザキとの話が描かれ、それらを回想しつつ現在のホームズのドラマ、そして蜂の死という謎が提示される、というなかなかユニークな作りです。結構頻繁に行き来するものの各エピソードにはそれぞれの特徴があり、かつ整理されているので、特に混乱することもなく観れるのはバランスいいですね。もちろん93歳と58歳を演じ分け、さらに倒れる前と後でも変化を付けるイアン・マッケランの演技には感服します。ヨボヨボだったのに、突然目に光が宿りロジャーの母の行動をピタリと当てる推理力には「ホームズだ!」とシビれまくり。

35年前の事件では、楽器教室での行動や毒の入手などの経緯を解き明かしながらも、子供を失ったアンの絶望自体を取り除くことはできなかったホームズの悔恨が強く表れます。アンに「孤独ではないか」と聞かれ、「知識で埋めた、不満はない」と言うホームズ。それはワトソンと別れ、逃れようのない孤独から自らを守る言い訳でもあったでしょう。ワトソンは結婚してベイカー街を去りました。アンは子供を失い自ら命を絶ちます。ウメザキは父親を失った悲しみを持ち続けてホームズを呼び寄せるまでに至ります。家族というものを持たなかったホームズには、知識としてはあっても実感することは出来なかった「家族」に関する話ばかりなんですね。兄のマイクロフト、大家のハドソン夫人、そしてワトソン、関わった人々が皆この世を去り感じる孤独。原作では終始「ワトソン」とファミリーネームで呼んでいた相棒を、本作では「ジョン」と呼んでいるのも、失って膨らんだ親愛の表れかもしれません。

ホームズの心情は言葉で語られますが、ベラベラとモノローグで説明するのではなくあくまで文章での語りなのがいいですね。つまりホームズが手記を書くのは自分が抱える後悔や孤独と向き合うためであり、だから言葉にすることが大事なのだ、と考えるとしっくりきます。加えて、失われゆく記憶への屈辱と絶望。山椒を探しに日本まで行ったホームズに「それは余計な"希望"だ」と言う医者の言葉に耳を貸さないのもその裏返しでしょう。そんなホームズの前に現れた少年ロジャーは、隠遁生活を送るホームズに何かと話しかけ、倒れたホームズを救い、ミツバチの世話までする。おまけに聡明。家族のないホームズが「家族」を実感するに十分すぎる存在です。ホームズが決して無感情のマシーンでないことは原作の端々に見られますが、それを明確に打ち出すのは驚き。しかしそれこそがこの物語のキモなんですね。それまで記憶を失う不安や弱音は吐きながらそれでも理性的であろうとした名探偵が、蜂に刺されて倒れた少年を見て「ロジャーは私の宝物だ」と言って泣き崩れる。その姿には涙せずにいられません。

父を亡くしたロジャーに「君が話を作れ」と言って、蜂、ガラス、ロジャーでお題を出すホームズ。かつてロジャーの父が寝るときに作ってくれたお話の手法を、今度は息子が受け継ぎます。そうして家族は成り立っていくのでしょう。知らずにその成り立ちの一端に関わるホームズ。最後は大地に祈りを捧げているんでしょうか、ついに家族の実感を得たホームズの姿に、爽やかさな思いで満たされます。

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