2016
04.01

彼が彼女に変わるとき。『リリーのすべて』感想。

The_Danish_Girl
The Danish Girl / 2015年 イギリス / 監督:トム・フーパー

あらすじ
肉体と言う名の檻。



1926年のデンマーク、風景画家アイナー・ベルナーはとあるきっかけで自分の中に潜む女性性に気付いてしまい、心と身体が一致しない事態に葛藤する。肖像画家の妻ゲルダはそんな夫の様子に戸惑うが……。世界で初めて性別適合手術を受けたリリー・エルベの実話を描いた伝記ドラマ。第88回アカデミー賞で助演女優賞を受賞。

自身がトランスジェンダーと認識してしまう人物アイナーことリリー・エルベとその妻の物語。ちょっと複雑なのは、アイナーが結婚していてちゃんと夫婦として成り立っていること。実際はバイセクシャルなのか、みたいな問いは意味がありません。重要なのは肉体的には男性でありながら女性の心を持っていたことに気付いてしまったこと。この「気付いてしまった」という痛ましさに、それが幸か不幸かというのを感じずにいられません。しかし痛ましさを感じるのは妻のゲルダに対しても同様。むしろそちらの方が響いてしまうのは、取り残される者の悲劇があるからでしょう。ちなみに1920年代という時代は性のマイノリティにはまだ厳しい時代だと思うんですが、それは本作ではさほど描かれてはいないです。

『博士と彼女のセオリー』でのホーキンス博士に続き難役をこなすリリー役のエディ・レッドメイン、さすがに凄いです。美しく着飾った姿を抜きにしても、ちょっとした仕草、なめらかな指の動き、はにかむ表情など、もう圧倒的に女性なんですよ。アカデミー主演男優賞ノミネートも納得。『コードネームU.N.C.L.E.』でも素敵だったゲルダ役のアリシア・ビカンダーは、脱いだ服を放っておくとかキセルみたいなタバコのくわえ方とかちょっと雑さがあるんですが、そこが逆に男勝りな魅力。二人ともかなりギリギリの線まで裸体を晒しており、それによりさらに肉体の「性」が強調されます。最近では『ロブスター』が面白かったベン・ウィショーも出てますね。あとハンス役のマティアス・スーナールツという人がプーチンにしか見えないのはどうすればいいのだろうか。

今の自分が本当の自分と絶対的に違うと気付いてしまう不幸と、それを是正していくことによる幸福。演出がちょっとドラマチックにすぎるし、正直リリーは身勝手すぎるとも思うんですが、もうどうしようもないというのも伝わってくるのがやるせないです。

↓以下、ネタバレ含む。








アイナーとゲルダ、二人とも画家であり、彼らが描く絵の美しさと、風景の美しさやリリーの美しさとが相まっています。風景画家のアイナーが人としての美に惹かれ、人物画家のゲルダがラストに絵と同じ風景を見やるというのも印象深いですね。アイナーは美醜にこだわっているわけではありませんが、やはり見た目の違いというのは大きいのでしょう。衣装やメイクの美しさ、指で触れるシルクの感触、そういった女性的(とアイナーが感じる)ものに対してどうしようもなく惹かれてしまう。そして女性モデルの代役、女装してのパーティーを機に本当の自分に気付いてしまいます。パーティーでのベン・ウィショー演じるヘンリクとのキスシーンでは具合が悪くなるアイナーですが、これは自分の行為が間違いであるとまだ思っているからでしょう。ハンスとキスをしたという過去話以外、それまで自分を押し殺していたという描写はほとんどないのですが、無意識に理性で抑え込んでいたというのが垣間見えるシーンです。

そんなアイナーがゲルダと結婚までしたのは、異性云々を超えて人として好きだったからというのは前半の二人の仲睦まじいやり取りからも感じられます。それだけにゲルダの目の前で「アイナーは死んだ」と本人が言うのはツラい。ハードボイルドな話で「昔のおれは死んだのだ」みたいに言うのとは全然違います。性同一性障害だけでなく人格まで二重になったようにさえ見えてきて、それだけ本当の自分と今までの自分の乖離が際立ちます。画家として故郷の風景を描いてきたのに「風景を思い出せない」と言うのも、別人と化してしまったアイナー=リリーを表す台詞として象徴的。ち○こを意識するだけで不快を示すようになるほど肉体に対する逃れられない嫌悪は強く、切り取ることにも躊躇がないです。リリーは手術前の病室で一人涙を流しますが、それは本当の自分になれる嬉しさという単純な感情と言うよりは、代わりに失った過去や関係、ゲルダに対する思い、それでも止められない自分など、多くの思いが混ざり合ったものに感じられます。

それでも支え続けてしまうゲルダをリリー以上に描くのはとても良かったです。リリーとして楽しそうに食事の用意をする残酷さを見せられ、リリーがアイナーを別人のように扱って、でも本人が目の前にいるのだからせつない。リリーに「全てうまくいく」と言いながら思わずハンスに寄り添ってしまったり、逆にハンスに「全てうまくいく」と言われても決して元には戻らないことも分かっていたり、葛藤するのはリリーだけではなくゲルダも同様。原題の『The Danish Girl』は「デンマークの少女」という意味ですが、これはリリーと同時にゲルダのことも指しているのでしょう。しかしこれが「Girls」と複数形にはならずに終わるところが悲しいです。

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