2016
03.13

分かりにくさという罠。『マネー・ショート 華麗なる大逆転』感想。

The_Big_Short
The Big Short / 2015年 アメリカ / 監督:アダム・マッケイ

あらすじ
ストレス解消にはドラムを叩こう。



長く市場を席巻してきたサブプライム・ローンの危険に気付いた金融関係のはみ出し者たちが、市場崩壊を前に勝負に出るという、世界経済に大打撃を与えたリーマンショックに至る過程を描く金融ドラマ。マイケル・ルイスのノンフィクション『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』を原作にアダム・マッケイが映画化。第88回アカデミー賞では脚色賞を受賞しています。

金融用語がバンバン飛び交うマネードラマです。これがお固い題材に比して非常に面白い。2005年のニューヨーク、金融トレーダーのマイケルが住宅ローンのサブプライムの危うさに気付き、いつか暴落すると踏むところから物語は始まります。そんなマイケルの思惑を察知した銀行家のジャレッドは、ヘッジファンド・マネージャーのマークに近付き儲けようと企み、一方で若き二人の投資家ジェイミーとチャーリーもまた同様の投資のため、引退した伝説の銀行家ベンを引っ張り出す。あらすじだけ見るとかなりシリアスですが、それをコメディタッチな演出とスピーディーな展開で見事に娯楽作へと転化しています。それでいて金に踊らされる人たちを笑い飛ばすというふうにはしておらず、金融界の杜撰さ汚さにしっかり警鐘を鳴らす真剣な話にもなっている。このバランス感覚は凄い。

言葉に馴染みのない人は油断すると置いていかれますが、一応初心者にも分かるよう台詞でも表されてたり、登場人物が観客へ語りかけてくるいわゆる「第4の壁」を超えるコミカルな説明もあったりするので、ちょっと難しいけどノリで観れます。なにしろ監督のアダム・マッケイは『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』という、刑事バディものでありながら金融界と戦う傑作バカコメディを作った男なのでそれも納得。金融という題材や観客への語り掛けなどは『ウルフ・オブ・ウォールストリート』を彷彿とさせますが、人物を掘り下げるというよりは群像劇ですね。

その面子も豪華。Tシャツ短パン姿で職場でメタルを聴きまくるマイケル役に『アメリカン・ハッスル』『ファーナス 訣別の朝』クリスチャン・ベール、過去の不幸を払拭するため仕事に打ち込む倫理の鬼マイク役に『フォックスキャッチャー』の怪演も記憶に新しいスティーヴ・カレル、大胆さと悪びれなさで一攫千金を狙うジャレッド役に『ドライヴ』『オンリー・ゴッド』ライアン・ゴズリング、伝説の銀行家ベンに『それでも夜は明ける』でもいいとこ取りの役だったブラッド・ピット。このビッグネームたちのアンサンブルも良いです。若手コンビのジョン・マガロとフィン・ウィットロックがまたフレッシュな視点から見せてくれて上手い。

原題の『The Big Short』とは「空売り」、実物資産なしに債券暴落時の損失額を保証してもらう保険のようなもの。この空売りで利益を得ようとする話なわけですが、サブタイトルから連想するような痛快作ではなく、捻れて腐った金融の仕組みをえぐり出し、それをモラルの話にまで繋げてみせるという苦さが提示されます。それでいて軽快な編集で引き込まれる。これは面白い。

↓以下、ネタバレ含む。








サブプライム、MBS、CDS、CDO、空売りと、耳慣れない単語やあまり分かってない用語のオンパレードで最初は正直付いていけるか不安でしたが、マーゴット・ロビーのセクシー・バスタイムで「まあいいか!」ってなりましたね。いやこのシーンにはブッ飛びましたよ、斬新な演出とエロさに。おかげで説明がいまいち頭に入らなかったくらい(ダメだろ)。他にもセレーナ・ゴメスや、料理で例えるシェフ(この人も飲食業界の食材使い回しという不正を暴露した本人らしいです)などが仕組みを分かりやすい例えで教えてくれたりします。

まあそれでも分かりにくいんですけど。金融業界的な視点や用語解説などは他に説明しているブログさんが色々あると思うし、公式サイトにも用語解説載ってるのでそちらを参考にしてください。重要なのは、それだけ親切に説明しても「分かりにくい」世界だ、ということです。サブプライムは劇中でも出たストリッパーなど収入の低い人々に売られまくりますが、安心安全の甘い言葉に乗せられて実態が分からず買ってしまう人も多かったことが示されます。売る方は証券会社が買い取ってくれるからひたすら売ってあとは知らん顔。格付け会社はライバル社に持っていかれないようろくな審査もせず高ランクを付ける。でもそんなの買う方には分からないわけです。この分かりにくさを盾にした倫理観皆無のやり方にマイクたちは怒り心頭なわけですね。本編中でもジャレッドがジェンガ的なもので説明するのに対し「わざわざ積み木まで使いやがって」とキレたりするのも、キレイにまとめた表面的にはウマい話だから、というのはあるでしょう。

で、この分かりにくさを看破した者たちがCDSを買うわけですが、その成果が出るまでが結構長い。その間にMBSを取り巻く問題か次々と映し出されるんですが、扱う当事者たちのクズっぷりもさることながら、利用者である住宅購入者が置き去りにされる姿の方がキツいわけです。マイクたちの実地調査、見た目ギャングかという男が可愛い子供と共にドアに現れて、話を聞かされても動揺するしかない。ベンはチャーリー、ジェイミーの浮かれる若者二人に、金融の破綻で職や家を失う人がいることを明確に指摘する。だから最後にサブプライム・ローン破綻で儲けを出しても、そこに華麗さなどは微塵もなく、ただ苦さだけが残る。これはもう、そういう作りになってるんですね。ジャレッドなどはそれを承知で開き直るのがいっそ清々しいですが、どこか滑稽にさえ見える。マイケルは自分を信じ続けて勝ち、ローレンス社長に金も返すけど、その後社長が出てきて非を認めるような場面も特にない。マークたちが会った調子こいてた二人組が戸惑う姿には多少溜飲が下がりますが、大銀行の放漫さ、格付け会社のいい加減さが罰せられることもない。責任の所在はもはや明確化できず、ただ金も家も失う人々が溢れるという恐ろしい結末がある。まるでパンデミックです。

当時の風景や人々、娯楽、スター、音楽などの細かいショットを繋いだコラージュ、マーク・トゥエインや村上春樹の引用など、見せ方はひたすら面白くて引き込まれますが、決して甘いまま終わらない。分かりにくさで誤魔化された結果を描き、モラルの欠如を問うているんですね。チャーリー、ジェイミーの若者二人が空っぽのビルに潜り込むラストでの台詞、「何がいると思った?」「大人たちかな」というのが実に印象的。そこには思いやりやモラルを持った大人は存在しなかったわけです。ベンが二人に協力したのも、そんな業界の真の姿を見せるためだったのかもしれません。

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