2016
03.23

カイカンの向こう側。『セーラー服と機関銃 -卒業-』感想。

salorhuku_to_kikanjyu
2016年 日本 / 監督:前田弘二

あらすじ
橋本環奈ちゃんマジ天使。



成り行きで弱小ヤクザ目高組の組長となっていた18歳の少女、星泉。組の解散後は商店街のカフェを切り盛りしながら普通の女子高生に戻っていたが、モデル詐欺にあった女性の相談をきっかけに新興勢力の不穏な動きに巻き込まれていく。1981年の薬師丸ひろ子主演、相米慎二監督の『セーラー服と機関銃』のその後を、人気アイドル橋本環奈主演で映画化。

元々は赤川次郎の小説ですが、映画としては薬師丸版の続編ということになるんでしょうかね。ただあの終わり方では続けようがなく、そういう意味ではリブートでもあります。ここらへんどっち付かずなのはまあしょうがないでしょう。というわけで主人公の星泉は最初から極道、というか紆余曲折あって解散した目高組の元組長です。組長となった経緯や解散のいきさつは劇中でも語られるので前作未見でも大丈夫。そもそも女子高生がヤクザの組長という時点でリアリティなどないわけですが、そこをどれだけ違和感出さずに力押しするかというのは前作でもやっており、それは今作にも受け継がれています。自分たちの街を食い物にするインテリヤクザに対し、引退した元組長が立ち上がる流れは結構自然。

でも全体的には、正直どうしても「え?」「なんで?」と思ってしまう不思議展開の連続ではあるんですけどね。とは言えアイドル映画としては文句はないなあと思うのですよ。この場合の「アイドル映画」とは、主演アイドルのポテンシャルを映画的に最大限引き出してるという意味で、ホメてます。それくらい主演の橋本環奈ちゃんはマジ天使。演技経験がほとんどないわりには演技も悪くない、と言うか非常に堂々としていて、脇を固める俳優陣に全く引けを取りません。それでいてカラオケのステージでマイクを持ったときの姿は現役アイドルのオーラに溢れているし、雨のなか環奈ちゃんと二人きりの倉庫というシチュエーションで濡れ髪で見上げられたときは萌え死にました。時折ハスキーになる声も可愛い。ただ、ただなー、圧倒的に色気が足りないんだなー。まあ、だから天使なんですけどね。

驚くほどの長回しなどは前作を意識してるのかなとも思いますが、そこでの環奈ちゃんの変化の描き方には唸ります。ただその他の凝った映像、手ブレやレンズフレアの多用などはちょっと演出の意図が分からなかったです。環奈ちゃんの顔の脇に過去映像が流れる回想シーンなどはダサすぎて目を疑ったし。前作にあった状況の変化に対する戸惑いとか価値観の多様化などは少なく、今作の星泉はわりと真っ直ぐです。そのせいか展開のわりに緊張感や悲壮感には若干欠けますが、それでも橋本環奈のアイドル力にぐいぐい引っ張られること請け合い。あと長谷川博己や安藤政信もなんか面白いです。

↓以下、ネタバレ含む。








全体的に現代の雰囲気を取り込んでいるので、コテコテなヤクザはあまり出て来ないですね。月永を演じる長谷川博己はヒゲ面でクールに喋るのがなかなか良い雰囲気で、アクションもさすが『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』で魅せただけあります。殺し屋との一騎討ちシーンはカッコいい。でもちょっとスゴむ演技が合わないんですけどね。安井を演じる安藤政信は全くヤクザっぽくない敵役としてなかなかユニーク。優しくたしなめたり突然ブチキレたりと行動が読めないところに危ないヤツ感が漂います。ただ、キレ方にバリエーションありすぎて却ってキャラがブレてる感じが残念。いつも殺し屋以外の手下がどのくらいいるかハッキリしないので、組織の大きさが分かりにくいのもスケール感を削いでます。殺し屋とティー男(だっけ?柄本時生です)の見た目が被ってるのも紛らわしい。

カフェと言いつつ駄菓子を売ってる商店にしか見えないめだかカフェは、最初は酷いと思ったけど意外に物語と合ってました。目高組の若い衆、祐次くんと晴雄くんもいい味。カフェで泉と三人で「背が小さい」「器が小さい」と言い合うシーンはアドリブっぽさがあって微笑ましい(「おっぱいが小さい」と言い出すのではとヒヤヒヤしましたが)。泉が商店街の年寄りと親しげに話すのを見て周囲にはわりと慕われてるのかなと分かるので、年寄りを食い物にし若者にドラッグをばらまく新興勢力に対して憤る理由にもなってます。ただそのわりには住民たちにカフェに詰め寄られ店を滅茶苦茶にされたりするんですよ。他にもちぐはぐな場面は色々あるけど、エモーショナルになりそうな別れのシーンがいまひとつなのは痛い。最後の祐次くん、余裕で拾って逃げれるよね?とか、兄貴を置いて運転する晴雄くんは悲しんだりしないのか?とか(これは自分も撃たれたからでしたが)、伊武雅刀の浜口組組長が安井に諾々と従いすぎで屈辱感が足りず、最後に歯向かおうとする場面が弱いとか。肉食ってる場合じゃないですよ。

有名すぎる台詞「カイカン」を冒頭で言わせてしまうのもちょっと拍子抜け。ただ終盤の怒りまくって乗り込んだ場面で「カイカン」言ってたらアホですからしょうがないですね。代わりに「思い通りになると思うな」って叫んじゃうのは観る者への牽制にも感じます。前作の「カイカン」は生と死の狭間で生きていることの実感として出た言葉だと思うのですが、そういう意味では泉はその段階を既に過ぎており、機関銃持って乗り込むのは生き急いでいるようにも見えてきます。でもあくまでまだ子供なわけで、だから泉が安井を最後に撃たず月永が代わりに撃つのも、ウザさ際立つ武田鉄矢が全て背負って一人だけ出頭するのも必要な流れではあるのでしょう。死人はいっぱい出るけど、泉は結局誰も殺してないわけです。あくまでまだ子供であるが故の周囲の無意識な選択。長回しの逃亡シーンで、泉が月永に壁ドンされてちょっとドキドキ、そのあと走ってるときに笑みがこぼれちゃうところも完全に恋する少女。橋本環奈の子供っぽさはこの展開に合っていると言えます。

そうして慣れ親しんだ仁義を重んじる古いヤクザは姿を消し、子供の自分を「綺麗だ」と言ってくれた男との別れを経ての、泉の「卒業」です。一見蛇足に思える卒業式のシーンは、今までの子供時代の自分との訣別として必要なんですね。そしていきなり歌い出し、アイドル映画であることを唐突に思い出させる。ここでこの名曲の歌詞が俄然活きてきます。「さよならは別れの言葉じゃなくて」と自ら物語を振り返り、前向きに締め括る橋本環奈は、まさに堂々たる主役。かつて薬師丸ひろ子が見せた以上の主人公性を見せつけるラストは、多くのヒロインを生み出した角川映画的だとも言えます。
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