2016
03.26

ボクたちの帰る場所。『アーロと少年』感想。

The_Good_Dinosaur
The Good Dinosaur / 2015年 アメリカ / 監督:ピーター・ソーン

あらすじ
ダメ。ゼッタイ。



巨大隕石による恐竜絶滅が起こらず、恐竜が唯一言葉を話す種族として生活している世界。父親に頼りっぱなしの弱虫の恐竜アーロは、ある日川に落ちて激流に流されてしまう。見知らぬ土地で孤独に怯えるアーロだったが、人間の少年スポットと出会い共に家を目指して旅立つことに。恐竜と人間が逆転した世界で子供の成長を描くピクサー・アニメ。

恐竜が絶滅しなかったら、というifの世界で、主人公は喋る恐竜です。アーロは体も小さく臆病な子供で、兄や姉が農作業を手伝うなか鶏の世話もろくに出来ない。そんなアーロが別れと出会いを経て逞しくなっていくロードムービーの趣です。ちなみにアーロは恐竜です。話だけ聞くと人間と変わらないですね。あえて人間ではなく恐竜を主役に据えたのは、逆だとピクサー作品としてはキツいものがあるからでしょう。大自然における生死を描ききるために、殺しあい食いあいが画的に許される恐竜にしたということには意義を感じます(ってそこまで残酷性はないですけど)。

その上で恐竜ならではの表現の豊かさが素晴らしいです。アパトサウルスやTレックス、プテラノドンにラプトルまで、それぞれの姿形を上手く使った人間のような生活風景、そして体格を活かして家畜を使わずに畑を耕したり、馬に乗らずに牛を追ったりと、文字通り人馬一体となるのはとても良いアイデア。また、ストレートな成長物語とみせて、成長せざるを得ない現実の厳しさや、その過程にある特異な者たちとのやり取りが実に面白いです。舞台的に連想するのは西部劇ですが、試練に満ちた旅と寓話的な物語はどこかギリシャ神話を連想しました。人間の子であるスポットは『モンスターズ・インク』のブーとはまた違った可愛さ。友達やペットと言うより相棒と言った方がしっくりくるかな。そんな一頭と一人の道行きは『インサイド・ヘッド』とはまた異なるアプローチの成長譚となっています。最後はもうボロ泣き。

背景はピクサー史上最高の美麗さ。でもそもそも実写映画でも背景がCGのものは多いわけなので、実写のような背景が凄いと言うよりは、実写のような背景とコミカルデザインのキャラが混在しながら違和感がない、という方が凄いです。キャラの肌の質感がリアルすぎるのもありますが、美しすぎる背景はむしろギリギリ実写ではないレベルに押さえてるのかも。

ピクサーおなじみの同時上映の短編は『ボクのスーパーチーム』。インド人の親子とヒンドゥーの神がモチーフなのかな?意表を突いた上に大胆な着眼点ですが、身近な存在も捉え方ひとつでヒーローになるというのは良かったです。

↓以下、ネタバレ含む。








農耕器具でありそれを操作する者でもあるというアパトサウルス、カウボーイであり馬でもあるというTレックスというような、恐竜ならではの表現はとても楽しいです。ラプトル対Tレックスという『ジュラシック・パーク』のバトルを再現してくれるのも熱い。ただキャラクター的にはブッ飛んでる者も多いです。トリケラトプスは神秘的な佇まいで哲学者のような言葉を伝えますが、ひょっとしてただの危ないおじさんなのでは……という気もするし、プテラノドンのイナズマドカンは「天のおしめ(お告げ)を授かった」とか言って完全に狂った宗教家。ウサギを助けておきながら食べることに変な理屈を付けるのがさらに狂気じみてます。『ジョーズ』のヒレが雲から下に突き出てるような登場にはちょっと笑いますが。Tレックス兄弟は結構まともですが、自分を齧ったワニの歯が口のなかに刺さっててそれを嬉々として語るのが、傷を勲章として語ることのデフォルメとして面白い。

そんな人々(人じゃないけど)との交流や対立に捻りが効いているのが良いですね。訳の分からない予言をされたり、親切かと思わせて襲い掛かってきたり、帰り道を教えてもらう代わりに働かされたり。父親に頼りっぱなしだったアーロの甘えに対し「世の中は甘くない」という教えになってるんですね。変なもの食ってラリっちゃうのも社会の厳しさを知る一環、と言えなくもない……いやまさかあんなトリップ・シーンを入れてくるとは、小さいお子さんにはトラウマものでしょう。最高です!あと虫ね。デカいよ!いやひっくり返さなくていいから!

進化したのが恐竜の方なので人間のスポットは子犬みたいな描かれ方ですが、知性より野生を特化させたのはバランスでしょう。おかげで大自然に一人ほっぽりだされたアーロといいコンビになってます。岩に挟まれたアーロの足が抜けるように土を掘り返していたり、ビビるアーロを促したりとささりげないシーンが実に上手い。共に旅をするうちに同じような境遇であることを知ってより親密になるわけですが、これが自分が一番弱いという甘えからアーロに欠けていた「他者を思いやる気持ち」を育てることにも繋がります。スポットを鉄砲水から救おうとしたり、ホタルの群れの幻想的な美しさを見せてあげたりと、アーロの行動は父親の行動をなぞるものになっており、父がどんな思いでアーロを救ったかも身をもって理解する。だから帰ってきたアーロを母が一瞬父と見間違うのも合点がいきます。

父がアーロに言う「お前は強い子だ」はアーロを励ます意味もあったかもしれませんが、同じセリフをTレックスのブッチが言うのはアーロの行動を見てのことであり、道中で成長を遂げていることを客観的に示す言葉になっています。そしてプテラノにさらわれたスポットを救いに向かう勇気、スポットを人間たちの元へ帰してやる優しさ、そして地面に円を描いて示す家族の大切さと畳みかける。ここで去って行くスポットたちが「手を繋いでいく」というところが今度は逆に人間ならではの表現で良いですね。最後にアーロが家族の印を押すところはもう納得するしかない。別れは人を強くする(人じゃないけど)、そんな王道をまた違った視点で描くところがさすがのピクサー・クオリティです。

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